第12話 黒幕の正体 その2
「ワン! ワン!」
しばらく歩いたところで、シヴァ達が帰ってきた。無事居場所を特定できたらしい。三匹はすぐに来た道を戻っていく。
「行くぞ、見失わないようにな」
「うん、フェニックスも一応出そうか?」
「いや今は必要ない。あのバードを出したら目立つからな……」
走りながらそんな会話をしていると、案外近くに三人は座っていた。カフェは正直羨ましい。続いて三匹をカプセルに戻し、家屋の陰に隠れた。
「『欲望』で聞き取れるか? カイザ」
「ああ、絶賛盗聴中だ……」
真剣な表情に変わったカイザは、なんとなく頼もしく見えた。他の仲間達も静かに見守り、彼を信用している気がする。
「今のところ、特に怪しい会話や言動は無い。何かの間違いじゃあねえのか?」
だが次の瞬間、カフェの方から悲鳴が聞こえた。急いで様子を確認すると、ザーシスが無差別に人間を殴り倒していた。
「あいつ……確かボブを殺したやつだよ!」
ショアの植物が戦闘態勢に入る。俺もポケットの中のカプセルに手を伸ばす。俺の能力はカプセルを挿した箇所にその動物の力を纏わせる事ができる能力。まだザーシスの力は分からない。うかつに隙を晒す力を使うわけにはいかないな。
「ボブ……」
後悔が混じる声を発したエルナも、指先が鋭くなっていた。完全に殺すつもりらしい。
「それじゃあショアとエルナはできるだけ遠くから攻撃してくれ。エルナは傷を負った奴の治療も頼む」
二人は頷き、植物と肉塊がうねうねと動き出した。二人の外見とは裏腹になかなかグロテスクな動きだ。
「そして他の全員でザーシスを叩くつもりだ……けど、ヘルはここに残ってくれ」
「はぁ? なんで俺だけ!?」
「よく聞け、お前は色の力も持っていない。敵の攻撃を受けたら一発で死ぬ危険だってあるんだ。お前を前に出すわけにはいかないんだ」
そう諭すとヘルは悩んだ末頷いてくれた。悲しそうな顔をしていたが、これもヘルのためだ。
「……まだ来ないのか、あいつらはッ!!」
どうやらザーシスは俺達を誘い出すために一般人を襲っているようだ。これ以上犠牲を出さないためには行くしかない。
「ここだ! ザーシス……!」
俺、カブト、カイザの三人でカフェの前へと走った。だがザーシスは余裕の表情をしている。
「あっさりと釣れるものなのだな……」
ザーシスが小声で不敵な笑みを浮かべると同時に、俺達の後ろにフィシュナが瞬時に現れた。直後にステーシがショアとエルナの元へ、最後にファランがザーシスの前へと現れる。
「なんだぁ? まるで瞬間移動だ」
「いや、まるでなんじゃなくてモノホン瞬間移動だろ、これ」
カブトとカイザは慢心しているようで、他人事のような振る舞いだった。
「ネタばらしをしてやろう! ファランの能力は“弓と矢に触れたものを、任意で射抜いた場所まで瞬間移動させる能力”ッ! 暴れている私に気をとられ、上空で様子を伺っていた三人に気が付かなかったなァ~ッッ!」
罠にはめられた。そう後悔している俺にファランは容赦なく矢を放つ。咄嗟に右腕で防御するが、固く細い矢が彼の腕を貫いた。
「ぐっ……野獣化!」
野獣化によって肥大する筋肉と肉体に矢は砕け、口からはヨダレが垂れる。
「野獣化には隙がある。……俺達が食い止めろって事だな、ショオ?」
俺は反応しなかったが、カブトは腕から生えたカブトムシのツノでファランの矢を食い止めていた。カイザもフィシュナの前に立ち、威嚇のように笑いながら睨みつけたが、彼女は真顔のままであった。
*
「母さん!」
フランはザーシスの襲撃に巻き込まれ、建物の瓦礫によって意識を失っている。メリーは自分の母親が倒れた事からパニック状態となってしまっていた。
「……何故だ? フランさんは敵ではなかったのか? 誤って巻き込んでしまった、という事なのか?」
ロプトは自問自答すると、不慮の事故だという結論に至った。
「……ザーシスっ!」
メリーは復讐に駆られたのか、鬼の形相でザーシスへと走った。だがメリーの狙いは違い、倒れていた一般人達を風で遠くに吹き飛ばした。
「私はアランとは違う。私の信じる正義は……人を脅威から助けることだから」
それはまるで自分に言い聞かせるような言葉だった。するとザーシスは彼女を視認すると、不気味に笑い始める。
