第31話 その後の君と


「スバルのことタイプって、そっちの意味だったのかよ……」



脱力しながら呟くと、ひととおり説明を終えたルミちゃんは肩をすくめて照れ笑いを浮かべた。



「はい。スバルさんは、私の理想の受けなんです!漫画からそのまま出てきたみたいな…!腐女子としてはもう、妄想が止まりません!」

「なんかよくわかんないけど、なんにしても『理想の』って言われることには誇りしか感じないね。ルミちゃんありがとう~」



一方でこいつはなにを呑気にへらへら笑ってやがるのか。こちとらゲイカップルの片割れだと勘違いされるところだったというのに。ふざけるんじゃねえ。



スバルと手を繋いでいたことが誤解だということは言葉を尽くしてすでに説明していた。ルミちゃんは、それでも大変おいしかったのでほんとうにありがとうございますごちそうさまでした、と一息に言ってから頭を下げた。

よくわからないが、喜んでもらえたならまあいいか、などと投げやりに思った。そのとき、スバルがすまなそうに眉をハの字にして謝ってきた。



「本当にごめんね、優也」

「ん?なんだよ急に」

「いや、あのほら、だから、GPSのことだよ」

「そのことか!そういや詰めるの忘れてたわ、お前な、もっと真剣に謝れよ!!」



どさくさに紛れて許してしまうところだった。ぶり返した怒りのままに詰め寄ろうとしたところ、運悪くというのか、良くというのか、ようやく哀子たちがぞろぞろと戻ってきた。



「たらいまー!!」

「陽気に挨拶してんじゃねえ。夕陽くん、本当にいつも申し訳ないっす」



心を込めて頭を下げると、哀子の扱いに慣れている夕陽くんは、なんてことない顔で笑った。



「ぜんぜん大丈夫ですよ。気にしないでください。それよりスバルさん、ご指名ですよ」

「えー!僕まだ優也と一緒にいたいのに~」

「うるせえさっさと行ってこい」



スバルを追い出すと、代わりにヘルプのホストが席についた。やれやれだ、やっと落ち着いて酒が飲める。俺は基本的に女の子を求めて酒を飲むことがないので、こうして哀子に付き合ってホストクラブに来て、ホストと男同士酒を飲む時間もそれほど嫌いではなかった。



そうやってしばらくだらだらと場を楽しんだあと、ざわめきの中で、ふいにルミちゃんが耳打ちをしてきた。



「……優也くんちょっと、あれ」

「え?」



指差した先に目をやると、スバルが現在ついている卓だった。男女ふたりずつの4人グループの席だ。デビルジャムは色恋をメインとしない方針らしく、そういえば俺たち以外にも男連れのお客さんをわりと多く見かける。もちろんほとんどは女の子なのだが。



初めのうちはルミちゃんがなんでそっちを見るよう促したのか理解できなかったが、他の客の話し声やコールの合間に途切れ途切れに聞こえて来る会話で、だいたい把握できた。その席にいる男ふたりはどうやら、スバルの知り合いらしかった。



『こいつ、いまはこんな華やかに着飾ってるけどよ、学生んとき、先輩たちにいじめられてたんだぜ』



髪の毛を立てている男の方がスバルを指差して、酒を煽りながらへらへらと笑っている。女の子ふたりはどう反応していいかわからないらしく、曖昧な顔で微笑んでいた。もう一人の男がそれに相槌を打ち、気まずい空気に気がつかないのかどんどん話を続けている。



『女みてーな顔してるから、ふたつ上の先輩のお気に入りだったんだよ。なあ青木昴、おまえ、あの人に好き勝手されてたんだろ?男同士で気持ち悪いと思うよそーゆうの。そんなやつがいまじゃNo. 1ホストだなんて、笑っちゃうよな、まじで』



なにがそんなに面白いのか、男はでかい口を開けて、げらげらといつまでも笑っている。

スバルは力ない笑みを顔に貼りつけて、受け流しているようだった。

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