第21話 夢で君と
『優也、悪いんだけど、もう連絡してこないでくれないかな』
スバルはいつもの人懐っこい笑みとは打って変わって、なんの感情も窺わせない冷たい表情でそう呟く。もう連絡を取り合わないという宣言は俺にとって願ったり叶ったりのはずなのに、なぜか狼狽した。
「は?な、なに言ってんだよ、そんな突然……」
『あのさ、なんか誤解してるみたいだけど。まさか僕が本気で優也のこと好きだとか思ってるんじゃないよね?』
「お、思うわけないだろ!俺とお前は男同士だし、ふつーにただの友達で……」
『友達?ハッ、笑わせないでよ。ホストとお客さん、の間違いだろ?』
ひどく冷酷な声だ。そして俺は、その言葉を否定することができない。俺が男でも、大した売り上げにならない客でも、スバル自身はNo. 1のホストなのだ。俺に対する態度はこいつのプロ意識からくるもので、あくまで接客の一環だったと言うなら、むしろそっちの方が納得がいく。俺のことを本気で好きなんじゃないか、という疑惑よりも、はるかに。
それなのに俺はどうしてこんなに動揺しているんだろう。
『こっちは仕事なんだよ。だから、プライベートまで踏み込んでこないでくれるかな』
「待て、俺のプライベートに踏み込んできたのはそもそもお前だろ!」
『言い訳なんか聞きたくないよ。僕はね、美人なお姉さんが好きなんだ。どうして優也の相手なんかしなくちゃいけないの?今日もお客さんが待ってるし、もう行くから。関わらないで。さよなら』
「おい、話を聞けよ、スバルッ……!」
スバルっ。
現実でもその名前を呼んでいて、俺は最悪な眠りから覚めた。
◆
「頭上に“ずーん”って文字が見えますね」
「わかるか?神田……」
「おはようございます。いったいなにがあったんですか、先輩」
デスクに突っ伏す勢いの俺を見て、神田日奈子が朗らかに声をかけてくれた。驚くほど癒される。あんな夢を見てしまった朝なんかはなおさらだ。
「最悪の夢を見たんだ…今朝」
「どんな夢です?」
「好きでもないやつにこっぴどくフラれる夢」
「……あらあら」
苦笑する神田を横目に、俺は首を傾げた。フラれる、という表現は我ながらおかしかった。しかしあれは事実上の絶交宣言である。スバルのやつ、あんなことを言うなんて、俺がひとりで勝手に見た夢だと分かっていても腹が立つ……。
「元気出してくださいね。ただの夢ですよ」
「分かってるのになんか凹んでる自分にもムカつくんだよな……」
「凹んでるってことは、先輩もホントは少しくらい気になってるんじゃないんですか?その人のこと」
なあんて、と言って笑った神田のことをすごい形相で見つめてしまっていたらしい。目が合うと、すみません!と小さく謝ってそそくさと逃げていってしまった。やってしまった、とすぐに反省した。まただ。また俺は、スバルのペースに巻き込まれている。
今度会ったら、俺の夢に勝手に出てきた罰としてラーメンを奢らせなければ気が済まない、と強く思った。
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