【創造】“白”の真相

第12話 黒幕の正体 その1

 小鳥の鳴き声が聞こえてくる。もう朝だ。上半身を持ち上げると、ボロボロのベッドが軋む音がする。

 値段が安いからここにしたが……寝心地は悪いな。ちょっと肩が痛い。

 一緒に隣で寝ていた弟はまだぐっすりと眠っている。相当熟睡しているようで、これを邪魔するわけにはいかない。


「うん? カイザとカブトがいないな……」


 同じ部屋の二人がいない。だがゴブリンであり虫の血も引いていて早起きらしいカブトと、欲望でいつ起きるか簡単に調整できそうなカイザだったため、気にも止めていなかった。


「……今どれくらいの時間か確認してくれ、頼んだぞ」


 キジのカプセルを使い、飛び出したフェザントは窓の外へと羽ばたいていく。すると直後に話し声が聞こえてきた。カイザとカブトの声だという事は瞬時に理解できた。


「おーい、起きてるか?」


 鍵もついていないドアが開く。二人は水のような透明な液体が入ったグラスを持っていた。恐らくこの宿で売っているものだろう。


「ついさっき起きたところだ。だけどまだショアは眠ってる」

「おっそうか。というかさっきな、カイザがすっげえ面白い顔してたんだよ~」


 それを聞いた途端、カイザは窓へと目を逸らした。


「こいつ牛乳飲みたかったらしいんだよ。でも俺がこいつの声を真似て砂糖水頼んだ時の顔がな……呆気に取られたアホヅラだったんだぜ」


 カイザは紫色の髪を揺らしながらでかいため息を漏らし、瞼を閉じる。


「声を真似る事ができるって……色々応用効きそうだな」


 鼻で笑いながら適当に受け答えしていると、足に何かが当たる感触がした。


「ん……ふあ……」

「ああショア、起こしちまったか。まだ寝ていたいんだったらこのまま寝ててもいいぞ?」


 たがショアは問いに答える事なく、意外な一言を呟いた。


「ボクが起きた時のお兄ちゃんの顔、アホヅラだった……」

「……マジかよ」

「今の顔はもっとアホヅラだよ」


 弟に初めて辛辣な言葉を叩きつけられ、俺は数分ベッドにうつ伏せた。



 *



「これを食うのは……なかなかきついな」


 一時間後、宿を出て城下町を歩きながら手に持つ肉塊を見つめる。

 エルナが作り出したもので、彼女が言うには栄養をこれでもかと叩き込んだらしい。だが見た目がグロテスクすぎる。肌のような色と、血の真っ赤な色が15年前の事を思い出させかけた。必死に思い浮かぶ光景を抑え、思い切ってかぶりついた。


「まっず!」

「良薬は口に苦し、だよ」


 ニヤニヤするエルナに少し苛立ちながらも、なんとか完食する事はできた。後味は悪くないかもしれない。


「またフルルさんはいつの間にかいなくなってましたね。まあ、いつもの事ですが」


 ロプトの言う通りフルルは気まぐれな人間で、気づいたら側にいない。そういう人間らしい。戦闘能力は高く、一人でも問題はないそうだ。


「まさかメリーがほいほい着いてくるとはなあ! 意外だな意外」

「それはアンタも同じでしょ?」


 近づくカイザに対し冷たい態度をとるメリーだったが、彼女には彼女なりの理由があるのだろう。


「確かシュウって奴がアランの体を乗っ取ったんだよね? ほんと……心も弱いクズだよ」


 さっきの弟の態度を受けてへこんでいたが、それ以上に辛辣なメリーを見てアランに同情した。同時に下に下がいると分かり安堵もしたが。


「それでどうするの? 私達は戦闘要員のはずだったけど、昨日は誰も敵を見つけられなかったし……」


 きっとフルルがいればここで死んだ人間の幽霊を呼び出せて楽なんだろうが、肝心な時にあの男はいない。


「やっぱ人に聞くのが一番いいんじゃないのー?」


 ヘルはまだ人生経験が浅いからか、後の事を考えてないようだ。


「昨日も言ったろ? 誰が敵なのかもわからないこの状況で、うかつに他人に関わるのは駄目だって」

「はーい、わかったよ……」


 拗ねたヘルは俺から顔を背け、見なくても嫌そうな顔をしていると分かった。



 数十分歩き続け、休むために花壇に座った時だった。急にメリーが立ち上がる。その時の彼女の顔は、呆気に取られたアホヅラとなっていた。


「え、なんでここに……!?」


 メリーが見つめていた先に立っていたのは、長いベージュの髪の、三十代後半と見られる女性だった。その女性はメリーに気づいたのか、コツコツとレンガをブーツで叩きながら歩いてきた。


「あらメリー! ここで会うなんて夢にも思わなかったわ~。どう? 旅は楽しい?」

「え、ああうん。楽しいよ……?」


 珍しく動揺している。メリーがこんなにも戸惑うなんて、何者だ?


「あのすみません。あなたは?」


 ロプトが女性に身元の確認をしようとすると、彼女はニコニコ微笑みながら言った。


「……私の名前はフラン。このメリーの母親だよ。メリーのボーイフレンドくん?」


 ただの母親だと安堵したが、隣にいたロプトは困惑している。


「おい、どうした? あの人の顔が好みじゃなかったのか?」


 軽いジョークを投げかけたが、直後彼から言い渡された事実は、もう一度俺をアホヅラにさせた。



「フランさんは、ベージュ色の力を持っています」

「……はぁ?」

「そして彼女は……僕の父さんや姉さんとレイダさんにザーシスさん、そしてファランさんと同じ『ドミネーション』……つまり、敵です。間違いなく」



 頭の中が歪んだが、なぜだか冷静でいられた。きっとフランは俺達の事に気づいていないだろう。俺達が色の力を持っていると知っていながらこの人数に近づいてくるなんて、馬鹿でもしない。


「そうだメリー。私、今からカフェに行くつもりなの。一緒にこない?」

「う、うん……別にいいけど」


 フランはメリーと手を繋ぐと、ロプトの方を再び向いた。


「あなたもくる?」

「……では、僕もご一緒させていただきます」


 俺も着いていこうとしたが、ロプトは首を振ってそれを拒否する。三人は歩き始めたが、ロプトだけはこっちを向いて何かを訴えかけてきた。


「……どうすんだ?」

「こいつらを使って三人を追うぞ。怪しまれないように、な」


 カプセルを使いシヴァ、ハヌマ、フェザントを呼び出す。この三匹の連携を頼れば、怪しまれずに場所を特定できるだろう。


「別の道から、同じ方向に行こう」


 真っ先に足を動かしたエルナの後を追いながら、三匹を待つ事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る