第42話 君とデビルジャムで


帰りのエレベーターの中で、僕は彼に予言をした。……それは予言という名の願望だった。



『僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなる気がする。』



彼は顔を上げて、不思議そうな表情でこちらを見る。



『なんだよそれ?』

『わかんない。勘かな。』



頼むから当たってくれ!と、柄にもなく神頼みなんかをしてみたくなる。多くは望まない、多くは望まないからせめて、どうか、親友くらいにはなれますように。神様!







「スバルくん、なんかいいことあったのぉ?」

「ん~~~?別にっ」



目を見張るような美貌の夏菜子ちゃんは、僕の太客だ。歓楽街でも有名なキャバクラのNo. 1で、ほとんど毎日湯水のようにお金を使ってくれるから、飲み屋界隈が不景気なんていうのは嘘なんじゃないかとさえ思えてくる。お金は、あるところにはあるものだ。



「ねえ、夏菜子ちゃんはさ、お客さんのこと好きになったことある?」

「あたし?ないよお。なんでそんなこと聞くの」

「いや、ちょっと気になったから」

「なにそれ。もしあるって言ったらどうした?」

「えー?嫉妬する」

「よく言うよ、全然思ってないくせに~」



ばれた?と言って笑ったら、このやろーと言って僕の脇腹を小突きながら彼女も楽しそうに笑った。

僕は基本的に色恋営業をしない。と言うと、わかるよ~面倒だもんなあ、と返してくるホストが大半だが、実はちょっと違う。僕は恋の辛さをよくわかっているので、擬似だとしても女の子をそういう苦しい気持ちにさせたくないのだ。それに、さいわい僕は美形なので、色恋で引っ張らなくてもお金を使ってくれる子が有難いことにたくさんいる。アイドル営業と僕は名付けたのだけれど、ググってみたらホスト界ではすでにそういうスタイルがあるらしく、僕が第一人者ではないと知って興醒めした。いくら女子力が高くてもやっぱり男だから、なんでも一番がいいのだ。



「なに?スバルくん、好きな人できたの?」

「そうかも。男なんだけどね」



冗談だと思ったのか、きゃはは、と長い脚をばたつかせて無邪気に笑っている。



「だれだれ、えー、夕陽くん?!」

「やめてよ!ないよ!かわいい系じゃん!」

「え、なにその否定……ガチなの……?」

「引かないでよ!冗談だよ!」

「だよね、もーやだあ」



散々笑った後、「でも私だったら全力で気持ちを伝えて絶対成就させるなー、お客さんだろうと関係ない!」と夏菜子ちゃんは力強く言った。



「別の女の子を指名してようが、脈がなかろうが、なんとしても手に入れる!自分を選ばせる!No. 1の名にかけて!」



さすが売れっ子キャバ嬢だ。かっこいい。僕は心の中で盛大な拍手を贈った。

相川くんは果たして、好きな人、と言えるだろうか?会ったばかりだし、まだまだ気になっているレベルではあるが、その気になり方が尋常ではない。



「でもスバルくん、まだ彼女作らないでね?意外と真面目だからホストやめちゃうんじゃないかって心配だよ。あたし、まだこうしてデビルジャムで一緒に遊んでたいからさあ」

「だからー、冗談だって言ったろ?いないから、好きな人なんて。大丈夫!」

「ほんと?よかったあ」



いるのは異常に気になるイケメンだけだし。どうせ、振り向かせるとか叶えるとかの次元ですらないのだ。だから僕はせめて、相川くんの親友を目指して頑張りたい。

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