第11話 不機嫌な君と


スバルと喧嘩をした。



…これは喧嘩、なのか?厳密に言うと、あいつがなぜ怒っているのか俺にはよく分からない。

先日キャバクラに行った帰り道、家までの道をぼーっとあの夜のスバルのことを考えながら歩いていたら、うかつにも思いが通じてしまったのか、着信がきたのだ。



「もしもし?」

「優也!なにしてたの」

「いやお前仕事は?」

「仕事中だよ。今ねー女の子見送って、外でタバコ吸ってたんだ。そんでふと、何してるかなって思って」



デビルジャムの入っている雑居ビルの吹き抜けのところで、柵にもたれてタバコをくゆらす美青年の姿が脳裏に浮かんだ。

一度見たことがある風景でもあるかのように、鮮明に思い描ける。



「俺は、いまから帰るとこだよ」

「いま?飲み会だったの?」

「そう。お前の店の、近くにはいたんだ。けど一人になったから、まあ、帰ろっかなって感じで」

「そっかあ。楽しめた?」

「全然。付き合いでキャバクラとか行くはめになったしさ、今日は参ったよ」

「キャバクラ行ったの?」

「ん?うん」

「ふーん。女の子可愛かった?」

「いや、ちゃんと見てな」

「楽しかったみたいで良かったじゃん。俺、仕事戻るから。じゃーねっ」



ブチッ。



「いや、ちゃんと見てないよ、俺哀子としか喋ってないし」

という俺のセリフに思いっきり被せて、語尾強めで言い切り、一方的に電話を切られてしまった。



あのクソガキ…

やっぱりぶち殺してやる。






初めてあいつとデビルジャムで出会ってから、だいたい二ヶ月くらい経っている。どんどん冬が近づいて外も寒くなっているし、日も短くなってきた。



電話を一方的に切られてから、ムカついたので、一週間ほど連絡をしなかった。俺からしないのは今に始まったことじゃないが、スバルからこんなに連絡が来ないのも、最近じゃ珍しいことではあった。



電話以外で、本当にどうでもいいような内容が、二日に一度くらいは気まぐれに送られてきていたのだ。



【すいよーび。週中なのに、今日は忙しかったよ。今から寝ます】



という連絡が昼過ぎに来たり、



【美容室に行きました。アッシュが抜けてきたので入れ直した】



という報告だったり、



【優也はまだ仕事忙しいかな。今日は姉ちゃんが来て猫たちを連れて行きました】



という悲しくなる話だったり、まあ、九割くらいはくだらない話が多かった。一割の重要な話はもちろん猫の件だ。

俺は気分で返事をしたりしなかったりして、なんとなーくお互いの生活パターンをぼんやりと把握しているかな、くらいの関係性で。



その連絡がなくなったからといってどうということはないが、なんとなく気分が悪い。俺がなんかしたのか?

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