第41話 君とデビルジャムで
僕の好きなタイプをそのまま擬人化したような人が店に来た。
脳味噌がそう理解した瞬間、わーどうしようどうしよう、と、ポーカーフェイスの裏側で心の中がぐちゃぐちゃになる。こんなこと今まで一度もなかったのに、これが一目惚れというやつだろうか。
名前も知らない彼は、いつも夕陽くんを指名している愛衣ちゃんの連れだった。初めて見たけど、今までも来たことあるのかな?
その席からこちらが死角になっているのをいいことに思いっきりガン見しながら、つい口に出して呟いてしまった。
「いや、どう考えてもタイプなんだけど」
彼は目つきが少し悪くて、どこか冷たそうな、だるそうな雰囲気を漂わせている。愛衣ちゃんと来たということは夜の仕事をしてるんだろうか。
「あ。角の席の子ですか?かわいいっすよねえ」
内勤の悠人くんが隣で同意しているが全然ちがう。あんな低身長ロリはまったくタイプではないし、むしろぶりっ子なので僕とキャラが被っている。普通に苦手だ。でも否定するのもめんどくさいのでそのままガン見を続けた。
「悠人くん、僕あそこについていいかな?ちょうどさっき指名の子見送って、いま手空いてるし」
「いいですけど、他の指名客がそろそろ来るんじゃないんですか?」
「うん……でもまだ来てないから、ギリギリまで……どうか……」
「わ、わかりました」
柄にもなく懇願するNo. 1ホストに根負けしたのか引いたのか、悠人くんが渋々頷いた。わかりました、のわが聞こえた時にはもう僕は歩き出していた。食い気味もいいところだ。
「え、スバルさん?!ちょ、角の席じゃなかったんですか?」
背後から悠人くんの声が聞こえるけど無視!僕の目的はその隣の席なのだから。
「はじめまして、碧スバル(あおい すばる)です」
なにを隠そうその瞬間こそが僕と優也との、出会いだ。
◆
「彼女はいるんですか?」
僕は仮にもNo. 1ホストで、接客のプロのはずだ。なのになんだ?この大学生の飲み会のような質問は。自分で驚愕する。しかも初対面なのにプライベートに踏み込みすぎじゃないか。気になったことがそのまま口から出てしまっている。
「なんで?」
案の定ぶっきらぼうに返されてしまった。でも僕はめげない。
「かっこいいし僕のタイプだから気になって!」
「なんだよそれ、鳥肌立つわ。お前そっち?まさかなあ」
「そっちってどっち?僕は博愛主義者なの。男女関係なく好きな人が好きなの~」
こうやって冗談めかして伝えれば、誰も本気にしない。僕はいつもこうして、嘘偽りなくカミングアウトしているというのに。
不思議そうな顔をして、一瞬だけ間をおいてから彼はふっと笑った。
「……いないよ」
「え?」
「彼女いねーって。あと彼氏もな」
僕の発言が本当か嘘か判断しかねて、傷つけないように洒落で返してくれたのだ。そんなことわかってる。
でも、そういう小さな優しさが、僕の胸に大きく響いた。
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