【過去】“嫉妬”の真実
第10話 創造の白 その1
「着いたか、ここが城下町アクラガス……」
「うへぇ~……こんなにでかい町があったのか!」
突如仲間達の前から去ったアランの後を追うように、俺達はカイザの証言を元に城へ向かっていた。二手に別れる事にしたため、今のメンバーは俺とショアにカブト、ヘル、カイザ、メリーにエルナ、それにフルルとロプトという状況だ。
俺はボブが死んだ瞬間には立ち会わなかったため、そこまで詳しい状況はわからない。
「ボブが『国の王、ファラリス』なんて言ったのは……本当なんだな?」
「あの時も『欲望』で聴力を最大限まで強化していた。聞き間違えるなんて事はない」
カイザの言い分を聞いた直後、カブトが俺の肩に手を置きながら話しかけてきた。隣にいたショアの頭にも左手を添えている。
「それにしても、まさか俺がお前達の家族として認められるとは……夢にも思っていなかった」
「うん、これからはカブトも……ボク達家族の一員だからね?」
それを聞いたカブトはニヤリと笑い、ショアを抱っこする。
「本当にお前は優しいな!」
「ふふっ……ありがとう!」
二人が嬉しそうで何よりだ。少し複雑な気持ちだが、俺も兄としてさらに努力しないとな……!
「そう言えば……アベル達は大丈夫なのかな?」
アベルは昔からの親友、ボブが死んでしまいショックを受けていた。あいつは「もう一人、信用できて仲間になってくれそうな奴がいる」と言い、俺達とは別行動をとっている。
「まあ大丈夫だろう。ペスとボルガやレイ、ビーンとシャイニーも一緒にいるんだ。そう簡単にやられるとは思えないな」
遠くにある城を見つめる。ボブが話した事が本当の情報かはまだ分からないが、実際に行ってどうなのか調べるしかない。
「さて……行くか」
*
状況は間違いなく悪い方向に向かっている。フロウス、エイモナにワインド達に続いて親友のボブが死に、仲間であるアランもペリロスと同様どこかに行ってしまった。だが、今は過去ばかり見ている場合ではない。今は……せめてあいつらの為にも未来を見るんだ。
「騎士の兵舎はこの辺りだった気がするんだが……」
記憶を頼りに、彼がいるであろう場所を探す。兵舎には一度だけ来た事があるが、三年も前の事だ。町も色々と変わっている。
「全然見つかんねーな……? もう誰かに聞いた方がいいんじゃねーのか?」
「いや、ボブの言っていた事が確かなら、敵のボスはこの国の王、ファラリスだ。民間人の中に敵が潜んでいる危険もある……」
弱音を吐くビーンとは対照的に、ボルガは進んで兵舎を探している。あいつも、ボブとはよく会ってたからな……
「……あ、おーい! こっちです~!」
近くからこちらに向かって叫ぶ女の声がする。聞いた事のある声だ。
「皆さん久しぶりです! ……というか、なんでここに来たんですかね……?」
そこにいたのは、ショオの森で再会したランダルだった。彼女は相変わらず黒い服の上に白いジャケットを着用しており、薄い水色の帽子も被っている。しかし水色のズボンは色褪せており、そろそろ新しいものに変えた方が良さそうな印象だ。
「それはこっちのセリフだぞ、見習い……」
「あっ、あの時いた騎士か~! 元気してるぅ? 良かったら今度食事にでも……」
ビーンがランダルに詰め寄るが、すぐにシャイニーに首を掴まれ大人しくなってしまった。こいつはどんな女にもアタックしまくるからな……。
「……お二人ともお久しぶりです」
その時のランダルの顔は、先ほどまでとは打って変わって暗い表情に見えた。気のせい……だよな?
「ああ、何故ここにきたか、私から話しますね。でも……ここじゃあなんですし、近くの宿屋で夕食でも取りながら話しましょう。私が奢ってあげますよ?」
「じゃ、お言葉に甘えるとすっか~!」
宿屋に着くと、宿泊する客以外も食べられる夕食が置いてあるテーブルに座った。ランダルは俺達と出会う前からこの宿屋で予約を取っていたらしく、すぐに食事にありつけた。
「私は定期的にここに来なきゃならないんですよ……。めんどくさいですけど、ちゃんとしないと、もぐもぐ……騎士としてやっていけないですから、ね」
「ああ……そんなに急がなくても、食べ終わってから話してもいいんだぞ?」
「す、すいません……すぐに食べるんで!」
俺の提案を受け入れたランダルは急いで食べ始めると、あっという間に皿の上にあった物は無くなった。
「あー、ちょっと早く食べ過ぎちゃったか……」
は、早い……! 女だってのに、こんなに早く平らげるなんて……。よくお金が足りないなんて嘆いてたのは食事が原因だろうな。
「……俺からも話はある」
気持ちを切り替えなくては。何故ここに来たのかという事、アランに異常が起きた事。……そして、ボブが死んだという事も。こいつとは付き合いは長い方だ。もちろんボブも。
「何故ここに来たのか。それは、ボブの遺言だ」
「えっ……?」
案の定、彼女はフォークを落とし、驚いた顔をした。
「ゆ、遺言って、冗談きついですよ……?」
「悪いが冗談じゃない。あいつは……死んだ……!」
「そう、ですか……」
完全にへこんでいる。ボブは誰にでも優しく接していた。こいつも悲しんでいるだろう。
「そして、ボブが最期に黒幕の名を言ってくれていた。ファラリス。この国の王だ」
「えっ……ファラリス国王って……! 私、毎月会ってますよ!?」
予想外の返事が帰ってくる。毎月会ってるだと?
