第77話 君と日常を
期せずしてというべきか、ようやくというべきか、僕と優也は両想いになれたのだった。
それからというもの、僕は日に三回は頰をつねってみた。ベタだし馬鹿馬鹿しいと頭ではわかっているのだが、どうにも日常に現実感がなくてやめられない。頰はいつも痛んだけれど、やっぱり夢の中にいるようだった。やっとこの状況が現実であると認めることができたのは、優也から初詣に誘われたというのに、直前になってひどい高熱を出したときだ。僕は電話口で大泣きをした。
『泣きすぎだろ。大人なのに恥ずかしくないのかお前は』
「だって楽しみにしてたのに!なにも今じゃなくてもいいだろ!」
電話口で諭す優也の声に、僕は反論をする。風邪なんてめったに引かないのに、なぜこのタイミングなのだ。想いが通じ合った代償だろうか。
『まあ、気持ちはわかるけど。別に初詣なんか、毎年あるんだからいいだろうが』
「…………!」
自宅のベッドに横になり、おでこに冷えピタを貼って電話をしていた僕は、優也の何気ないその発言にジタバタと悶え苦しんだ。苦しい。愛おしくて苦しい。
言葉のあやかもしれないけれど、さらっと来年の話をしてくれるなんて。
『おい、聞いてんの?』
「き、聞いてる!めちゃめちゃ聞いてる!」
慌てて断言をし、悶えたせいでずり落ちそうになった毛布をしっかり肩まで引き上げた。
『どうなんだ?体調は』
「まだ熱が引かなくて。完全に風邪だよ」
『何度くらい?』
「38.2。頭が割れそうに痛い」
『病院の薬飲んで、スポーツドリンク飲んで、安静にしておけ』
「うう。つらい。優也、また電話してくれる?」
『俺は別にいつでもいいけど、お前、姉ちゃんが看病しに来るんだろ?』
「うううう」
僕は再度うめいた。弟が風邪で寝込んでいると知った姉のアカネが、偶然にも3つ離れた駅に用事があって来ているらしく、近くだからついでに昴の様子を見てくると両親に伝えてしまったらしい。完全なありがた迷惑だ。その襲来がなければ、優也が僕を看病しに来てくれる未来があったかもしれないのに……期待のしすぎだろうか?
『ほんとは家までなんか買って届けてやろうかとか思ってたけど、こういうときはやっぱ、家族の方が安心するよな』
期待しすぎじゃなかった!!
僕は壁に頭を打ち付けて絶命したい気持ちになる。千年に一度かもしれない優也のレアなデレを、僕はどうしてこう何回もふいにしてしまっているのだ。
「姉ちゃんになんか会いたくないよ!優也に会いたかったんだよ!」
うなるように言った。本心だったのに、はいはい、と軽く受け流され、むっとしてさらに言い募る。
「体調悪いときに、好きな人に会いたくなるのは当然のことだろ」
『そうか?俺は別に体調関係ないけどな。あ、そろそろ仕事の電話かかってくるから切るぞ。早く治せよ。じゃあな』
「え、ちょっと待」
通話は突如として断ち切られた。5秒ほど遅れて、高熱でぼやけてしまった僕の脳が、その言葉の意味を理解する。
熱が上がった。
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