第27話 デートの日、君と
仕事納めも無事に終わり、年末の連休に突入した初日のこと。俺はひとり、慣れない駅の改札でたたずんでいた。何を隠そうデートのためである。しかも俺は今日、このデートに命を賭けているのだ。
「ごめんなさい、優也くん。待ちました?」
駆け寄ってきた人物をまじまじと見つめてしまった。彼女のことはよく覚えていなかったけれど、こんな顔をしていたのか。近くで見ると普通に可愛いじゃないか。
「大丈夫。えーっと、ルミちゃん、だったよね」
「はい!愛衣ちゃんから聞いてました?ほんと、今日はありがとうございますっ」
短いワンピースの裾をひらひらとさせて、ぺこりとお辞儀なんかしてくれる。その仕草が可愛くて、なんとなく直視できない。
先日、断ったにも関わらず哀子の恐るべき強引さで取り付けられてしまったデートが、ついに実現したのだった。とはいえ女の子とふたりで出かけるなんて久々なので、まんざらでもない。そんな俺の、目下の気がかりはふたつだ。
ひとつめはあの日哀子が、ルミちゃんのタイプがスバルなのだと言っていたこと。(俺とスバルは残念ながら似ても似つかないため)
そしてふたつめは、俺がキャバクラに行っただけで嫉妬のあまり長期にわたる無視を決め込み、仲直りしたと思いきやスナックに行っただけで『40歳以下の女と目を合わせたら殺す』と宣言する例のクソホストに、この件を秘密にしていることだった。
年下の女子とデートなんかしたことがバレたら今後こそ本当に殺されるかもしれない。そういう意味で、今日の俺は命賭けだった。
何よりあの日無視される原因になった、哀子のキャバクラに行ったよ事件の日に同じテーブルについていたのが、どうやらこのルミちゃんだったらしいのだ。俺はほとんど哀子としか話さなかったのでまったく記憶になかったのだが。それで俺のことを覚えていて、デートしたいと申し出てくれたらしい。
「とりあえず16時だけど、どこに行こうか?夜になったら哀子が合流するんだよね?」
「はい。とりあえず私と優也くんでデートして、19時くらいから三人で飲もうって言ってました」
「あいつ、そっちが本当の目的なんじゃねーかな」
「ふふ。でも、すごく楽しみにしてたので嬉しいです!3時間くらいしかないので、とりあえずショッピングして、カフェでも入りませんか?」
……おお、それはデートだ。紛れもなく。
俺は乾き切った心が潤っていくのを感じて、感動してしまった。女の子って、良い。なんかこう、無条件で、良い。スバルと会ったクリスマスが遠い過去のようだ。
「おーし。じゃあさっそく、行こうか」
「はい!」
「……でもさあ」
歩き出しながら口を開く。
「本当によかったの?俺で」
情けないが、何気ない風を装って聞いてみずにはいられなかった。不安というより興味である。
「えっ?」
ルミちゃんが可愛らしく小首をかしげる。哀子と同じキャバクラに勤めているなんてにわかには信じられないくらい、おっとりとした癒し系だ。素人っぽいところがいいのかもしれない。
「スバルが好みだって聞いたんだけど……?」
「ああ。そういえば優也くんって、スバルさんと仲がいいんですもんね」
そう言ってクスクスと笑っている。
「スバルさんのことはね、そういう好みとは、違うんですよ」
そう言って笑っているが、それがどういう意味なのか俺にはわからなかった。
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