第11話 後悔の友情 その6
それから二日後、戦争は終わった。ブランク王国の軍が一斉攻撃をしかけ、力ずくでゲボルグの兵達を殲滅した。ゲボルグに勝ち目は無いと踏んだ俺は一人ブランク王国につき、大きな戦果をあげた。
ゲボルグ出身だというのにブランク王国の味方をし、戦争を終わらせたおかげで『ゲボルグの英雄』なんて言われたが、全く嬉しくない。それ以上に気になるのは、ペリロスが帰ってこなかった事だった。最後に別れた南門付近へ向かうも、残っていたのは黄色のカプセルだけだった。
俺はいなくなったペリロスの想いを継ぎ、処刑人となり国中を回る事にした。ボブも象使いとしてサポートしてくれると言ってくれた。ペスの体では色々と不便なところもあるが、いつも一緒なら怖いものはない。
そして、絶対にペリロスを見つけると決め二年半の月日が経ったある日、ある町でペリロスと再開した。
「ペリロス……ペリロスなのか!?」
二年半の月日が経ち、改めて見た彼の姿は変わらぬものだったが、なんとなく雰囲気だけが違う。なんというか、目がうつろで生きているように見えない。俺に気がつき振り向いたその体も恐ろしいほどに動いていない。
「アベル、か?」
感情のないような低い声だった。
「お前……何があったんだよ?」
「…………」
俺の質問の対応を考えたのか、ペリロスは数秒固まった。だが彼は何も言わず後ろを向いて歩き出した。
「おい、答えろよ!」
ペリロスの肩を掴み無理やり引き止めようとするもその瞬間、彼は雷となりペスの体を痺れさせた。
「……っ!」
ペスは二年半もの間に声を出さない事に慣れており、痛みにも喘ぐ事なく耐えた。
「……もういいか、俺はこれから処刑人としての仕事があるんだよ」
倒れた俺達を置いてペリロスは歩いて行ってしまい、どんどん遠のいていくあいつを見つめるしかなかった。
しばらくして痺れが無くなったが時すでに遅し、彼の姿はどこにも見当たらなかったが、近くの処刑場をあたってみる事にした。
「ここら辺の処刑場はここだけだな……」
木製の扉をゆっくりと開けると、耳に悪い音がして苛立つ。部屋に入った俺達の目に飛び込んできた光景は、俺を複雑な感情にさせた。もう動く事はないであろう肉塊が、ロープにだらんとぶら下がっていた。
「こいつも何かの罪を犯したんだろうな。まあ、俺には関係ないが」
死体に独り言を話しかけながら帰ろうとすると、扉近くの床に少量の血を発見した。
「この血……まだ新しい。死体からは血が流れていなかった、つまりこの血はあの死体の遺族の血か……? 靴による足跡から見るに……ペリロスを含めて四人。男性と女性二人ずつ……か」
無駄な詮索だと思いながらも考えてしまう。遺族同士のトラブルは今までも体験した事があるか、本当に面倒だ。
「……ペリロス探さないとな」
本筋から脱線してしまった。その後もペリロスを探し続けたが、一向に見つからなかった。
*
あれから半年。再び城下町アクラガスに訪れたが、ペリロスの気配は無い。彼が行方不明になったのは自分のせいだとビーンは嘆いていたが、正直、あの時のペリロスのは普通じゃない。きっと何か理由があったのだろう。
「おいビーン、そんなに落ち込むな。ペリロスの件はお前のせいじゃないだろ」
「……あんがと。だけど、俺はそうは思えないんだよ」
「そうか……」
まだ作られて間もないような綺麗な木目の扉の鍵穴に鍵を入れる。新築独特の臭いが鼻に入った。
中に入るとそこには汚れ一つ無い綺麗な窓、いい匂いのするソファーに、シワの見えない三つのベッドなど、かなり豪華な仕様となっていた。
「値段と釣り合わないような部屋だが……これ本当なのか? 良い意味でぼったくりだぞ?」
「お前は田舎の金銭感覚に慣れすぎなんだよアベル。城下町は景気がいいんだ」
逆に今までの買い物に不信感を覚えそうだったが、なんとか頭の端に置いて気にしないようにできた。
「でも一つベッド足りなくね? 俺、アベル、ボルガ、ハイエンで四人。三つじゃあ足りねーよー」
そう言いながらビーンは一番近くのベッドに飛び込んだ。
「ここは俺のだ!」
「……!」
するとボルガは続くように一番遠くのベッドに入り込んだ。ビーンを睨みながら。
「どうする? 俺は別に床で寝ても構わんぞ」
ハイエンだけは謙虚だった。善意で俺に譲るつもりだ。
「いや、俺の体はベージュ色の力で作られた肉体。普通の人間よりは強いと思う……ハイエンがベッドで寝ろよ」
「……わかった。お言葉に甘えさせて貰う。本当に『慈悲』の意思が強いんだな、お前は」
褒めたのかそうでないのかよくわからない発言だったが、ポジティブに褒められたと受け取っておこう。
ソファーに寝転がると、ふわっとした感触が俺の背中を支えた。このソファー……田舎の宿のベッドと同等、いやそれ以上かもしれない。ペスの体と俺の体の感覚の違いはあれど、そう思う事ができた。
頭を上げ目に入ったのはクローゼット。庶民的なものかと思いきや、贅沢に木製のようにみえる塗りの鉄のドアノブを使っていやがる。もう考えると頭が痛くなる。豪華な事への喜びと、今までがお粗末だった事の悲しみで。
「俺、もう寝る……」
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