第24話 アフターを君と


「ホストにね、誘ってくれた先輩がイケメンだったから。僕、そのころ憧れてて、少しでも一緒にいたくて始めたって感じかな」



なんてことないように言うので、俺もなんてことないように頷いて見せた。中ジョッキを持ち上げ、ごくりと喉をならして飲み込む。苦い。



「お前、自分がそのクオリティの顔面しててさ、相手に対してイケメンとか思うわけ?」

「思うよ!すごぉく!僕、けっこう面食いなんだから。お客さんだって、僕指名の子は美女ばっかりだよ!」

「ふぅーん」

「なんか納得いかない返事だな~。優也のことだって八割は顔で選んでるんだけど?」

「おい、性格面は二割なのかよ!!」

「初めて会った時の話ね。いまは違うよ、いまは」



あはは、と大きな口で笑うので、どうでもよくなった。


スバルはまるで、両手からぬるぬるとすり抜けるドジョウのような男だ。いつも飄々としていて、掴みどころがない。べつにそもそも捕まえようなんて思っていないんだからそれはそれでいいんだが。



「ねー、それにしてもこの前は楽しかったよね、動物園っ」



突然そう呟くので顔を上げたら、ニコニコしながらポテトを摘んで口に入れているスバルと目が合う。



「急になんだよ」

「急にじゃないよ!毎日思ってたのにぃ」

「ま、男二人でも想像してたよりは案外楽しめたよな」

「想像してたよりはって、優也はいったいどんなのを想像してたんだよ!」

「ただ動物見て歩くだけの苦行、みたいな?会話もぜんぜん弾まない、殺伐とした、この世の終わり……みたいな」

「あーあ、すぐそういうこと言う。酷い酷い。でもさ、あの日思ったよ。僕は優也の、さりげなく男らしいところが好きだな~って」



男らしい?そんなエピソードあったか?

考えてみるが思い出せない。

なぜか俺がクレープを買わされた件についてだろうか?



「はあ。俺はな、お前の女々しいところが」



嫌いだ。と言おうとしたけど、なぜかその先は言葉にならなかった。嫌いか?と、心の中のもうひとりが問いかけてきたせいだ。

息をつき、別の言葉を探してみる。



「……まあまあ面白いかもな。最近は」

「だろ~?癖になっちゃうんだよなぁ僕ってさ~。女子力高い美男子だからさ~~!」



調子に乗ったスバルが嬉しそうににやけるので唐突に腹が立ち、手に持っているジョッキを奪い取って、底に残った約3口分のビールを飲み干してやった。

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