第17話 強引な君と


「そういえばあんたスバルくんと動物園いくんだってー?」



電話口でハツラツとした声で言われて、仕事の休憩中だというのに全力でぎょっとしてしまった。



「なにお前、なんで知ってんの?!」



吸っていたタバコを慌ててもみ消すと、スマホを覆うようにして小声でヒソヒソと話す。喫煙所を使う上での最低限のマナーだ。あまりの驚きについでかい声を出してしまったばかりだが。



「んーとね、おとといデビルジャム行った時に言ってた。その日さあ、夕陽があたしに無断でいなかったから、頭きてスバルくん指名したんだよね。一緒に行ったあたしの友達が、タイプだって言うから~」

「哀子の友達のタイプがスバルとかまじでクソどーでもいいんだって。そんなことよりなぜ動物園の件を」



だいたい俺はあの朝方の連絡をいまだにシカトしている。いつものことだ。つまり正確には、まだ約束は交わされていないはずだった。なのにあいつの頭の中ではとっくに確定していたらしい。



……俺の返事とかどーでもいいわけね。



「知らないけど、優也と動物園デートの約束した~ってすっごい嬉しそうにしてたの。めちゃめちゃびびったよ、あんたよくOKしたよね~。そしたらそのあたしの友達が、えーいいなー!って言い出して」

「OKしてないのにあいつが言いふらしてるだけなんだよ。でもどうせ行くことが決まってしまっているなら、是非ともその子も一緒に」

「スバルくんが即座に断ってた」



……あの野郎。



「なんかスバルくんって、妙に優也に懐いてるよね?なんで?」

「それはまじで俺が知りたい……」

「でもあんなイケメンに懐かれて嫌な男も女もいないよね~。キラキラ王子様って感じで」



いる!ここに!迷惑している男が!



「……つーかお前、電話の用件はなんなんだよ。貴重な昼休憩時間を割いてやってるのにくだらない話ばっかりしやがって」

「え、あんた今お昼休みなの?!もう16時半なんですけど」

「うるさい。納期の都合でな、あるあるなんだよこの業界は」

「へー大変だね。じゃあ端的に言うとさ、デートしてみる気ない?」

「は?」

「女の子紹介してあげる」

「ま、まじ?!」

「その、スバルくんがタイプって言ってた子。ルミちゃんっていうんだけど」



俺とスバルは似ても似つかないんだがそこはいいのか………?



「まあその話は今度改めて話すわ。デートしてくれるって伝えておくからー。まず、動物園楽しんできてねー!」

「おい、俺はまだするとは言ってな」



ブツッ。ツー ツー ツー





……哀子もスバルも、俺の周りはなんでこうも強引なやつばっかりなんだろう。



ため息をつき、新しいタバコを一本取り出して火をつけた。やるせなさすぎる。



俺、来週、動物園行くのか……。

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