第2話 決意の炎 その2
「来たか、ボルガ」
グリーは倒れた木の上に座っていた。彼は人間に近い体型の一族で、おかげでゴブリンへの偏見は初対面から無かった。
「覚えてるか? ここで一緒に遊んだ事。あの頃は楽しかったよな……まだ、何も知らなかった頃は」
俺とグリーはここで知り合い、ここで遊び、ここで育った。そして友達も増えた。人間とゴブリンの壁なんてないように。
「ボルガ……お前は俺の自慢の友達だ。だけどな、いくら友達だろうと、俺の邪魔をするなら……容赦はしないぞ?」
グリーはカプセルを首に押し当てる。
「……お前は俺の一番の親友だ。だからこそ……お前がこれ以上、手を血に染める事はさせない。絶対に止める」
俺は赤色のカプセルをラウザーにセットした。
「行くぞボルガ! 力の差を見せつけてやる」
「俺は今までの俺とは違う。今の俺は自分を制御できない!」
俺はグリーに勝つ。必ず。
*
「これで終わりか?」
ゴブリンをあらかた片付けた僕とアベル。だが、直後に只者ではない雰囲気が感じ取れた。
「グゥゥゥゥ……! オウノ、タメニ……!」
唸り声が聞こえた方を向くと、筋肉が異常な程に発達した男がよだれを垂らしながら歩いてきた。その男の顔は正気を保ってはおらず、ボサボサのピンク髪が揺れる。
「お前か……もうひとつのピンク」
アベルとは何度も交戦した事があるようだ。男はアベルを見ると大声を張り上げた。
「ガァァァッ!!」
「下がってろアラン。こいつの能力は、“ある一つの意思や目的。それ以外の知能の速度を低下すればするほど、筋肉や身体の動きの速度、さらにパワーを上昇させる事ができる”……らしい。お前の電撃では恐らく、ビクともしないだろう」
そう言われて大人しく従う。アベルの方が戦闘経験はあるのだから。判断を信じた。
「やはりお前達の『王』か。指示しているのは。まあ、『ドミネーション』の中でもお前には話は通じないから無意味か」
王と聞き、この国の王であるファラリスを思い出したが関係はあるのか?
アベルは背中からアイアンメイデンを下ろす。
「お前ほどの体格だとこれには収まらないな……どうしたものか」
余裕を見せるアベルに怒りを覚えたのか、男はアベルに向かって全速力で走り出す。斧を振ってゴブリンの血を吹き飛ばしたアベルはいつでも避けられるように構えていた。
「……!? がぁっ!」
だがアベルは男の体当たりを正面から受け止めてしまった。困惑した僕は思わず吹き飛んだアベルの元へ駆け寄る。
「ど、どうしたの!?」
「く……すまない。ちょっと体の調子が悪かっただけだ」
すぐにアベルは起き上がったものの、今の様子を見ると心配だ。
「もう大丈夫だ。……多分」
今度はアベルの方から男の方へ突っ込んだ。すぐさまスパイダーカプセルを使用し、男の腕と足の身動きを封じる。
「やはりこれは使いやすい……アラン! 一応電撃も撃ち込んでくれ!」
「う、うん! わかった」
狙いを定め電撃を放つと、一瞬だが男の体が痺れた。
「ざぁっ!!」
次の瞬間、アベルが男の胴体を斧で切り裂いた。赤い血が吹き出し、アベルの黒い服を染める。
「汚いな……。だが、これで俺の復讐は一つ果たした。こいつのせいでフロウスは死んだと言ってもいいからな」
斧を拭きながら近づいてくるアベルに、僕は疑問を問いかける。
「ねえ、今の人もピンク色の力を使ってたよね? 色は複数あるの?」
「……ああそうだ。色はな、『白』によって創り出される。俺達が使ってるのは『白』ではないある人物から貰い受けたものだが……」
アベルは倒れている男を見つめ発言を続ける。
「俺達はこいつらの事を『ドミネーション』って呼んでる……どうやら他の『白』から色の力を貰ったらしい。そして俺達を潰そうとしてる。……目的は分からないがな。アラン、お前も気をつけろ。現に俺の仲間は……何人かやられている」
改めて僕が異常な領域に飛び込んでしまった事を確信した。アベルは本気で僕の事を心配しているみたいで、尚更。
「そうだそうだ、こうするように言われてたんだった……」
そう言うとアベルは何も入っていない空のカプセルを取り出し、男の死体にかざした。すると死体からピンクの粒子が現れ、カプセルへと吸い込まれていく。
「『支配のピンク色』……。これでロストを使える人間がまた一人増えるはずだ」
目の前で起こる現象の数々に、僕は間違いなく置いていかている。
*
「ダあッ!」
「ハアッ!」
俺の剣はグリーに片手で止められてしまった。
「こんなもので勝てるとでも思ったか?」
「まだだ!」
意識を集中し、剣に炎を宿す。剣の刃から炎が生まれ、グリーの手を焼き焦がした。
「今までとは違うということか。ならばこちらも全力を出すぞ……!」
「やっと、お前と全力で戦えるか……!」
心臓の鼓動が激しくなる。体は震えている。だが、心は違った。嬉しい。グリーと競い合っていたあの頃を思い出していた。
剣と爪が激しくぶつかる。
「久しぶりにお前と対等の勝負をしていると、昔の頃を思いだすな……ボルガ」
やはりグリーもそうだった。
「……なんで俺とお前は道を違えたか……その原因は俺にある」
「今更開き直るのか?」
「いや、そんなんじゃない。俺の選択とお前の選択、どちらも間違いとは言えないはずだ!」
思い切り剣を振る。グリーも爪を突き出してきた。
「ぐあっ!」
俺達はお互いの衝撃で吹き飛んだ。
「どちらの選択も、自分の意思を突き通したものだ。正解も間違いも無い!」
俺とグリーが道を違えたあの日──あの日から俺達の日常は壊れた。
──五年前
「おい、最近また魔女狩りが始まってるらしいぞ」
最初は気にも止めなかった。すぐに事の重大さに気づけば何かできていたのだろうか。
「もしかしたら、私も魔女として処刑されちゃうかも……なんてね」
そう言ったのは幼馴染のアリスだった。俺、グリー、アリスの三人でいつも一緒に過ごしていて、村で俺達三人組を知らない人はいなかった。
「おいおい。アリスが魔女なわけないだろ。だって魔女より怖いもんな~!」
「確かに。魔女より恐ろしいアリスが魔女なわけないよ」
「言ったな! このー!」
アリスはグリーを追いかけ、グリーは走ってアリスから逃げる。俺はそれを見ていた。そうだ。アリスが魔女なわけがない。幼馴染の俺が一番わかってる。
「もうこんなに暗くなったか。帰るぞ」
周りの景色が暗くなり、太陽も消えかかっていた。
「それじゃあまた明日ねー!」
俺達はそれぞれの家へと早歩きで向かった。
「おやすみ」
鳥かごに佇む唯一の家族にそう告げ、俺は眠った。また明日みんなと会うために。
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