第11話 後悔の友情 その10

 凛々しい表情になったランダル。覚悟を決めているようだ。


「ぐっ……ランダル……!」


 今にも泣きそうな顔でミーナはランダルを睨んだ。それを見ても、もうランダルの覚悟は変わらなかった。


「一瞬で、逝かせてあげるから……」


 薄い水のカッターが薙刀の先端に生み出され、空気が切断されている音が微かに響く。これで首をちょん切る、というのがランダルの考えのようだ。


「悪いが俺は……全力で燃やしつくすつもりだ」


 じわじわと彼の周りの温度が上がる。


「お前を許しはしない。グリーの無念、晴らさせて貰うぞ!」

「友人として、家族として! ミーナ、あなたを……殺します!」


 もう羽もボロボロになり、身動きがとれないミーナに二人は容赦なく襲いかかった。


「うっ、うあああああああ!!!!」


 右腕の針を向かってくる二人に刺そうと、彼女は最後の抵抗を仕掛けた。だが間に合わず、彼女の首はカッターで切断され、胴体は炎で焼き切られた。


「ミーナ……私には、あなたを救う事ができなかった。こうするしかなかったんだ、ごめんなさい……!」


 ゴブリン特有の緑色の血がボルガとランダルに降りかかる。ランダルは言い聞かせるように言葉を発した後、その場に倒れた。近くに転がったミーナの頭を撫でながら、彼女は目を閉じた。


「ランダル……」


 失意した彼女を、ボルガは数分にわたって見つめた。彼にはまだ果たすべき目的があったが、かつての友が敵に回った者同士、何か共鳴したのかもしれない。



 *



「ミーナがやられた……! 残りのゴブリンは俺だけか……」


 マグーは近くの建物の上で様子を伺っており、かなりの危機感を抱いていた。


「人質は一応いるが……これからどうするか、もうわからない。……だったら、あの王を俺がぶち殺してやる! 俺だけでも反逆はできる……!」


 意識が無いペスを複数の腕で持ち上げ、彼は密かに王城へと向かった。



 *



「おーい! みんな!」


 レイとシャイニーが戻ってくると、彼女達はランダルを見て驚いていた。


「無事で良かった……どこに行ってたんだ二人とも?」

「ああ……それはね」

「私から言うよ」


 食い気味にレイが答える。


「私のお母さんを、殺した」

「……そうか、あの時の」


 ボルガはアイス・ゾーンで会ったあの女性を思い出した。目の前の華奢な女の子が殺したと発言した事に、彼は少し動揺する。


「私、自由になった気がする。気がするだけなんだと思うけど……でも、これで気がだいぶ楽になった」



 ランダルの復讐関係の出来事に気を取られていたアベルは、いつの間にか姿を消したペスの事を思い出した。


「そうだ、ペスはどこに行ったんだ? 確かマグーの相手を任せたんだが……」


 するとランダルの目が開き、ゆっくりと起き上がる。


「……マグーを殺そうとしたペスさんの背中を、私は斬りました。多分、今はマグーが人質にでもとっているんだと思います」


 ランダルは小さく覇気の無い声を発し、アベルを焦らせた。


「今はどこに……ってわからないよな。見習い、お前も手伝ってくれるか?」


 ペスを斬ったランダルへの怒りを抑え、なんとか応援を頼もうとするが、彼女は首を横に振った。


「私は、ここでしばらく眠っています……」


 膨大な喪失感を彼女は体験していた。それをアベルは理解していたのか、何も言わず王城の方を向いた。


「ペス、アラン……絶対に助けてやるからな……!」




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