「ロストの力を使って騎士の仕事をしてたらそれを見込まれて……毎月、色々とお金や物をくれるんですけど……」
「だ、大丈夫なのか? 何もされてないのか?」
「はい。なーんにも。気さくなオジサマって感じですね……」
どういう事だ……? もし本当に敵のボスなら俺達の仲間であるランダルに近づくわけがない。簡単に気づかれてしまうじゃないか、今みたいに。それとも……俺達全員を相手にしても、勝てる自信があるからなのか?
「……もうちょっと話を聞きたいですが、それにはもっと食べる必要があります……! 追加注文を……あれ?」
こんな状況でも食事をしようとするランダルに呆れため息を吐いたが、何やら彼女の様子がおかしかった。
「……財布が、無い! 落としちゃったかも……」
「なんだと……それじゃあこの食事代はどうするんだ?」
するとどうするか騒いでいる俺達の側に茶髪の長身男性が近づいてきた。
「……俺が代わりに払ってやる」
「え……!?」
「お前は、ハイエン……!?」
何故ハイエンがここに来たのかと一瞬戸惑ったが、そういえばこいつも騎士だった。『憤怒』の茶色を扱うハイエンとは三年前のゲボルグ戦争の時に出会い、共に戦った仲間だ。もっとも、ここ半年くらいは会ってなかったが……。
「これで足りるか? ランダル」
「あ、はい。十分ですけど、ある程度残っちゃう分があります……どうしますか?」
「それはお前にやる。勝手に使え」
驚いた様子のランダルを横目に、ハイエンは彼女の隣に座った。
「それにしても、お前の食い癖はいつ治るんだ……」
テーブルの上の皿を見てハイエンが眉をしかめている。それを見たランダルは恥ずかしそうに視線を下に向けていた。
「……まあいい。さっきの話、ちょいと聞かせてもらったがな、信憑性はあると思う。あいつはどこの馬の骨なのかもわからないが、簡単に一国のトップに上りつめた。あいつが『白』を持っていてもおかしくはないな」
確かに、どこからともなくあの男は現れ、今や王だ。一回だけ見た事はあるが、その時は疑ってもいなかった……だが。
「……ペリロス。あいつだけは疑っていたかもしれない」
俺の言葉を聞いたその部屋にいた仲間達は、レイ以外の全員が振り向いた。ランダル、ハイエン、ペスとボルガは哀しみの表情。ビーンとシャイニーは後悔の表情をしていた。
「あいつは、ファラリスと遭遇してからすぐに姿を消した。そして今度は、ボブがファラリスの事について言及した。今は、親友の言葉を信じる」
「まあそう焦るな。『白』には十二色の力がある。ベージュの色の能力で体を変えた別人かもしれないんだ」
食い気味にハイエンが口を挟む。もっともな言葉だが、ファラリスに近づく事で何か掴めるかもしれないんだ。退くわけにはいかない。
「ああわかってる。でもそれ以外手がかりがないんだ。とにかく、ファラリスの周辺を調べる。そうしたら何かわかるはずだ」
「……それもそうか。ザーシスやレイダとか言ったか。あいつらを追い詰めてもあのオレンジ色が来て簡単に逃げられてしまうからな」
そうハイエンは言うと、宿屋の店員に近づくと部屋の鍵を貰っていた。どうやらあいつもここに泊まるらしい。
「……俺達も今のうちに部屋を取っておくか」
ハイエンに続き部屋の鍵を受け取る。もちろん、男女別々の部屋に泊まる。
二階にある部屋に向かい、階段を登っている途中だった。ビーンの顔が暗くなっている事に気づいた。
……詳しくは追求しない、というか、ビーンがああなっている事には検討がつく。きっとペリロスの事を思い出してしまったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます