第35話 本音を君と
どうして家がバレているのだ、というのは今さら愚問である。こいつはGPSにより俺の居所を知ることができるので、自宅の場所についてはもうとっくに把握していたのだろう。
「お前なにしに来たんだよ!」
ストーカーか!!という言葉をギリギリのところで飲み込んで(会社まで来たこともあるのだからそんな質問はするだけ無駄だと気づいたからだ)、動揺しながら聞くと、スバルはにっこり笑ってポケットからなにかを取り出し、差し出してきた。
「これ。届けに来たんだ、優也のスマホ」
「え?」
「デビルジャムの卓の上にあったの、夕陽くんが見つけたんだよ。途中で帰ったから、そのまま忘れてたんじゃないの?」
確かにそうだ。しかも、帰っている途中も、帰ってきてからも、スマホが手元にないことに1ミリも気がつかなかった。俺はどうやらそれどころではなかったらしい。
「忘れてるよって連絡してあげようと思ったんだけど、よく考えたらスマホ僕が持ってるしできるわけないなって気づいて。それで考えた末、直接渡しに来たんだ」
「あー、そうだったのか。悪い。俺、今朝かなり酔ってたみたいで、ぜんぜん記憶がないんだよなー」
ははははは、と白々しく笑って受け流す。スバルはたぶん怒るだろうけど、むしろそこからが正念場だ。我慢比べと言ってもいい。俺は、覚えてないの一点張りで戦う。
と決意しながらちらりとスバルの顔を見ると、そこに怒りの表情はなかった。むしろ逆で、微笑んでいた。その微笑みは、無理に明るく装ったような、ずたずたに傷ついた表情を必死に隠そうとしているような、痛々しいものだった。まただ、心臓のあたりがずきずきする。
「……そうだよね。僕もそうじゃないかと思ってたんだ。だから大丈夫」
……なんだこれ。
「じゃあ僕、これで。」
気がついたら踵を返そうとしたスバルの肩を掴んでいた。
「ごめん。嘘」
「優也?」
「本当は全部覚えてる。どんな顔して会えばいいかわかんなかったんだ。ごめん」
「あの、謝らないで」
「散らかってるけど、少し上がって行けよ」
言いながら、どうして、と考えていた。それから、いやもしかして、とも考えていた。ずきずきと心臓が痛み続ける。俺はどうしてスバルと知り合ってからというもの、思っていないことを言ってしまったり、考えてしまったりして、自らの調子を狂わせてばかりいるのだろう。
ずっとそれが不思議だったけれど実は逆で、自然と思ったことや考えたことを、理性の部分が否定したがっていただけなんじゃないのか。
「……いいの?上がっても」
スバルがどうしたらいいかわからない様子でおずおずと尋ねてくる。まあお前が嫌じゃなければな、と、いつものごとく素っ気なく返した。
リビングまでの短い廊下を歩きながら、取り返しのつかない方向に進んでいっているような気がした。気づきたくないもの、認めたくないもの、受け入れたくないものが、俺の中にはあるんじゃないのか?もうずっと前にそれは生まれて、少しずつ大きく育っていたのでは?俺はそれを、ずっと見ないふりして過ごしてきたのでは?
心臓がずきずきする。昨日からもうずっとだ。大体これ、本当にずきずきなのか?万が一どきどきだったらどうする?
勘弁してくれ、自殺案件だそんなもん。
認めたくない。絶対に認めたくない。
……でもやっぱり。
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