第11話 不機嫌な君と
スバルと喧嘩をした。
…これは喧嘩、なのか?厳密に言うと、あいつがなぜ怒っているのか俺にはよく分からない。
先日キャバクラに行った帰り道、家までの道をぼーっとあの夜のスバルのことを考えながら歩いていたら、うかつにも思いが通じてしまったのか、着信がきたのだ。
「もしもし?」
「優也!なにしてたの」
「いやお前仕事は?」
「仕事中だよ。今ねー女の子見送って、外でタバコ吸ってたんだ。そんでふと、何してるかなって思って」
デビルジャムの入っている雑居ビルの吹き抜けのところで、柵にもたれてタバコをくゆらす美青年の姿が脳裏に浮かんだ。
一度見たことがある風景でもあるかのように、鮮明に思い描ける。
「俺は、いまから帰るとこだよ」
「いま?飲み会だったの?」
「そう。お前の店の、近くにはいたんだ。けど一人になったから、まあ、帰ろっかなって感じで」
「そっかあ。楽しめた?」
「全然。付き合いでキャバクラとか行くはめになったしさ、今日は参ったよ」
「キャバクラ行ったの?」
「ん?うん」
「ふーん。女の子可愛かった?」
「いや、ちゃんと見てな」
「楽しかったみたいで良かったじゃん。俺、仕事戻るから。じゃーねっ」
ブチッ。
「いや、ちゃんと見てないよ、俺哀子としか喋ってないし」
という俺のセリフに思いっきり被せて、語尾強めで言い切り、一方的に電話を切られてしまった。
あのクソガキ…
やっぱりぶち殺してやる。
◆
初めてあいつとデビルジャムで出会ってから、だいたい二ヶ月くらい経っている。どんどん冬が近づいて外も寒くなっているし、日も短くなってきた。
電話を一方的に切られてから、ムカついたので、一週間ほど連絡をしなかった。俺からしないのは今に始まったことじゃないが、スバルからこんなに連絡が来ないのも、最近じゃ珍しいことではあった。
電話以外で、本当にどうでもいいような内容が、二日に一度くらいは気まぐれに送られてきていたのだ。
【すいよーび。週中なのに、今日は忙しかったよ。今から寝ます】
という連絡が昼過ぎに来たり、
【美容室に行きました。アッシュが抜けてきたので入れ直した】
という報告だったり、
【優也はまだ仕事忙しいかな。今日は姉ちゃんが来て猫たちを連れて行きました】
という悲しくなる話だったり、まあ、九割くらいはくだらない話が多かった。一割の重要な話はもちろん猫の件だ。
俺は気分で返事をしたりしなかったりして、なんとなーくお互いの生活パターンをぼんやりと把握しているかな、くらいの関係性で。
その連絡がなくなったからといってどうということはないが、なんとなく気分が悪い。俺がなんかしたのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます