サイドストーリー シュウ編

 ここは……?


 気がつくと目の前には見覚えの無い景色。それになんだか、僕が過ごしていた世界とは違う。灰と白色を基調とした細長い建物がいくつも建ち並んでいる。僕はその建物の前に立っており、中に入っていく人々に対応するかの様に扉は自ら動き開いていた。

 背後にある黒く平坦に整備された道の上では、色とりどりの鉄の箱が歯車を足に走っている。


 いったい、僕はどこに迷い込んでしまったんだ?


 すると建物の窓ガラスに僕の身体が反射する。そこに写った人物は僕ではなく、黄色く逆だった髪をしていた。でも名前は知っている。


“シュウ”……だ。


 袖を無理やり引きちぎった黒い服に、傷だらけの薄青色をしたズボン。それに目も細く人相も悪い。今まで彼の姿を見たことは無かったが、口の悪さは知っていて違和感は無かった。


「おーいシュウ!」

「確かここが、エボルさんが言ってた待ち合わせ場所……ですよね?」

「胡散臭いんだよなあの女……」


 右から3人の声が聞こえてきた。

 赤い短髪で背が高い男に、水色の髪でフードも被り大人しめな少年。波状をした紫色の髪をした青年。

 この人達の事も僕は知っている……『赤色』の“ケイ”と、『水色』の“トシ”。それにシュウの兄である『紫色』のキョウだ。ボルガとレイ、カイザに会った時の既視感デジャヴは、きっとシュウの意思が僕の中にあったから。でも、なんで僕だけが名前もはっきり分かる事ができたんだ?


「ま、入るしかねぇだろ」


 気楽に話すシュウは第一印象となんら変わらない。しかし建物に足を踏み入れた瞬間、景色が突然切り替わる。



 先程まで太陽に反射し輝いていた建物は崩れ、あちらこちらで炎が巻き上がっている。大勢の人間も倒れ、悲鳴も拒絶したいくらい耳に入り込んできた。

 キョウもトシもケイも、僕の前で血だらけで倒れ込み死んでいる。


「俺から奪い取れるものは全て奪い取るつもりかよ……! ファラリス! お前は絶対に許さねぇ!!!!」

「シュウさん……」


 背後からは女性の声。“エボル”と認識できた。そして僕の視界は強制的に移動させられた。建物の瓦礫に跨る初老の男性。僕の元いた世界の人物のようなマントや服装は、この世界に似合ってもいない気がする。あの男がファラリスなのだろうか。


「当たり前だろう。散って逝った“イシバシ”さんが見せてくれたあの『予見』……あの光景を現実とする訳にはいかない。それにこの力は癖になる! 新たなアクラガスを繁栄させ、我が王になるのも容易い力だ! 邪魔など許さん!!」


 激昴するファラリスも口から血を流している。改めて辺りを観察すると、僕以外に12人の死体が転がっていた。黄色以外の11色に加え、黒色の髪をした死体もある。

 ……ビーンやシャイニーに当たる『血欲』が無いのが気になるけど。


「それはこっちのセリフだ! 俺やあいつらの人生をめちゃくちゃにしやがって……。これで終わらせる!!」

『ブリッツショック!』


 ラウザーに黄色のカプセルがセットされ音声が鳴り響く。逆手持ちしたシュウは走り出し、細い刀身には電撃が纏わりついていた。しかし直後に体は立ち止まる。ファラリスの眼を見つめてしまっていた。


「この『意思の白』は何者にも負けはしない。残念だったな……!」


 近づいてきたファラリスは、建物の破片を右手で持ち上げた。白く重々しいそれは振りかざされ、頭に鈍い音が。同時に視界が歪んでいく。


「シュウさん!!」


 エボルの悲痛な呼びかけが背中に当たり、跳ね返っていくのも感じた。目の前は真っ暗になっていき、死。


 そうか、これがシュウの、『復讐の意思』なんだ。ファラリスへの憎悪は、僕にも伝わったよ。

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