第29話 病んでる君と


「へ~ルミちゃん、今日は優也とデートだったんだ」

「そうなんです!前に優也くんがお店に来てくれたとき、ぜんぜん話せなかったけど挨拶だけはしてて。それで哀子ちゃんに紹介してもらって…」

「うんうん」



ふたりでいるときのあの女々しくて嫉妬深い本性はおくびにも出さず、スバルはホストとして完璧な対応を見せている。それが余計に不気味だ。



俺の阻止もむなしく、席にはスバルと夕陽くんともうひとり、先週入ったばかりだという新人の由貴くんがついてしまった。言うまでもなくこの人選は哀子のせいである。しかもスバルが当然のように俺とルミちゃんの間に座っている。



まだ慣れていない様子の由貴くんと自己紹介なぞしつつ、ふと視線を感じておそるおそるスバルの方を見ると、しっかりと目が合ってしまった。

あきらかに(おい、女の子と会う時は連絡する約束になってたよな?マジでお前殺すぞ?)という目をしている。ヤバイ。



「でもさ、デート、いい感じだったんでしょ~?ルナちゃん、優也のこと優しい~って言ってたし」



突如会話に割り込んできた哀子の言葉に、スバルがわざとらしく眉をひそめた。



「……優也が優しい?」

「イヤ優しいだろ!どう見ても!」



間髪入れずに突っ込む。この恐怖の状況を理解していないルミちゃん、由貴くん、夕陽くんが和やかに笑っている。哀子はニヤついている。俺は今にもスバルに視線でとり殺されるかもしれないというのに。



「でもさぁ、ルミちゃん前に来てくれたとき、僕のことタイプって言ってくれたのに。ちょっとさみしいんだけど~」



うっ。思わず声が出そうになるのをなんとか堪えた。俺は普段忘れているが、やっぱりこいつはホストなのだ。男の俺から見ても羨ましいくらいかっこいいし、自然に振る舞っている時はもちろん、わざとやっているとわかっていることに関しても、うまいなあ、すげえなあと思う瞬間がたくさんある。

今のはもちろん、すげえなあである。これで落ちない女の子がいるはずがない。

案の定ルミちゃんも照れた表情をしている。もちろん可愛い。



「あの、違うんです。スバルさんは本当にタイプなんですよ、それは……」



ルミちゃんがあわあわとしながらそこまで言ったとき、トイレに立とうとしたらしい哀子が脚をもつれさせて派手に転んだ。ここに来るまではわりと元気だったくせに、夕陽くんがいると安心するのだろうか、ハイペースで飲むからすっかりいつもの調子になっている。



「大丈夫ですか?!愛衣さん!」



夕陽くんが駆け寄って、トイレまで支えて連れてこうとしている。哀子は酔って吐くことはないが、油断すると寝てしまうことがあるので、見張らなければならないのだ。あの酔っぱらい女の扱いについて、夕陽くんの右に出るものはいないだろう。



席にはルミちゃん、スバル、俺、由貴くんの四人が取り残された。



……由貴くんがいてくれて本当によかった……。



接客に不慣れでおどおどしているが、俺にとって彼はいま間違いなく世界で一番頼もしい存在だ。

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