第23話 アフターを君と


すっかりコートを着込まないと寒さにやられてしまう季節になった。冬だ。12月も半ばを過ぎて、スバルと出会ってからは3ヶ月以上が経過している。



そんな時期なので、昼間は太陽が出ていて肌寒い程度でも、朝方になると急に冷える。俺は雑居ビルの前にあるポールになんとなく腰をかけ、タバコに火をつけた。寒さにジャケットの前をかき合わせて、白い煙を吐き出す。



人がまばらになった朝の歓楽街は、孤独の匂いがそこかしこに漂っているような気がしてどこか寂しげだ。華やかな時間を過ぎて、静かな1日の終わりが訪れている。タクシーに乗って帰る夜のお姉さんや、潰れて歩けなくなっている酔っ払いなどを横目で見送りながら、しばらくぼーっとタバコを吸っていると、背後から声がした。



「優也、ごめん。寒い中待たせちゃって」



弾むようなその声で、振り返らなくてもわかる。スバルだ。どういう流れか、いつものように哀子をデビルジャムにおいて帰ろうとしたところ、なぜかちょうど上がりだったこいつとアフターに行く流れになってしまった。



「素直に待っといてなんだけど、どうして俺がお前とアフターをしなきゃいけないんだ」



何を隠そう俺は、キャバ嬢とだってアフターをしたことがない。

その真っ当な問いかけにスバルは茶目っ気たっぷりに唇を尖らせる。イラつくが、イラついたら負けだと思ってグッと堪える。



「だって僕お腹すいたしさー、なんか食べに行きたくて」

「まあ、それは賛成だな」



俺の酔いはほとんどさめていたし、そもそも飲むときにあまり食べ物を食べないタイプのため、なんとなく空腹を感じていた。スバルは単に夕飯の時間なのだろう。朝までやっている居酒屋があるからそこに行こう、と誘うので、応じることにした。







「なんでこんな時間にスバルと向かい合ってビール飲んでるのかわかんないけど、まあ、美味い」

「だろ?朝のビールって意外といいんだよ。一周まわって」



スバルが愉快そうに笑う。最近あてたゆるいパーマがよく似合っていて、店に入る時も誰もが振り向いていた。中性的な顔立ちはどこか日本人離れしているし、華奢ではあるがスタイルも良い。こうして向かい合うと、こいつには視覚的な非の打ち所がまったくないことを認めなくてはならなくなり、いつもなんとなく面白くない気分になる。



「いつもこの時間なんだもんな、終わるの。分かってはいても、これが毎日だと思うと、まったくすごい生活だよな」

「そうだね、完全に昼夜逆転してるからねえ」

「キツくなったりしねーの?」

「うーん、わりと平気かな。僕、ホスト、天職だから」



確かに。店での堂々たる振る舞いや、他のホストが話していて小耳に挟んだこいつの売り上げのことを鑑みると、それはすんなり納得できた。天職には違いない。



「まあ身体がキツくないならいいよな。本当に向いてると思うし」

「でも僕、優也が辞めろって言ったら、辞めるけどね」

「はあ?なんだそれ」

「べつにっ」

「そもそもなんでホスト始めたの?」



ものすごく気になったわけではないが、話の流れでなんとなく聞いてみた。スバルの顔から、すっと力が抜けたような気がした。

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