第22話 夢で君と


スバルの部屋でふたりで並んで動物のドキュメンタリー映像を見ていたところ、スバルが突然メソメソと泣き出した。俺は男女問わず、泣かれると結構弱い。自分がほとんど泣かないせいかもしれない。どうしたらいいかわからなくなってしまうのだ。というわけで、おろおろとしながらひとまず言ってみた。



「お前、動物園行った日に、こういうの見て感動はするけど泣きはしないって自分で言ってただろうが……」

『違うよ!そんな理由で泣いてるんじゃない』



男のくせに細い肩を震わせて涙を流しているものだから、再度、その濡れた瞳を覗き込むようにして機嫌をとろうと試みる。



「じゃあ急にどうしたんだ?なんでもいいから、俺に言ってみろよ」

『言えるわけないだろ!』

「言えるわけないって、なに、」

『優也に言えるわけないよ!……す、好きだなんて!』



その言葉を聞いた瞬間、不意打ちで頭を殴られたくらいの衝撃があったのに、心だけはまったく動揺していなかった。あまりに落ち着き払っているため自分で不思議に思うくらいだ。どうしてだろう。



「……言えるわけないって、お前、会った時からずっと好き好き言ってただろ?何だよ今さら」

『そうだけど……優也はずっと、本気になんかしてなかったじゃないか』

「いや、ちゃんと分かってるよ。全部」

『……え?』



聞き返した瞬間、スバルの瞳が、いつかの夜と同じようにゆらめいた。

無言で顔を近づけると、茹でタコのように真っ赤になり、心臓の音まで聴こえてきそうだ。



『……優也、からかわないで』

「からかってない」

『僕、本気で、』

「知ってるよ。それでいいって言ってるだろ。俺も……」



お前のこと。







う、うわーーーーーーーー!!!!!!!!



絶叫で目が覚める。ぜえぜえと肩で息をしていた。

ふざけんじゃねえ、2日連続でこんな夢。




しかも今日の夢は、俺自身が現実の俺の意識と乖離しているという悪魔の代物だった。あと少しでスバルに告白なぞしてしまうところだったじゃないか。危ない。精神衛生上よくない。なんつー夢を見てるんだよ。




時計を見ると、3時半だ。ため息をつく。例によって俺は二度寝が苦手なので、このまま眠れなかったら最悪の事態だ。腹が立ったので、半分寝ぼけているのかもしれない重い頭を抱えたまま、現在仕事中に違いないスバルに電話をかけてみる。嫌がらせだ。



『もしもし?優也、こんな時間にどうしたの』

「……どうもしない」

『ふーん?怖い夢でも見た?なんか、息が荒いけど』

「見た。すっげえ、死ぬほど怖い夢。死ぬとこだった、危なく」

『大丈夫?夢ってあなどれないんだよなー、リアリティあったりするし。辛かったね』



気の毒そうなその声に理不尽な殺意が芽生えそうになる。お 前 の せ い な ん だ よ。



しかし、そうだこいつはいま仕事中なんだと思い出し、そのうえ特に用事もなかったのだと思い直し、じゃあさっさと切り上げたほうがいいな、と考えたところでスバルが口を開いた。



『もっと話していたいけど、僕、そろそろお店に戻らないと』

「うん、あ、ちょ、ちょっと待て。ひとつだけ、聞きたいことが」

『ん?なあに』



急かすようでも、迷惑そうでもないその声音がありがたかった。夜中に悪い夢を見たとき、八つ当たりをしたいという不純な動機だったとしても、急に電話をして出てくれる知り合いがいるというのは感謝すべきことのような気がする。



「お前、俺と絶交しようとか、思ってないよな……?」



我ながら情けない声が出た。そっちかよ!と自分でも思うが、寝ぼけていたということで押し切りたい。



思ってるわけないじゃん、なんだよ、と言って、朗らかにスバルが笑うので、なんか、ほっとしたりしてしまった。

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