第40話 君といつまでも
俺は結構、衝動的な人間だ。あれこれと考える前に、気持ちに正直に身体が動いてしまう節がある。
それをスバルも理解しているからだろうか、俺が自発的に会いに来たことで、このクソホストはいま完全に有頂天になっている。
こういうときはかわいいな~より腹立つな~が上回る。安定だ。
「優也~好き~!」
「わかったから。しつこい」
「ぎゅーってして~!」
「しない」
ソファに並んで座ったまま、圧倒的美形という天から授かった最大の武器を利用し、べたべたくっついてこようとする。そうやってかわいい顔をしてもだめだ、俺は騙されない。
攻防戦を繰り広げつつ、スバルが見たいと言った白黒模様の犬がたくさん出てくるDVDを見た。自分ひとりなら絶対に見ないようなメルヘンな世界だが、真面目に見てみると案外楽しめたから驚く。それでもエンドロールが流れる頃には、今日一日仕事をしていた俺はすっかり眠くなってしまっていた。
「めちゃくちゃ眠い」
目を瞬かせている俺の顔をスバルが覗き込んだ。
「疲れてるから仕方ないよ。僕はまだ起きてるから、ベッドかソファで寝ても大丈夫だよ?」
「んー、でもまだ大丈夫かな」
「……僕の前で寝るの怖い?」
「はあ?なんで俺がお前如きにビビらなきゃなんねーんだクソホスト」
まったく心外である。
「むしろ襲う勇気があるなら襲ってみやがれ。返り討ちにしてやる!」
「……!」
「……あ、やっぱ今のなしで。」
眠くて頭がおかしくなってるんだろうか俺は。
「ふふ」
「なに笑ってんだよ」
「いや。僕さ、優也に絶対からかわれてるなって初めは思ってたんだけど……なんか色々と、疑うの馬鹿馬鹿しくなっちゃって」
「お前は俺をどんな非道な人間だと思ってんだよ……!」
「思ってないよ!思ってないけど!!……傷つくの怖かったから、そうやって予防線張ってたのかもね」
思えば、スバルはいつも不安だったのかもしれない。明るく振る舞う一方で、病んだり、自己嫌悪に苛まれたり、後悔したりしながら、安心できるいつかを心では無意識に願っていたのかもしれない。
「なあスバル」
「ん?」
「恋人になるか」
スバルの目が点になるさまを、この数日で俺は何回目撃したのやら。
「……は、え?」
「あ、もうなってる感じだった?」
「な、なってないけど!!なるけどっ!!!!」
スバルは今度はへたり込んだりせず、逆に立ち上がってなぞの剣幕で怒鳴ってきた。相変わらず顔は赤い。完全にパニックに陥っている。
「ふは、なんだよそのテンション」
「優也こそなんだよそのテンション!急に言うなよ!心臓に悪いよ!僕死んじゃうよ!大好きだよっ!!」
俺なんかこの結論に至るまですでに三回くらいは死んでるわ。
三回死んで、生き返って、観念して、向き合うことに決めたのだ。自分の気持ちと、スバル本人と。
しばし間をおいてようやく落ち着いたスバルが、しおらしく提案してきた。
「とりあえず……記念にちゅーする?」
「お前あんま調子乗んなよ」
「じゃあ好きって言って~!好きだから会いに来てくれたんだろ~!恋人だろ~!」
「俺はそういうのはな、いちいち口に出さねえの!だから全部行動で示すの!わかれよ!」
「ちぇ。わかりました~」
絶対にわかってないなこいつ。と思いながらとりあえずちゅーはしといた。直後、お互い赤面で死んだ。
(一部 完)
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