第44話 君とオフの日に


僕の思惑通りに事が進み、まんまとふたりでラーメン屋にやって来た。狭いテーブルに向かい合って座ったとき、嬉しさのあまりつい笑みがこぼれるのを俯いてなんとか隠す。



「スバル」

「ひえ?!」



ニヤついているところを見られたのかと思い変な声が出たが、どうやらそうではなかったらしい。メニューに視線を落としたまま、相川くんが口を開いた。



「何だよその声。お前のおすすめどれ?メニューの」

「あ?!ああ、僕はここに来たら絶対これ!」

「じゃあそれふたつな」



いつも食べるお気に入りのメニューを指差すと、相川くんはなんの躊躇いもなく決めて、店員を呼んだ。これふたつお願いします、と僕の分も注文してくれる。こういう振る舞いひとつひとつがスマートな人を見ると、つい惚れ惚れしてしまう。



「相川くんってモテるだろ」

「お?嫌味か?」

「そりゃ僕はモテるけど、嫌味じゃないで~す本心で~す」



思いっきり憎たらしい語尾と変顔セットで言い返すと、それを見て少しだけ笑ってくれた。嬉しい。



「モテてたら彼女いるだろ、普通に」

「彼女いないからってモテないとは限らないじゃん!」

「そうなの?」

「そうだよ!ちなみに僕にもモテてるよ?」

「……枯れ木も山のにぎわいだな」

「わざわざ小難しい言い回しでディスらないでよ!」



今度は声を出して笑ってくれた。嬉しい。




相川くんは短めの黒髪がよく似合う顔をしている。三白眼で目つきがちょっと悪いのも、軽薄そうな薄い唇も、手足が長くて僕より背が高いところも、すべてが彼の外見にしっくりきていて見飽きることがない。



比べるように、僕は21年間見てきた自分の顔を頭の中で思い浮かべた。

まつげが長いアーモンド型の大きな目と、きれいに通った鼻筋。笑ったときにのぞく小さな八重歯。色白なので薄銀色に染めた髪の毛がよく似合う。美形とよく言われるし自覚もしているが、あんまり男らしくはない。

だからだろうか、自分には持っていないものを持っている人に、惹かれる。







ラーメンは美味しかった。僕の大好物を相川くんにも食べさせることができたので、今日はいい夜だ。



「あー美味かった。今度はあえて違うメニューにしてみるのもいいなあ。気になる」



なんて彼が何気なくつぶやいた言葉にも過敏に反応してしまう。それは僕と、また一緒にここに来てくれるということ?そんな、ほんの少しの期待をして。



「わかる!僕も、いつもこれって決めてたけど、実は違うのも気になってたんだ~!!」



急いで言ったら、僕の顔を見て相川くんが薄く笑った。



「ラーメン食ったから暑くなった?顔、真っ赤だけど」



心臓がどきんと、跳ねた。

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