【決意】“親友”との想い

第3話 地獄の不死鳥 その1



「──地図によると……あっちの方角だ」


 グリーの件を無事終わらせた僕達は、ボルガの炎を抑えるために氷の街へと向かっていた。グリーが遺したカプセル、グリズリーカプセルはボルガの炎をなんとか抑え、暴走しないようにしている。もしかしたら、本当にグリーの魂がカプセルの中に宿っているのかもしれない。


「もうすぐ日が暮れる。近くの村で夜を明かすぞ。それに、『アイス・ゾーン』の事も聞ける可能性がある」


 その村には有名な料理店があり、そこで夕食を済ませようと疲れた足を動かした。早く食べて、早く寝たい。



 *



「そ、そこの人達! 助けてくれー!」


 後ろから僕達を呼ぶ声。振り向くと、全力疾走でこちらに向かう少年と刃物を持ったゴブリンの姿があった。少年は素早くアベルの背後に回ると、ガクガクと震え始めた。彼は茶色い帽子を被り、服装は簡素な赤いTシャツを着ていて年相応の短パンも履いている。

 戸惑うアベルの様子を見る限り、知り合いじゃ無さそうだ。


「すいませ~ん。その子をこっちに渡してくれませんかね? ……痛い目にあいたくなければ」


 ゴブリンは刃物を僕達に向けた。少し驚いたが、こっちにはアベルとボルガがいる。こんなゴブリンひとりくらい簡単に抑えられるだろうと安心する。


「お前……ただの一般人じゃないみたいだな」


 アベルはゴブリンに対抗し斧をあちらに向けた。僕達にはロストがある、大丈夫だ。


「おっと、私一人だとは思わないで下さいよ」


 ゴブリンがそう言い放った瞬間、近くの住居のドアが開き、後ろから少人数の集団が、奥の建物からも現れた。


「……素直にこいつは渡すぞ!」


 アベルが少年の服を掴み持ち上げた。


「ちょっ!? 離せよぉ!」


 少年はジタバタと体を動かし抵抗を図るも、アベルは強く掴んでいるようで脱出はできそうにない。そして、アベルはゴブリンの近くまで歩き────

『スパイダー!』

 スパイダーカプセルを使い正面に蜘蛛の巣を瞬時に張った。


「ここは逃げるぞ! 右の奴は俺が、左はボルガ、アランは真正面だ。頼んだぞ!」

「えぇ……なんで僕が一番重要なポジションに……!」


 幸いにも真正面にはゴブリンは少なかった。少し手加減をして電撃を放ち、邪魔者を気絶させながら走る。


「しっかりついてきてくれよ!」


 ボルガが少年の手を握った。しかし。


「あ、熱い!」


 どうやら自分の体が熱い事をボルガは忘れていたようだ。少年は転んでしまった。


「しまった!」


 少年の方へ走り出すも、既にゴブリン達がすぐ近くまで迫っている。間に合わない。


「……こうなったら!」


 少年はポケットから何かを取り出した。あれは……カプセル? 赤い色をしている。


「来い! フェニックス!」


 その声に応えるようにカプセルから鳥が飛び出した。だが、その姿はあまりにも想像とかけ離れていた。フェニックスと言うわりにはとても小さく、頼りないという第一印象をうけた。けれどその不安はいい意味で裏切られた。

 フェニックスは炎を吐き、次々とゴブリン達を焼き尽くした。加減はできているようで、彼らは死んではいないようだ。


「今だ。突っ切るぞ!」


 逃げている最中にもフェニックスは援護を行ってくれた。おかげでスムーズに逃げ切る事ができた。感謝しなくてはいけない。



「ここなら追ってはこないだろう」


 道中で見つけた空き家に入っていた。住人が居なくなってからずいぶんと時間が経っているようで、ホコリが多い。


「さて、聞かせてもらおうか。なぜ追われていたかの理由と、さっきの鳥の事だ」


 アベルの言う通りだ。少年のせいで危険な目にあった。理由を聞かないと気が済まない。

 聞き出そうとしたその時、ボルガが少年の前に座り込んだ。


「その前に聞きたい、さっきの鳥……俺の五年前までの家族だったんだが……」


 あの鳥が家族? 五年前? どういう事だ……?


