第11話 後悔の友情 その7

 目が覚めた。まぶたをこすりながら周りの様子を確認する。窓からは早朝特有の絶妙な明るさの光が差し込んでいる。

 他の三人を確認しようと起き上がるが、何故かハイエンだけがいなかった。


「ハイエン……? どこにいったんだ?」


 部屋を見渡そうとした瞬間、扉が開いている事に気がついた。俺は瞬時に身構え、体の感覚を研ぎ澄ますと、一気に目が覚めた。


「そこに……! 誰かいるのか?」


 返事は返ってこない。だが微かに誰かが一人、階段を降りる音が聞こえてきた。

 ボルガ達を起こしてやりたいが、扉を開けた奴をほおっておくわけにはいかない。一人で追おう。


「これで待ち伏せしてるとかはないよな……!」


 そっと部屋から頭を出すと、蜂の羽のようなものが階段に見えた。急いで走り出すも、隣の部屋から飛び出してきた人物と思い切りぶつかってしまった。


「いって!」


 悲鳴を上げたのは俺だけで、無様に尻もちをついてしまった。ぶつかった人物の頭が俺の首に当たったため、かなりの痛みだ。


「あ、ごめんアベル! 大丈夫?」


 その人物というのはペスだった。首に手を当てている俺に手を伸ばしてくれている。


「ああ、なんとか……」


 すぐに立ち上がるも、降りていった奴の事を思い出した。


「そうだ! さっきの奴……ペスも気づいたのか?」

「うん、姿は全然見えなかったけど…それとレイにシャイニーとランダルもいつの間にかいなくなってて」

「三人が? こっちもハイエンがいない……あいつらを探さないとな、行くぞ」


 二人で下の階に降りると、玄関の扉が開いていた。恐らく先ほどの人物はミーナだろう、あんな羽、彼女以外にはありえない。


 玄関を警戒しながら外に出ると、向かいの家屋近くにミーナ、それにマグーが堂々と待ち構えていた。そしてマグーはランダルを荷物でも運ぶかのように腕でがっしりと抱えている。


「ランダル!」

「来たか、こいつはまだ死んでない。言わば人質だ。こいつを死なせたくなかったら、黙って俺達に殺されるんだな」


 俺とペスの二人じゃ、マグーとミーナには勝てないだろう。ボルガとビーンを起こしていれば勝利は確実だったと後悔する。


「ねえ、本当にランダルは死んでないの? もうミーナの毒針に刺されて……静かに息を引き取ったとかないよね?」


 ペスは確信を突く質問を問いかけたが、奴らはしばらく黙っていた。


「……この女が本当に死んでいたとしても、お前達には分かるまい。生きているという可能性に、かけるしかないだろ?」


 マグーの言う通りだ。俺達にはランダルが生きているのかどうかわからない。だが見捨てるわけにもいかない。まんまとあいつらの手の上で踊らされそうだが……どうせ踊らされるんなら派手に踊ってやる。


「俺の体は創られた肉体だ。だから毒は効かない、俺がミーナの相手をしよう。ペス、お前はマグーを頼む」

「うん。できるだけ頑張ってみる……」


 バイザーを取り出し、斧に変形させる。ロプトに頼んで前よりもサイズを大きくさせてもらった。

 ペスは武器を選ばない。正面から突っ込むタイプではないため、すぐに走って後退できるように体をやや右に傾けている。


「今までの俺達は違うって事、見せつけてやるぞ……!」



 *



「のがっ!」


 ミーナの羽を斧で断ち切り、以前のように飛んで逃げられないようにする。

 これでマグーを連れて緊急離脱とかはできなくなったはずだ。この二人をここで仕留めたら、ゴブリンの反逆は終わる!



 *



「ちょこまか動きやがって!」


 ラウザーから圧縮させた空気を放ち、一気に加速する事ができるエンジンカプセルをペスは使った。マグーの制止など聞かず、追いかけてくる彼の隙を見極めると針を発射する。ラウザーにセットされたヘッジホッグカプセルが光ると同時にマグーの胸に針は直撃し、マグーは情けなく地面に激突した。


「ぐおっ……!」


 背中を痛め悶絶するマグーの体の上にペスは飛び降りた。


「ガハッ! こ、このアマ……」

「もうそんな口、聞けないようにしてあげる」

「……ハッ! それはこっちのセリフだなあ?」


 マグーの余裕な態度に違和感を感じたペスに隙ができた瞬間、彼女の背中は切られた。ペスは倒れる最中に後ろにいた人物をなんとか確認する。ペスは、なんともいえない喪失感に包まれた。

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