【復讐と慈悲】“彼”との誓い

最終話 僕達の意思 その1

「シュウ……アランの体を乗っ取りやがって!」


 そう叫ぶとシュウは、俺を馬鹿にするように笑った。


「ハハッ! 乗っ取ったのは確かだが……アランと俺の、復讐しようとしている相手は同じなんだよ」


 アランの体でシュウの声を出しているのは違和感があるが、そんな事はお構い無しに話していた。


「共通の復讐相手……そいつは誰なんだ?」


 ボルガは冷静に問いかける。レイに触れていたせいで思考まで冷えきったのだろうか。



「……この国の王、ファラリスだ」



 さっきまでにやけていたシュウが急に真顔になる。いや、アランの体だからその表現は違うかもしれない。


「ファラリスって、ボブが言ってたよな? やっぱアランと何か関係が……」


 ビーンが珍しく苦い表情をしている。


「そうだ。まあその関係性ってのを言っちまうと、このアランの体が暴走するから今は言えないな」


 見たところ、もったいぶってるようではない。アランが暴走してしまうなら、詳しくは詮索しないようにするか。


「それで、なんで俺達の前に現れたんだ?」


 そう問うとシュウは突然門の上から飛び降り、俺の前に立った。


「ファラリスに真っ向勝負では勝てない。それは今も同じだって事が分かった。ついさっき、ゴブリンのリーダーがあいつの餌食になったからな」

「ゴブリンのリーダー、それってつまりマグーの事だよね? そう簡単にはやられない奴だと思ってたけど……」


 メリー、カイザ、シャイニーの三人と互角に相手をしたマグーが死んだ。たった一人でファラリスはマグーを倒したという。


「そしてファラリスが持っているのは『意思の白』だ。対象の目を見つめると、そいつの意思を塗り替える事ができる、とにかくヤバイ『白』なんだよ」

「おい待て、なんでそんな詳しいんだ? アランの前に…お前とファラリスの関係を言え」


 強く言い寄ると、シュウはすました顔をしながら後退した。俺を恐れているとでもいうのか?


「ったく、しょうがねえか。話してやるよ」


 *


 あっさりとシュウは自分の事を話してくれた。かつてこの世界とは違う次元でファラリスと戦い、死に至るが創造の白の少女、エボルによってカプセルに封印されたという。

 その時にファラリスは逃走し、その逃げた先がこの今俺達がいる世界らしい。それが16年前との事だ。エボルは急いで後を追おうとしたが、次元を超えるゲートを作るのに多大な時間をかけてしまい、彼女は3年前にやっとこの世界に来たという。


 *


「そうか、違う次元の住人……。にわかには信じ難いが、嘘をついているようには見えないな」


 ひとまずアランの身を一番に考え、今はシュウの言う事を信じる事にした。


「いいのかアベル? こんな奴の言う事を信じて。急にアランの体を乗っ取ったんだぞ?」


 疑いの視線をシュウに向けながらボルガは話したが、シュウはまた笑い始めた。


「ハッハッハ! 急にぃ? そんなわけないだろ? 俺はアランと合意の上で乗っ取ったんだよ」


 人差し指でアランの頭をつつくシュウ。いくら復讐の意思が大きいからと言って、他人に体を貸してしまうだろうか。


「アランは俺に心も体も許したんだよ。ボブを死なせてしまった非力な自分に失望して、俺に頼らざるを得なくなった」

「待て、アランには頼れる仲間がいただろ? 俺たちという……仲間が」


 気持ち悪い汗をかきながら、アランに問いかけるように話す。表面上はシュウだが、あの体はアランのものだ。きっとこの会話も聞いているだろう。


「……お前らは何か勘違いしているようだ」


 笑顔が消え、見下すような目になったシュウ。


「アランはな、自分が助かるんなら他の仲間はどうなってもいいって思ってたんだぞ。何年も前からな」


 今までのアランの発言や行動を思い返すが、思い当たる節は無かった。


「いや、アランはそんな事するはずが無い。今までそんな事一度も……」

「それは表面上だけだろ」


 シュウが冷たい一言を言い放つ。


「お前も他人の心の中に入り込めるが……それをアラン相手にしたのは最初に会った一回だけだ。だが俺は常時アランの心を読んでいる。ことある事に、アランは仲間を見捨てようとしたぜ?」


 そうアランの口から言われ、急に自信が無くなる。


「ボルガと初めて会った時も、ゴブリンの幹部達に襲われた時も、カイザやフィシュナと対峙した時も。……ボブが死んだ時も。アランはずっと仲間を盾にして、見捨てようとしてたんだよ」

「だ、だが……それはお前がアランの中に入った後の事だろ? アランは、元々そういう奴じゃあないんだろ?」


 アランに信用されていないような気が増す。どんどん震え声になっていく。


「メリーの事を忘れたか? あいつは何年も前のアランの行動に呆れ怒り、そして……ある『処刑』によってメリーはアランを殺そうとしていた。アランが生まれつきそういう性格なのは明白なんだよ」


 違う。そんなわけない。そう心の中で信じ込ませようとするも、俺はアランの事を特別詳しくは知っていない。


「あれは子供達を連れていた時だったか。熊に襲われて、まだ小さい子を見捨てて逃げ出したんだよ。ところがこいつは罪悪感なんてこれっぽっちも抱いてはいなかった」


 アランへの信頼が崩れ始め、心臓の鼓動が少しだけ早くなる。


「まあお前らがアランを助けようとするのは勝手だ。だが俺がそれを許すと思うか? 答えはNOだ。せいぜい、俺の足を引っ張らない程度に頑張りな」


 そう捨て台詞を吐いてすぐに、アランの体は電撃となり城の上へと飛んでいった。空から侵入するつもりだろう。


「アラン……」


 俺がうつむいて呟くと、今度はシャイニーが話し始めた。


「あいつの言う通りかもしれない……エルナの家にいた時、アランは私とビーンの会話を盗み聞きしてたような気がしたし……」

「あの時か? 俺は全然そんな感じしなかったんだけど……ま、気づかなかっただけか」

「俺が腕を切り落とした時も、そういえばアランは俺の事を気にかけてもいなかったな……」


 ビーンとボルガもアランを疑い始めた。俺は焦り、一人黙っているレイに救いを求めた。


「レイ、お前は……」

「ねえボルガ、今の話って本当!? だとしたら最低……許せない」


 話しかけた俺を無視した態度は、俺の口から音を奪い去った。数秒考えてから、四人に背を向けた。


「お前達がシュウの言葉を信じて、アランを疑うのは無理もない……だが」


 小さい歯軋りをたてながら、強く拳を握りしめる。


「もしシュウの言った事が本当でも、俺はアランを助ける……! あいつは、今一人ぼっちなんだ! だから俺は……アランの心に寄り添って、『復讐』から解放してみせる!」


 仲間達に背を向けたまま言い放ち、城の中へと歩き出す。俺を追ってくる足音は響かず、結局一人で王城へと入ったのだった。


「……綺麗事、だな」


 独り言を呟くと、またしてもうつむいた。

 俺は身勝手だ。あいつが黄色の力を手にしてから、俺はアランとペリロスを重ねて見ていた。そう、俺はアランを第二のペリロスだと思っていたんだ。

 そしてペリロスと同じように、アランは俺の前から姿を消した。同じように再会すると別人になっていて……俺から離れていく。

 俺はアランをペリロスの代わりにしていただけだったんだ。本当に、俺は身勝手だ。


「アラン、俺は……どうしたらいい?」

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