「フフ……ハッハッハッハーッ! フランは『王』に遣える身分であるというのに、辺境の地で子とのんびり暮らしていた……気に入らなかったんだッ! 安心しろ、今まで死んだ者達の所に逝かせてやろう! この状況でお前達に勝ち目は無いッ」
確かに強敵四人が全員揃っているが、きっとアベル達の別働隊が上手くやってくれる。そう彼らは思っていた。
「まさか、他の仲間達が先に進むとでも思ってるのかな?」
「残念ながら、あの方達は今頃ゴブリン達と鉢合わせしているでしょう」
ファランとフィシュナはそれぞれ弓と火縄銃で射撃を行いながら言い放った。
「なんだと!?」
「妙だな」
三人は射撃を防御したり避けたりしながらも思考を巡らせていた。ゴブリンとフィシュナ達は敵同士のはず。なのになぜゴブリン陣営の状況を把握できているのか。
「なんでお前らがゴブリンがどこに行ったのかを知ってんだあ? ハッタリかあ?」
カイザは『欲望』で勝手に攻撃を避けるため余裕があり、敵の四人にマイペースに話しかけていた。
「……お前達が知る必要は無い」
ステーシはエルナとショアの二人を真正面から食い止めている。全身から創り出される機械が禍々しい。
「こうなったら……キメラ!」
ショアは本能的にキメラという言葉を発し、カブトムシとライオンの遺伝子によって身体が変化していく。二つの力は薄いが、それでも同時にそれぞれの力を使えるのは大きい。それにショアには、黄緑色による植物の力もある。
「その力は厄介だな」
キメラ発現が完了する前に、ステーシは阻止しようとする。だがエルナが身体をドーム状に変化させショアの体を包んだ。
「時間は私が稼ぐ!」
するとステーシは無数のナイフを四肢から創り出し、一斉に発射した。エルナの体に突き刺さり、血が吹き出て血の雨となるもそれが目くらましとなる。
「このままでは……」
少しだけ焦ったステーシはナイフの掃射をやめ、今度は大きめの砲弾を瞬時に手のひらから創り出す。砲弾は勢いよく二人に飛び込んでいった。そして着弾の瞬間、エルナの体は縮小する。ショアが血の雨から薄らと見え、砲弾は粉々に砕け散った。
「……これがお兄ちゃんと、カブトの力? すごいよこれ……!」
赤い液体によってびしょ濡れになったショアの体は、カブトムシとライオンの遺伝子が混ざった体によりかなりグロテスクに見えた。
「はっ!」
背中から植物のツルが無数に生え、不規則にうねうねと動く。ツルはステーシに向かって伸びる。ジャマダハルによって次々と切断されるが、その隙にショア自身がステーシへと近づいた。
「フぅー……!」
ショアの右腕がライオンのように大きくなっていく。さらには爪も強靭になり、左腕にも変化が見られた。カブトと同じ腕ヅノが生み出され、左右非対称の身体は圧倒的な違和感を見たもの全てに与える。
「……受け継がれた『ショーの白』の力。やはり脅威!」
ステーシは手のひらから細い槍を創り出しショアに突きを繰り出そうとするも、ショアの背中から生えたカブトムシ特有の硬い甲皮によって阻まれた。そして植物によって男の腕を縛り、一気に引き寄せる。
「白の力を持たずとも、ここまでとは……っ!」
反射的にステーシは体を暴れさせ、咄嗟に投げたナイフがショアの頬をかすめた。
「……全部だ」
ショアは小声で呟き、ウルフカプセルを取り出した。
「今ボクが使える力を、全部使う!!」
自分の傷にカプセルを押し当て、無理やり頬の中へと入り込ませた。苦しみの声を上げながらも、ショアの身体はまたしても変化していく。
目つきと八重歯が鋭くなり、髪もボサボサに乱れる。朦朧となるショアの意識。強くなりたいという意思だけが、ショアを動かした。
「みんなの、お兄ちゃんの足でまといになるもんかぁ……!」
ライオン、狼、カブトムシの力が全て合わさった脚力でステーシへと迫る。防御も間に合わないスピードで圧倒し、暴走したように攻撃し続ける。
「ショア……」
何もかもが変わり果てた彼の姿を見てエルナは唖然としていた。援護に入る隙も無いと、彼女は思う。
「……私は、ザーシスのところへ行く」
エルナはショア一人で十分だと悟ったのか、ザーシスと戦っているカブトの元へ急いだ。
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