第12話 黒幕の正体 その8
王城、正門にて
「グワアっ!」
マグーはペスを肩に乗せながら正面から王城に乗り込み、警備兵達を多数の腕で吹き飛ばしていた。殺しはしていないが、動くこともできない大怪我を負わせている。
「ったく、いらつくデザインしやがって!」
左右の扉どちらにもブランク王国の国旗がでかでかと掘られている。だがそれは槍が人間を串刺しにしているように見えていた。
「こんだけ暴れてもあのフィシュナは出てこねえのか……」
自分を陥れた原因のフィシュナに復讐しようと、彼女を呼び寄せる事も正面から突入した理由の一つだったが、現れる気配は無い。
「まあいい。先にファラリスをぶちのめしてやる……!」
ゴブリンを奴隷として扱ってきた国の王に、一発痛い目を見せてやろうと意気込んでいだ。扉を開き、豪勢な内装の城の中へと入る。
「……?」
また警備兵達が向かってくるのかと思いきや、中には誰もいない。マーライオンの噴水に、豪華な装飾のシャンデリア。中央にあるレッドカーペットの左右端にある花壇に植えられた花達が、マグーを迎え入れているようだ。
「おーい、俺をナメてんのか~?」
そう挑発の声を上げるも、聞こえてきたのは風の音と噴水の水音のみ。
マグーは困惑しながらもそのまま進み、大きな柱が並ぶところへ差し掛かった所だった。
「侵入者ですよ~……!?」
柱の影に何かが隠れている事に気がつき、一瞬で戦闘態勢に切り替わった。
「お前は……」
何の構えもせずゆっくりと影から出てきたのは、カラスの幽霊を連れたフルルだった。
「俺を追ってきたのか?」
二人は敵同士の関係だったが、フルルは敵意を見せていなかった。
「そうじゃあ無いんだよな~? 俺らもファラリスを狙ってるんだよ。今はお前と戦うつもりは無い」
カラスの幽霊は大きめの声で喋る。
「お前らがファラリスを狙う理由はなんだ?」
一番気になる事を、マグーは対照的に小さな直球の声で聞く。
「……俺達の計画の邪魔なんだよ、あいつは」
「計画?」
問うが彼らは答えてくれなかった。だが敵の敵は味方。親しく接するべきだとマグーは感じる。
「まあ、俺らとも目標が同じなんなら、今だけ手を組もうぜ?」
そう言うとフルルは頷き、マグーの前を歩き始めた。
「なんだよ意外と話が分かる奴じゃねえか。計画ってのは……きな臭いがな」
フルルに聞こえる声で話していたが、彼は気にせず歩いていた。
ペスを抱えている事を気にしていないのは、やはり彼女の事を仲間と思っていないから。
「……」
それからは無言で城の中を歩いていった。不気味なほどに人っ子ひとりおらず、フルルがいなかったらきっとマグーは慎重に動きすぎていただろう。
だが、甲冑が並ぶ廊下に差し掛かった途端、前を歩いていたフルルが急に後ろに退いた。
「おい、何があったってんだ……」
呆れ気味に前を見ると、向こうにある階段に白髪の老いた男が立っていた。顔は見えていないが、その男がファラリスであるという事は、金色に光る王冠が物語っている。
「ヘッ、国王じきじきにお出ましってか? 護衛の一人や二人も連れてないっていうのに」
そう挑発するも、ファラリスは微動だにせず佇んでいるだけだ。
「……護衛など必要ない」
突如渋い声で発言したファラリスに、マグーは一瞬だけ動揺してしまった。同時に、ファラリスが頭を上げる。
「なに?」
ファラリスは特筆すべき特徴も無く、年相応にシワがつき、目が垂れ下がっている。だがその表情は、恐ろしいまでに真顔だった。白い目に見つめられたマグーは、一瞬のうちに体の自由が聞かなくなった。
「か、体が……!?」
マグーは近くにあった甲冑の槍を持った。だが、それはマグーの意思では無い。
「あちゃー」
カラスの幽霊は全てを悟ったのか、真っ黒な羽で目を隠した。
「やめろ……!」
マグーは槍を右手で高々と上げ、先端を自身の方へ向ける。その時既に口以外の自由は奪われており、表情すらも変える事は出来なかった。
「……っ!」
次の瞬間、マグーは自分の胸部を槍で貫いた。声も上げる事は無く、ただ体が痙攣しているだけだ。すぐにマグーの体はぐったりとし、槍に重心を預ける。彼の肩からペスは崩れ落ちるも、彼女の意識は戻らなかった。
「言っただろう? 護衛など、必要ない」
「……!」
フルルは自身の方を向こうとするファラリスにいち早く気づき、その場から走り出した。
「……逃げたか。黒なんて色があるとイシバシさんは話していなかったが……まあいいだろう。この奴隷と女がいるからな」
ファラリスは二人の方へ近づき、マグーに突き刺さった槍を引き抜いた。マグーはペスの上に倒れ、緑の血がペスにも付着する。
「さあ、傀儡達よ……我に従え!」
ファラリスの右目はペスを見つめ、左目はマグーを見つめた。すると二人はゆっくりと起き上がり、何事も無かったかのように目を開いた。だがその目は、酷く白く濁っている。
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