「その鳥とどこで出会ったか、教えてくれ」

「それは……このカプセルが落ちてて、拾ったらフェニックスが出てきたんだ……本当だぞ!」


 それを聞いてボルガは少し考え込んでいた。


「じゃあ、今そのフェニックスを呼び出してくれないか?」


 少年はボルガの言う通りにフェニックスを呼び出すと、真っ先にボルガの方へと飛んでいった。


「やっぱり、こいつは俺の飼っていた鳥だ。クチバシに特徴だった小さいがキズがある。……でもこいつは五年前に死んだはずだ。生き返ったのか?」


 ボルガはフェニックスの頭を撫でている。久々に家族と再開したというのに、声色に抑揚はない。


「もういいか? じゃあ、今度は俺が事情を聞く番だ。まずお前の名前と、なぜあいつらから追われていたか。しっかりと説明してもらおう」


 アベルは少年の顔を睨みつけた。少年は少し戸惑った様子だったが、すぐに話し始めた。


「俺の名前はヘル。公園で遊んでたら、友達のゴブリン、マグーがあいつらにさらわれたんだ。きっとあいつら、マグーを調理して店の商品にしようとしてる。俺見たんだ。ゴブリンの肉が運ばれてる所を!」


 この近くに料理店は一つしかない。ついさっき、僕達が行こうとしていた料理店だ。


「……一歩間違えれば、俺達はゴブリンの肉を食ってたって事か……しかも、ゴブリンがゴブリンを調理するなんてな。これ以上、奴らの肉を食う人間が出ないように、その店を潰すか?」


 さすがに潰すまではやろうとは思わない。ヘルの友達のマグーを救出して、それで終わりでもいいと思った。でも潰す事もあながち間違いではないかもしれない。


「おし! じゃあ行くぞーほら早く!」


 ヘルが急かす。……やるしかないかなぁ……。



 二手に分かれて行動する事にした。さっきのように周りを囲まれてはどうしようもない。店の裏側からボルガとヘルが奇襲し、入口近くで僕とアベルが待ち構える作戦に決めた。


「ただの一般人のフリをするんだ。顔は一度見られている。店から見えない死角に待機するぞ」

 アベルはフードとマスクのおかげで分かりづらそうだけど。

 慎重に歩きながら店の近くにあった木の影に隠れる。ここなら店の中からこちらの姿は確認できないだろう。息を潜めてボルガ達の奇襲を待つ。



「逃げるぞー!」


 ゴブリンが店から走り出してきた。もう奇襲が行われたみたいだ。電撃を奴らの足に当て、立ち上がれないようにする。

 アベルもゴブリン達を切り倒していく。峰打ちなんだろうが、斧で切られるのは流石に痛そうだ。……電撃を当てる僕に人の事は言えないか。


「これで最後だ!」


 フェニックスとボルガの炎が残り一人になったゴブリンを襲った。ゴブリンは倒れたが、気絶するくらいの手加減はしているだろう。


「マグー! 大丈夫?」


 ヘルは足がおぼつかないゴブリンを支えながら歩いている。きっと彼がマグー……黄緑色の肌と髪。赤い服の上に黒いマントも羽織っている。


「まさか助けに来るなんて……勇気あるなぁ」

「当たり前だよ! 友達なんだから。助けるに決まってるよ」


 二人が話しているのを悔しそうな目でボルガは見ていた。


「……友達だから、助けるに決まってる……か。ヘルは俺なんかよりもよっぽど立派だな」


 どうやら自分とヘルを比べてるみたいだ。


「いや、お前の判断は間違ってはないさ。あそこでグリーと一緒に飛び込んでたら、もしかしたらお前は死んでたかもしれないんだぞ?」


 アベルの言葉を受けてボルガは小さく頷いた。


「……そうかもな」

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