最終話 僕達の意思 その2

 王城 正門近くにて。



「恐らく、ファラリスは仲間をまた増やしているでしょう。意思の白の力さえあれば、一つの国を纏める事だって可能なんですから」


 目立たないように城の壁沿いに歩いて進んでいたフィシュナ達は、ファラリス暗殺の計画を立て始める。


「だがよ……意思を塗り替える事ができるってんなら、国民全員にそれをすればいいんじゃないのか? なんで出し惜しむ必要がある?」


 カイザは先ほど買ってきた瓶の牛乳をガブガブ飲みながら話した。


「白の力だって有限です。同時に意思を塗り替えられる人数の上限もあるのでしょう。まあ……120人程度だと思いますよ。国民全ての意思を塗り替えなくたって、『周りの意見に流される軟弱者』はごまんといるんですから」


 相変わらずフィシュナの肩に乗っているエボルは、ロボットの姿に慣れたのか鉄の足をブラブラと揺らしている。


「……今のところファラリスと面識がある人間はどれくらいいるの?」

「もう奴の呪縛から解かれた僕やフィシュナ、さっき吹っ飛んでいったザーシスや気を失ったステーシ、少し離れた場所で生体反応が消えたレイダと今眠ってるあのベージュ色を除外するともう0人なんだよ。手がかりが無い」


 ファランがそう言うと、数秒間の沈黙が続いた。だがその流れを止めるように、ロプトが話し始める。


「……それで、どうやってあのファラリスを倒すんですか? 意思を自由に操れるのなら、太刀打ちできそうにないですが」


 すると、エボルロボットが主張するように細い鉄の右手を上げた。


「ズバリ、ファラリスに『認識』されない事です!」


 その後またしても沈黙が訪れた。


「……どういう事だ? 気づかれないようにしたらいいだけか?」


 牛乳を飲み干したカイザが腕で口を吹きながら言うと、エボルロボットは頷いた。


「一斉に、それぞれ違う方向から突撃しましょう。誰か一人でもファラリスに気づかれず、一撃を与える事ができれば私達の勝ちです」

「それじゃあ、私がみんなを運ぼうかな」


 エルナは自身を除いた他の五人を、腕を伸ばす事で運搬できる。物音を立てずに運ぶ事ができれば、かなり有利に持ち込めるだろう。


「……そうだ、メリーさんは突撃に加わらないですぐ側で待機していてください。」

「は? なんで?」


 あからさまに嫌悪感を示すメリー。少しイライラしているようだった。


「あなたのスピードを活かせば、何かトラブル……イレギュラーが起きてしまった時、ファラリスを討てるでしょう」

「……わかった」



 *



 王城の中に一人で入った俺は、妙に綺麗な状態の内装に違和感を覚えた。


「王の命が狙われてたっていうのに、誰かがここにいた痕跡がほとんど無い……ん?」


 赤いカーペットが少しズレている事に気がついた。そのズレは奥の通路まで続いており、何者かの存在を匂わせる。


「マグーか?」


 彼以外に思い当たる人物がいなかったため、早歩きで通路に向かう。マグーに連れ去られたペスもきっといるだろうと考えた。

 曲がり角を過ぎようとした瞬間、背後に気配を感じた。咄嗟に体を左に動かしながら気配の正体を目にする。


「お前は……!? マグー、なのか?」


 黄緑色の肌と髪。赤い服の上に黒いマントも羽織っている。確かにそのゴブリンはマグーだったが、目は白みが増しており、死んでいるように表情も動かさない。


「おい、ペスをどこへやった!」


 そう聞くも何も答えず、鋭い爪を輝かせながら近づいてくる。次の瞬間、マグーはこちらに向かって飛びかかった。

 爪の一撃を受ける寸前にその場から壁を蹴って離れ、今の状況を理解しようと頭を働かせる。


「よく見たら腹に穴が空いてるな……もう既に、死んでいるのか?」


 何か鋭い武器で腹部を貫かれたのか、血が流れ出ている。


「死んでも動き続ける生物のカプセルを使ったのか? いや、そんな生物いたか……?」


 動きには知性があるように見えるが、死んでいるように見えて気持ち悪い。今はとにかくマグーを倒す事以外、考えは無かった。


「まあ、倒す他無いか……」


 少し距離をとろうと後ろも見ずに後退すると、背中に何かが当たった。視線を向けるとそこには白銀に光る鎧が飾ってあった。


「……!」


 視界の端に何者かが見えた。瞬時にその人物の方に顔を向けると、見慣れた人物の姿があった。


「ペス!?」


 ペスが見つかり一瞬だけ安堵するも、彼女もマグーと同じように目が白みがかっていることに気がついた。体に傷跡は無い。

 するとペスは鎖を投げつけてきた。呆然としていたため反応は遅れたが、体を咄嗟に転ばせる事で回避できた。


「まさか……」


 慌てて振り向くと、鎖は後ろにあった鎧の首に巻き付けられており、その鎖が一気に引かれた。


「があっ!」


 重い鉄の塊は俺の上に乗り、体を動けなくし圧迫する。その隙を見逃さず、マグーは再び飛びかかってきた。

 もう駄目だ。

 諦めかけてしまったが、直後マグーは何者かに弾き飛ばされた。その人物は、黄色いオーラを身にまとっている。


「ア……アラン!?」

「だから俺はアランじゃなくてシュウって言ってるだろ?」


 手を差し伸べたシュウのおかげでアベルは立ち上がる事ができた。今度はペスの方を向く。


「俺はマグーを片付ける。アベル、お前はペスだ」

「言われなくても分かってる……!」

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