第39話 君といつまでも


スバルからはあの後も以前と変わらず、頻繁に連絡が来ている。基本的に女子みたいに構って欲しがるやつなのだ。



【やっと仕事終わったよー】

【行ってきます!好き!】

【おやすみ優也】



などなどそれはもう非常にくだらない内容で、俺も今までと変わらず八割無視、二割返信のスタンスを保っていた。もちろん意識しているわけではない。もともとマメな男ではないのだ。



ある仕事帰り、22時過ぎくらいのこと。いつものように駅から自宅まで歩いているところ、スバルからメッセージが来た。時間的に遅めだけどいま出勤か?と思いながらスマホを取り出し、画面を確認する。



【換気扇が壊れて店が休みになったよ~!急でびっくり~!とりあえず朝まで映画でも見て過ごそーと思う。好き】



あ、なんか。



ふと気がついたときには着信履歴を開き、電話をかけていた。



「もしもし優也?」

「あー、メッセージ見たけど」

「ねー、びっくりだよね?!ぼろいビルだから仕方ないけどさあ。ちゃんと点検もしてるのに」

「まあ、なんか、飲食店は大変だよな」



デビルジャムがあるのは歓楽街でも有名などでかい雑居ビルだが、いかんせん築年数が古い。こういうこともままあるのだろう。歩みを早めて、通りがかったタクシーに乗り込みながら俺は考える。



「そういえば前に優也、ホストやめろって言ってくれたよね」

「え?ああ、勢いでな。……まったく思ってないわけじゃないけど」

「僕あれ、すごい嬉しかったんだよなあ。本当に近い将来、やめるよ」



責任持てないけどいいのかよ。と思ったが、うわーだせーなー俺。と実感して黙り込んだ。窓の外を流れていく景色を見やる。俺はスバルとどうなりたいんだ。いや、どうなりたいとかはない。断じて。



「……ねえまた、動物園にも行きたい!」

「めちゃくちゃ行ったばっかじゃん、嫌だ」

「そうだけど、楽しかったから~」

「まー、水族館かな。行くとしたら」

「え、いいの?!」

「もう少し暖かくなったらな」



電話口でスバルが嬉しそうに笑っていて、俺まで嬉しくなる。



あいつはどこからどうみても男だ。綺麗な顔をしていても、華奢な身体をしていても、女々しくても、完全な男だ。だから絶対に勃たない。ちょっとエロいことしたいとかもたぶん一生思えない。じゃあ俺の、スバルに対する好きってなんなんだろう?でも、そもそも女の子を好きになるときだって、エロいことしたいから付き合いたいとか、それだけじゃ絶対にないはずだし。



考え始めると分からなくなってくる。だらだらと通話しながら金を払い、タクシーを降りて、建物に入っていく。



「ん?優也タクシーだったの?仕事帰りだよね?」

「まーそんなとこ」

「待って、女の子のとこ行こうとしてるとかじゃないよな?!それ浮気だよ!」

「してないしてない。さっさと開けてくれ。寒い」

「え?」

「映画、一緒に見よーと思って、会いに来た」



どたばたと派手な音がして、直後、ドアが開いた。スバルの表情を確かめるまもなく、抱きつかれていた。



「おい、離れろよ。靴脱げないだろ」



俺の胸に顔を埋め、肩は震えている。泣いているのかもしれない。こいつはマジで涙腺が弱すぎるのでいちいち気にしてられないな、と思う。



「うえーん、好きぃ」



いつもぐだぐだと色々考えてしまうけれど、今夜はすんなり返せるかもしれない。



「俺も」


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