第32話 その後の君と

その後もふたりの男のスバルに対する罵詈雑言はだらだらと続いた。みっともない男どもだな、と思う。過去とかしょうもないもんを引っ張り出してまで優越感に浸りたいようだが、どんな内容にせよ悪口は言われている方が主役だ。スバルもそれを心得ているから、黙ってニコニコ頷いて受け流したりしているのだろう。スバルはふだんはクソガキだが、今に限ってはよっぽど大人だ。



「なんか……ちょっと、かなり、感じ悪いですね」



ルミちゃんが思い詰めたような顔で呟く。優しい子なのだ。その上で、俺がどうするかを伺っているようにも見える。なのできっぱりと言った。



「まあ別にどうでもいいよ、俺関係ないし。あいつの問題だろ」



心底そう思った。子供じゃあるまいし、ちょっと悪口言われたぐらいなんだっていうんだ。馬鹿馬鹿しい。だいたい俺がどうこうするほうがおかしいじゃないか。

グラスの底に溜まった、氷が溶けて酒とも水ともつかない水分を一気に飲み干し、テーブルに置く。息を吐いた。



「ちょっと俺、トイレ行って来るわ」

「え?あ、はい!」



このタイミングでの唐突なトイレ宣言にルミちゃんは困惑したみたいだ。構うものか。俺は立ち上がり、スバルの座っている卓の横を颯爽と通り過ぎ、トイレに入って用を足した。

手を洗い、再び横を通り過ぎようとしたところ、意思に反して足はずがずかとスバルの元に向かっていた。



「おい!」



呼びかけると、席にいた男ふたりをはじめ、女の子や他のホストたちも一斉に俺の方を見た。最後にスバルが振り向き、信じられないという顔で俺の方を見ている。



「……え?ゆ、優也?」

「なに?この人。昴のトモダチ?」

「ぎゃはは。お兄さん、昴と一緒にいたらホモがうつるよ」

「もううつってんじゃないの」

「だははは」



女の子ふたりは止めるでもなく、顔を見合わせて困ったようにそわそわしている。俺の心は凪いでいた。あまりのくだらなさに相手にする気にもならなかった。



「……胸糞悪いから帰る。スバル、下まで見送れよ」

「ちょっと待って、僕、いまはこの席に」

「うるせえ!」



先ほどまでいやらしい笑みを浮かべていた男たちに向き直り、その困惑している顔を見据えて、はっきりと声に出していた。



「あのな。スバルがお前らになにしたって言うんだよ。なんか文句あるならいまここで全部俺に言え!」



この空間だけ、水を打ったように静まり返っている。誰もなにも言葉を発さないので馬鹿馬鹿しくなり、踵を返して入り口に向かった。なにもかもどうでもいい気分だった。

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