第51話 君と不機嫌に


優也と喧嘩をした。



…これは喧嘩、なのか?厳密に言うと、僕が勝手に拗ねているだけだ。でも、優也だってちょっとは悪い。先日あんなことがあったせいで、僕はひとり、好きな気持ちを加速させてしまっていた。



先日BARでママに相談したところ、「スバルちゃんが好きになった人は間違いなくいい男ね」と言って笑ってくれた。恋が叶うとか叶わないとか、そういう現実的な言葉を使わないところがママらしくて好きだ。ママの言いたいことは手に取るようにわかる。いつか僕が親友になれたとき、それだけでは足りなくなって想いを打ち明けてしまったとしても、優也はきっと、僕を傷つけるような反応はしないだろう。僕を気遣って、優しく拒否してくれるはずだ。そういうところが、好きだ。



なのに。



その夜は、いつものようにデビルジャムの入っている雑居ビルの吹き抜けのところで、柵にもたれてタバコを吸っていた。

外の冷気が頰を撫で、ふいに優也のことを思い出して声が聴きたくなったりして。実は最近、ちょこちょことくだらない連絡を入れている。ほとんど無視されるけど、たまに返してくれる返事がいっそう嬉しい。



電話かけてみよっかなー。出るかなー。



そう思って気まぐれに発信すると、遅い時間だというのに優也は珍しく出てくれた。



「もしもし?」

「優也!なにしてたの」

「いやお前仕事は?」

「仕事中だよ。今ねー女の子見送って、外でタバコ吸ってたんだ。そんでふと、何してるかなって思って」



胸が高鳴る。先日のあれになんの意味もなかったことを表すように、優也はいつも通りのぶっきらぼうな声音だった。わかっているし、それでいい。



「俺は、いまから帰るとこだよ」

「いま?飲み会だったの?」

「そう。お前の店の、近くにはいたんだ。けど一人になったから、まあ、帰ろっかなって感じで」

「そっかあ。楽しめた?」

「全然。付き合いでキャバクラとか行くはめになったしさ、今日は参ったよ」

「キャバクラ行ったの?」



全身の体温がさっと下がるのを感じた。まただ。また、面倒くさい自分が顔を出そうとしている。嫉妬なんてしたくないし、する権利もないのに。



「ん?うん」

「ふーん。女の子可愛かった?」

「いや、ちゃんと見てな」

「楽しかったみたいで良かったじゃん。俺、仕事戻るから。じゃーねっ」



ブチッ。



……最悪だ。



変な態度をとってしまった直後、激しく後悔した。すぐ折り返して謝ろうかとも思った。



でも。



優也はあの日、僕にあんなふうに優しくしておいて、好きにさせておいて、キャバクラに行って女の子と仲良く酒を飲んできたなんて、やっぱり絶対に許せない!!



支離滅裂なのは頭ではわかっているつもりだ。でも感情に引きずられがちな僕の心は、まったく納得してくれない。


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