第12話 黒幕の正体 その3
「……父さん」
フィシュナはカイザと戦闘を行いながらも、自身の父ステーシが押されている事に意識を向けていた。
「よそ見してんじゃねえ!」
カイザのハンマーによる強力な打撃を無数の刀で受け止めるが、あっという間に弾き飛ばされる。するとフィシュナは機械の羽を広げ空中へと飛び上がった。
「ザーシスさん、ここはあなたに任せます」
そう言って彼女は苦戦しているステーシの方へ加速する。
「よかろうッ! 雑魚どもの相手など容易いものよ!」
ザーシスはカブトと取っ組み合いになりながら叫んだ。
「雑魚だと……? とことん舐めやがって!」
カブトの腕ヅノとザーシスのグローブが衝突し、辺り一面に衝撃波が飛び散った。
*
「援護に来ました」
建物の影でショアと戦っている自身の父の元に駆けつけたフィシュナは、早々に無数の刀を創り出し、ショアを切り刻みにかかった。
「ウガアアッ!」
完全な暴走状態と化してしまったショアに刀は弾かれてしまい、咄嗟に盾を構える。カブトと同じような腕ヅノによる衝撃が、盾を通ってフィシュナの体全体へと響いた。
「くっ……」
想定外のパワーだったため、フィシュナは後ろへと飛んだ。
「まるで複数の色を所持し、同時に使用しているかのよう……兄弟共々、全力で殲滅しなければいけないようですね」
「……ううっ、ぐっ」
カプセルを取り出しラウザーに挿し込もうとするも、ショアは直後に倒れた。恐らく暴走によってスタミナが切れたのだとフィシュナは考え、止めをさそうとショアに向かって低空飛行した。
「これで、終わりです……!」
一本の刀を振り上げ、倒れているショアに突き刺そうとするが、何故か体が動かなかった。腕は震えており、まるで自分の体が他人に操られているようだった。
「何故止めをささない?」
父に問い詰められるも、彼女は口を開く事すらできなかった。今まで体感した事がない現象に、頭の中はこんがらがる。
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「……聞こえますか?」
どこからともなく聞こえてきた声。それと同時に目の前が真っ白になり、白とグレーで囲まれた空間にいつの間にか立っていた。
「ここは……?」
「あなたの心の中、とでも言っておきましょうか」
ついさっき聞こえてきた声が、今度は背後から聞こえてきた事がはっきりと分かった。振り向くと、三年前に出会ったあの少女が立っていた。
「え……!? あなたは消えたはずじゃあ?」
久しぶりに動揺し、一歩後ずさる。
「あの時、私は消えたと見せかけてラウザーからあなたの体の中へと入り込んでいました。ファラリスに近づき、彼の野望を阻止するために……」
急にファラリスの名を上げられ、またしても心が慌てる。
彼はこの国の王であり、白の持ち主であり、そして私達に命令を下している人物のはず。彼の命令に従っていれば、創造の白に相応しい人物が見つかると思っていたのに、野望なんて……?
「あなたはさっき、あの少女を殺害しようとしましたが…結局できなかった」
「それはあなたが私の体を操っていたからじゃ? それと、ショアさんは男性です」
「えっそうだったんですか……。いやいや今はそれより……あなたは今まで人を殺した事が無かったでしょう? 少しだけ戸惑った瞬間に、私が体を乗っ取ったんです」
今までの記憶を探る。確かに人を直接殺めた事は無いが、間接的に殺した事はかなりあるはずだ。……特に、エルナさんを妨害した事でボブさんが目の前で死んだ。
「……それで、ファラリスさんの野望とは何の話ですか? 私がファラリスさんの部下という事は知っているでしょう?」
創造の白に相応しい人物を探しながら、途方に暮れていた私に手を差し伸べてくれたのはファラリスさんだった。彼はとある白の持ち主という事で信用できていた。実際、彼が十二色の力を使っているのを見ている。
「ですが彼の白の詳細は、あなたでも分かっていないのでしょう? おかしいですよね」
確かに、ファラリスさんの白の力は、片鱗すらも表れていない。
「話が逸れましたね……彼の野望というのは、この世界全体を支配する事です。白の力で」
急にそんな事を言われても実感は湧かないが、とりあえず話は聞く事にした。
「私とファラリスは別の次元からやってきました。いわゆる平行世界ですね。その次元でファラリスは大暴れしていたんです。ですが私と、私に協力してくれた12人のおかげでなんとかファラリスを打ち倒せました。ですが、ファラリスは最後の力を振り絞って私以外の12人を殺害したんです。私はぎりぎりのところで12人の魂をカプセルに封じ込め、色の力を失わずに済んだのです」
彼女は自分の握った拳を見つめていた。自分の力不足で仲間を失った、とでも思っているのだろうか。
「そしてファラリスは違う次元へと“白のゲート”で逃亡しました。その次元というのが、この世界です。それが……16年前の事でした。私もファラリスの後を追おうとしましたが、あいにく私のゲートは壊れていて、修復に多大な時間がかかったんです。それで、やっとこの次元に来たのが三年前。ちょうど、ゲボルグとの戦争の途中でしたね。そこであなたを見つけ、色の力を託したというわけです」
三年前の事を思い出す。あの時、白を確かに受け取ったが、私には相応しくないと勝手に思っていた。いや思わされていたのかもしれない。
「そして今日、ついにファラリスとの決着をつける時が来ました。ですが普通に戦っては十六年前の二の舞。ファラリスに勝つためには強力な意思を持つ人間を探す必要がありました。そして半年前……その人物が見つかったんです」
少女の手のひらから小さいモニターが創り出され、そこにある少年の姿が写った。
「まさか、彼なんかが……?」
「ええ、16年前に亡くなったシュウさんと同じ、強力な『復讐』の意思を持つアランさん。彼がファラリス打倒の鍵になるはずです!」
にわかには信じ難かった。あの冴えない少年が隠し玉だったなんて。
「私にはアランさんがファラリスさんを倒せるとは思いません。彼は最弱と言っていいほどですよ?」
「……あなたはファラリスの能力を理解していません! 奴の能力は他人の『意思』を塗り替える能力。つまり、『意思の白』の持ち主なんです!」
初めて白の名を知った。意思の白。もしかしたら、私の意思さえも操られて?
「あなたはその白の能力でいいように操られていたんです。そしてアランさんが唯一対抗できる理由というのは───」
彼女が話したその対抗策はかなり単純なもので、あまり信用できなかった。
「そんな策で本当に対抗できるのですか? それに、ファラリスさんが悪とは到底思えません」
「……そうですか、それなら分からせてあげます」
すると次の瞬間、またしても体が動かなくなった。目の前にあるグレーの色が段々薄くなり、真っ白になってしまう。
「う……ああ!?」
まるで自分の意思が剥がれていくようだった。だがその剥がれたあとにあったものは、自身の本当の意思。
剥がれたものはファラリスによって上塗りされた偽りの意思だった。
「最初から、決まっていたんです」
ふらつく自分の前に近づいた少女は話し始めた。
「最初にあなたに会ったあの時から、『創造の白』に相応しい人物は決まっていました」
頭の中に十二色全ての情報が入り込んでくる。それらを理解し、どうやって応用するかも一瞬で分かった。
「その人物は……」
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