第2話 決意の炎 その3
「おい! あっちだぞ!」
外が騒がしくなっているのに気づき目が覚めた。何かを追っているのだろうか。
「……どうせ寝られないだろうし、ちょっと様子を見に行くか……?」
すると家のドアを開けた途端、グリーと鉢合わせした。
「お、お前も目が覚めたか。何だぁ? こんな夜中に」
「……一応、アリスの家にも行くぞ。もしかしたら何か危険な事が起こってるかもしれない」
体の奥でうるさく騒ぐ何かを我慢しながら、俺達はアリスの家に向かった。
「あれ、ドアが開いてんぞー?」
ドアは半開きだった。何かあったのかもしれない。急いで家の中へと足を踏み入れた。
「うっ……!? 何だこれ……」
そこには血だらけの死体があった。暗くてよく見えないが、恐らく女性。
「これ、アリスのお母さんじゃねぇの……?」
グリーの言葉で最悪な状況を想像してしまった。アリスも殺されてしまったのではないか。俺は片っ端から部屋のドアを開け、アリスを探した。
「駄目だ……どこにもいない……!」
「ボルガ! こっちの窓が開いてるぞ! ちょうど人が通れるくらいだ!」
グリーが発見した窓から外へ出ると、いつも遊んでいる森に繋がっていた。
「ここにアリスがいるといいんだが……?」
ひたすら森の中を走っていると、微かな人影が見えた。
「アリスか!?」
「……ボルガ、グリー……!」
アリスはボロボロだった。服は破れ、足からは血が出ていた。
「おい……どうしたんだよ! 説明してくれ!」
すると、森の奥から松明の光が見えた。人だ。アリスを助けて貰うしかない。
「いたぞ! あそこだ! 魔女だ!」
魔女? いったい何の事を……?
状況を飲み込む暇も無く、アリスは男達に連れられていった。
「待て! アリスをどこに連れていく気だ!」
俺とグリーは男達を止めようとするも、大人の力に敵うはずもなく捕まえられ、アリスは消えていった。
「なんてこった……」
残された俺達二人はただ呆然としているしかなかった。
「魔女って言ってたよな……まさかアリスが……?」
「そんな訳ないだろ! 幼馴染のお前が一番わかってるはずだろ!」
「……ああ、アリスは魔女なんかじゃない。きっと何かの間違いだ……」
それからはすぐに家に帰り、アリスの無事を願って眠る事にした。きっと大丈夫だ。
*
──俺は鳥の鳴き声で起きた。外が騒がしい。
「また魔女の処刑だってよ。アリスが魔女なんて信じられないんだがな……」
その言葉を聞いた俺はすぐに処刑場へ向かった。まさか……なんでアリスを処刑する必要があるんだ……!
「ボルガ! お前も聞いたか。行くぞ!」
グリーと合流し、処刑場へ向かう。
「……あそこだ! あそこにアリスがいる。ほら、助けに行くぞ」
公開処刑場に隣接している建物の影。確かにアリスが居た。だけど……。
「いや、無理だ。俺なんかじゃあ助けられない。兵士があんなにもいるだろ。勝ち目なんか無い」
「何言ってるんだ! お前はそんな腰抜けじゃあないだろ!」
「……無理だ」
俺の言葉を聞いて、続いてグリーは吐き捨てるように言う。
「もういい、お前がそんな奴だったとはな。見損なった。俺は一人でアリスを助ける。じゃあな……!」
「グリー……」
俺はその場から逃げた。グリー一人じゃあ助ける事なんてできない。返り討ちになって終わりだ。親友が死ぬ所なんて見たくない。
「……この選択は間違いじゃないよな、二人共……!」
そう自分に言い聞かせるしかなかった。俺の中には、後悔しか残らなかったが。
翌日、新聞には魔女処刑の記事があった。そこには処刑を邪魔するゴブリンと鳥がいたという記述があり、鳥かごを見ると飼っていた鳥がいなくなっていた。
*
「……あれからお前はしばらく姿を見せなかった。だが最近になって村を襲撃している。奴隷のゴブリンの反逆と関係があるのか?」
「ああ。俺はあれから労働力として扱われていた。酷かったよ。まさに奴隷の様な環境だった。……だが、反逆軍の隊長に助けられた」
「でもそれだけじゃ、村を襲う理由にはならないだろ?」
そう言うと、グリーは微笑んだ。
「アリスの処刑を止めようとしなかったお前に話すつもりはなかったが……俺が村を襲った理由を教えてやる。反逆軍の隊長が、『村をある程度襲撃したらアリスを生き返らせる方法を教える』って言ったんだ」
アリスが生き返る……!? そんな、死人が蘇るわけないのに……。
「どうだ? お前もアリスを生き返らせたくはないか? 見捨てた事を謝れるんだぞ」
「……断る。お前は過去という檻に囚われているだけだ! 未来の事は考えないのか……?」
「それは自分を正当化しようとしているつもりか? そんな事を言っても過去の過ちは変えられない」
「……分かり合えないのか……!」
剣を構える。これ以上、関係の無い人達に危害を加えるわけにはいかない。
「どうやら、答えは出たらしいな。今こそ決着をつける時だ!」
グリーも構えている。同時に俺の中の炎も熱くなり、体が焼き焦げてしまうのではと錯覚するほど。
「ああ、これで……終わりにする!」
*
「おーい! ボルガー!」
僕達を残し一人で森の奥へと向かって行ったボルガを探す。いくらボルガでも一人じゃあ危ない。
「足跡だ。あそこに続いてるな……」
アベルが見つけた足跡は、ゴブリンではなく確かに人間のものだった。だけど。
「なんだよ……この足跡」
ボルガと思われる足跡とは別にとても大きい、人間とは思えない大きさの足跡があるのだ。
「まさかグリーか?」
足跡を辿る。グリーに一人で決着をつけようとしたのだろうか。しばらく歩くと、うっすらと人影が見えた。ボルガだ。
「おい、ボルガ!」
アベルが呼ぶも返事は帰ってこない。どうしたんだ?
早歩きで近づき、顔をのぞき込む。ボルガの目から液体が流れていた。代償のせいで赤色に見えるが、恐らく涙だろう。
「……二人共、無事だったんだな。よかった……」
涙を拭きながら話した。
「なんで泣いてる? お前が泣くなんて初めて見たぞ」
何度も顔を拭っているが、涙は止まっていない。
「ハハッ……あいつ、最後に、俺に全てを託したんだぜ……このカプセルを残して」
ボルガの手の上には少し傷がついたカプセルがあった。
「『俺の負けだ。……だが、お前は俺を殺せないだろ……だったら、俺自身が』なんて言って……自分で……!」
ボルガは次々に流れる涙をなんとか止めようとしているようだ。
「残ったのはこのカプセルだけ。でも、物理的にあいつがいなくなっても、あいつの思いは俺が背負う……親友として」
カプセルを強く握りしめているのがわかる。だが、カプセルは壊れそうにない。
「やっぱり、俺が間違ってたのかもしれないな……グリー……お前の思いは、俺が継ぐ」
アリスを生き返らせる方法を、俺は探すよ。もちろん、誰の命も犠牲にせずに。
誰かの命を救いながら、あの時に走り出せなかった償いをする。それで……許されるかな……。
NEXT COLOR HELL FIRE
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