第80話 いつまでも君と(完)
ソファに並んで座った状態で、僕は優也にまとわりつこうとしている。誰がなんと言おうと我慢できるわけがなかった。好きな人が会いにきてくれたのだ。僕の家に。僕に会うために。わざわざ。嬉しくないわけがない。
「優也~好き~!」
「わかったから。しつこい」
「ぎゅーってして~!」
「しない」
冷たく突き放されても僕はめげない。優也がツンデレだということは重々承知である。本人は自覚がないらしいが。
たいして見たくもない白黒模様の犬がたくさん出てくる映画を見たいと言い張り、大きなテレビ画面で再生をした。興味がないくせに見たいと言ったのはなぜかといえば、なんとなくかわいいと思ってもらえるような気がしたからだ。あざといという言葉は僕のためにあると言っても過言ではない。作戦が成功したかどうかはわからないが、僕たちは案外楽しみながらそれを見た。
「めちゃくちゃ眠い」
映画が終わる頃、優也が眠そうな声をあげたので、僕はその顔を覗き込んだ。
「疲れてるから仕方ないよ。僕はまだ起きてるから、ベッドかソファで寝ても大丈夫だよ?」
「んー、でもまだ大丈夫かな」
とろんとした目をして拒否するので、もしかして、という気持ちが芽生えた。恐る恐る口にする。
「……僕の前で寝るの怖い?」
「はあ?なんで俺がお前如きにビビらなきゃなんねーんだクソホスト」
優也は途端に目を見開き、勢いよく言った。僕の怯えは一気に吹き飛ばされる。
「むしろ襲う勇気があるなら襲ってみやがれ。返り討ちにしてやる!」
「……!」
条件反射で頰があつくなるのを感じた。返り討ちがいかなるものか想像してしまったからだ。それは優也も同じらしく、なにかに思い至り、硬直している。そして沈黙ののち、言った。
「……あ、やっぱ今のなしで。」
「ふふ」
「なに笑ってんだよ」
「いや。僕さ、優也に絶対からかわれてるなって初めは思ってたんだけど……なんか色々と、疑うの馬鹿馬鹿しくなっちゃって」
「お前は俺をどんな非道な人間だと思ってんだよ……!」
「思ってないよ!思ってないけど!!……傷つくの怖かったから、そうやって予防線張ってたのかもね」
僕はきっと、いつも不安だった。明るく振る舞う一方で、病んだり、自己嫌悪に苛まれたり、後悔したりしながら、安心できるいつかを心では無意識に願っていた。
優也はその僕のひそかな孤独に、気づいてくれる唯一の人なのかもしれない。
「なあスバル」
「ん?」
「恋人になるか」
文字通り、目が点になった。
いま、一体なんと言った?
「……は、え?」
「あ、もうなってる感じだった?」
「な、なってないけど!!なるけどっ!!!!」
気がついたら立ち上がって怒鳴っていた。なにがなんだかわからない。頭から湯気が出そうなほど、僕は混乱していた。
その様子を見て、優也がいつもの軽薄そうな笑みを浮かべる。
「ふは、なんだよそのテンション」
「優也こそなんだよそのテンション!急に言うなよ!心臓に悪いよ!僕死んじゃうよ!大好きだよっ!!」
しばらくぜえぜえと肩で息をしたあと、ようやく落ち着いたので、おずおずと提案してみた。あわよくば、の精神である。
「とりあえず……記念にちゅーする?」
「お前あんま調子乗んなよ」
「じゃあ好きって言って~!好きだから会いに来てくれたんだろ~!恋人だろ~!」
「俺はそういうのはな、いちいち口に出さねえの!だから全部行動で示すの!わかれよ!」
「ちぇ。わかりました~」
企みが失敗に終わったので拗ねてやろうと思ったら、不意打ちでちゅーをされた。優也は本当に、ずるいと思った。
(完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます