第20話 動物園に君と
天気の良い日曜日とあって、動物園はそれなりに混んでいた。そこらじゅうから興奮した子供の走り回る音や奇声が聞こえてくる。
「見て!カバの口、でけえええ」
「キリンの首、ながーーーい」
「プレーリードッグかわいいいい」
「……お前は幼稚園児か?」
よその子供と一緒になって目をキラキラさせているスバルを見ながら、冷静に突っ込まずにはいられない。こいつときたらクレープ片手に、家族連れの子供に負けないくらいのはしゃぎっぷりなのだ。
そのうえ、なまじ見た目が良いものだから、入園した瞬間から奥様方の視線を独占しまくっている。偏見かもしれないが、真昼間の平凡な動物園に美形ホストは完全に場違いだった。
「優也は感動しないの?!ここにいる動物みんな、猫とか犬とは違うんだよ!迫力がすごいんだよ!」
「……ずっと隣で見てるから知ってる」
「まったくこれだから優也は。感動がないなんて、心が貧しい人だなあ」
「なんだと?」
「そんなことより、クレープひとくち食べる?」
「いらん!」
ウサギ小屋を過ぎたあたりにクレープの屋台があり、スバルが食べたいと駄々をこねたのだった。騒ぎ出したら恥ずかしいので、仕方ねえなあと財布を出したところで気がついた。おまえ自分で買えよ!
……しかし男が一度出した財布を引っ込めるわけにはいかないので、なんでだ?と疑問に思いながらもクレープを買い与えてやった。スバルは信じられないくらい喜んでいた。無邪気な子供のようだ。
そして見ているだけで胃もたれしそうなチョコバナナのクレープを、チャームポイントの八重歯をのぞかせながら大きな口で頬張る。
「ねえ、僕がほっぺたにクリームをつけて、優也がそれをとって食べてくれるところまでがシナリオだからね!いいね!」
「でけーーーんだよ声が!!なに言ってんだよ!!」
誰かに聞かれはしなかったかと慌てて周囲を窺うと、通り過ぎていった女子中学生の会話が耳に入る。
『え、うそ、カップルなのかな?!』
『きゃー!アリ!あれは許す!』
ヒソヒソ声のつもりなのだろうが丸聞こえだ。
「アリなんだって、僕たち」
「……不思議と、なしって言われなくてよかったという気持ちでいっぱいだよ」
「若い女の子に許してもらえてよかったねえ」
なぜ上から目線なんだ?とは思ったが、おじさんじゃん!きもい!などと辛辣な言葉を浴びせられなくてよかったと心底思った。
「じゃあさ、カップルに間違われたことだし、ノリで手でも繋いどくー?」
「繋がない」
「ふん。流れでイケるかと思ったのに」
「俺はな、人前で手とか繋がない主義なんだよ」
つい吐き捨てるように言ってしまい、しまった、またスバルの機嫌を損ねたか?と一瞬だけ焦った。
スバルは一瞬だけ立ち止まり、驚いたような、不思議そうな顔をしてこちらを見た。しかし、すぐにそれが満面の笑みに変わる。
「……なに?」
こいつは本当に、掴みどころのない、読めないクソホストだ。恐る恐る聞いてみる。
「なんでもないよっ!」
語尾に音符でも飛んでいそうなほど弾んだ声ではぐらかし、スバルは、次はアルパカを見に行こう!と誘ってきた。
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