ラーメン屋で、嫉妬したことについて潔く謝罪し、あっけなく許され、一悶着あったあとに、優也は言った。

「だから！お前はいつも通りにしろって言ってんの！いつも通りくだらねー連絡とかよこせよ！俺はいつも通り無視するから！そんで、気が向いたときだけ返すから！」

その言葉を理解した瞬間、僕は驚き、そして襲いくる怒涛の幸福感に酔いしれていた。

「……うん、わかった」

やっとの思いでそれだけを答えながら、なあんだ！と心の中で叫んだ。なあんだ！である、まったく。本当は心の中ではなく、声を大にして言いたいんだけど。なあんだ！優也、まあまあ僕のこと好きなんじゃん！！！！……と。

女性と付き合うとき、僕は、イケメンだし紳士的だしで、それはそれはカッコいい男になれる。しかし男性と付き合う……ことは今までになかったものの、男性に片思いをしたとき、僕は一転して女々しく情緒不安的になってしまうのだ。自分のそういう性質にこれまでも薄々気づいてはいたが、優也のことが好きだと実感し出してから、改めてはっきりと自覚した。

でも僕は百戦錬磨のNo. 1ホストなので、同時に察してもいた。優也はなんだかんだいっても優しいので、ちょっと面倒くさいタイプの人間を放って置けない男なのだ。ともすれば、手のかかる人が好きと言ってもいいかもしれない。恋愛感情じゃなくても、かまいたくなることは間違いない。

そこに思い至った途端に気が大きくなり、持ち前のポジティブシンキングと自信家という一面がようやく顔をのぞかせて、僕は無意識にはっきり口に出してしまっていた。

「優也、僕からもひとつお願いがあるんだけどいい？」

「なんだよ」

「女の子のいるお店、なるべく行かないで欲しい。もし行くときは知らせて、僕に」

言った瞬間、開き直りすぎて彼女ヅラ発言になっているのでは？と自分で気づいたが、二秒後には開き直っていた。だってそれもこれも優也が悪いのだ。No. 1キャバ嬢をも凌ぐこの美形ホストの碧スバルというものがありながら、女の子のいる店に行ってうつつを抜かしたというのだから。(本人は抜かしていないと言ってはいたが、目を合わせた時点で浮気なので僕からすれば抜かした)

「はあ？なんの権限があってお前が」

優也が言いかけた言葉はもっともだ。僕だってそう思う。そんな権限はない。でも、嫌なものは嫌なんだから仕方ないじゃないか！

視線で殺す勢いで見つめたら、殺意が伝わったのか優也は黙った。殺意はイコールで愛情でもあるのに、世の中の男ときたら、優也ときたら、まったくわかっていない。

付き合えなくてもいい。親友になれたらそれでいい。でも、優也が女の子と仲良くするのは嫌だ！付き合うのはもっと嫌だ！！

僕は己の中にある、この荘厳たる矛盾の前にひれ伏した。