最終話 僕達の意思 その9

「城下町の皆さんの意見を元にした結果、この国を任される事になりました……私が元いた街よりもずっと大変だとは思いますが、精進して参ります」


 ファラリス死亡から二週間後、ついに王の後継が選ばれ、その人物はビリーだった。スラム街の時とはうってかわって敬語を使い、とても真摯な姿勢で話している。


「ビリー以外に適任はいないと思ったの」


 城門の前で話すビリーを眺めながら、エルナは言う。


「まあ、エルナさんが体を増やしてサクラを……いや、この言葉はこの次元では伝わりませんか。支持者を装ってもらったおかげです」


 隣にいたフィシュナの肩からエルナへ飛び移ったエボルは、エルナの頭を細く伸びたアームで撫でていた。


「でも彼、ヒゲは剃らないんだよね。その訳は私にもわからないけど……。ビリーなら、貧乏な人にもきっと優しくしてくれる。私が余計な事しなくても、多分選ばれてたんじゃないかな?」


 その時のエルナはとても優しい目で見つめていた。



 *



「最近は目立った任務も無くて暇ですよ~……あー美味しい高級レストランに行きたいな〜!」


 騎士の宿舎のテーブルに上半身を預けているランダルは、物欲しそうな顔でハイエンを見ていた。


「……奢れ、とか言うつもりか?」

「はい!!!!」


 即答したランダルを見てハイエンは鼻で笑った。


「な、なんですか! 誰かのお金で食べるご飯は最高でしょう!?」

「ん? ああ、そうだな。俺が奢ってやるよ」


 そう答えると、ランダルは右手を天にかかげ大はしゃぎしていた。よだれも少し垂れている。


「……ようやく、気持ちが晴れたか」


 それを見たハイエンは、ランダルに気づかれないくらいの声量で呟いた。親友を自分の手で葬り、気力を無くしたランダルのためにハイエンは裏で手を回しランダルの任務を少なくしていた。安堵した笑いが、漏れただけだった。



 *



 曇り空の下、ビーンとシャイニーは地図を見ながらとある場所へと向かっていた。


「コウモリを操る吸血鬼が潜んでいる古城……それがこの先らしい……急ぐぞ!」

「もう何百年も前の噂話でしょ? いるはずないって」

「吸血鬼だったら人間よりも遥かに寿命は長いはず! きっといるって!」

「はぁ……しょうがないわね」



 *



「カブトももうだいぶ慣れてきたんじゃない?」


 ショーの森の奥、ショオの家で三人は暮らす事になった。


「ああ。最初は動物たちにも警戒されてどうなる事やらと思ったが……。かわいいもんだな」


 ゴブリンの体のまま、カブトは小鳥の頭を指で撫でている。


「このまま、何事もなく平和に過ごしていきたいな……」


 ショオは窓から森と空を眺めながら言葉を漏らす。彼はトゥエルナの事を思い出していた。


「トゥエルナ……俺はこの二人と一緒に、お前の分まで生きてやるからな」



 *



「ここに死んだはずのレイのばあちゃんがいたのか?」


 ボルガ、レイ、カイザの三人は祖母が消えていった宿を捜索していた。


「ああ、俺も一緒に見てたから間違いない」


 確かに宿は整えられており、人の手が入っていたのは確実だ。だが祖母が消えてから時間も経っているため、少しホコリが溜まっている。


「フルルの仕業……って可能性はあるのか?」

「……それでも、おばあちゃんに会えたから嬉しいよ」


 レイは小さな笑顔を、天国にいるはずの祖母を想って浮かべた。



 *



「ペリロス、ボブ……ペス」


 結局ペリロスの遺体は見つからず、フルル墓地に彼の墓は見た目だけ作られた。アベルは毎週ここに来る事を胸に誓い、白色の花を手向けた。


「三人の意思はまだきっと……死んでない」


 そう言って墓地から去るアベルを、ロプトは家の窓越しに見つめる。


「僕達のために、次に必要な『白』は……。イシバシ、君が遺したものは全て────」


 その左手には『意思の白』のカプセルが握られていた。それはファラリスがアイアンメイデンで殺された事によって生成されたものだった。



 *



 半年前、あの時ここで父さんは死んだ。殺された。アベルの親友、ペリロスに。あの時はひたすらにペリロスを憎んでいたけど、彼はただファラリスに操られていただけだった。


「あいつは、お前なんかよりもよっぽど良い奴だったぜ?」


 シュウにそう言われる。それには同意せざるをえない。


「やはりここにいたか」


 背後から急に声が聞こえた。振り向くとそこには、たった今能力で瞬間移動してきたファランと、メリーが立っていた。


「ファラリスが嬉しそうに話していた処刑……ここの場所は聞かされていたからな。あの時は、興味も湧かなかったけど」


 僕がメリーに殴られ、血を吐いた跡をファランは見つめている。


「……こんな複雑な家族だなんて、思いもしなかった」


 メリーは悲哀の目でアランとファランの二人を視界に入らせた。

『クリス、?、フラン、?、アラン、メリー』

 ショオと会った時に伝えられた、父さんのメモ。あれの『?』にはきっとファラリスとファランが入るのだろう。


「曲がりなりにも、僕達は家族という事だ。……父と母は、もういないけど」


 ファランがそう言うと数秒間の沈黙が続き、気まずい雰囲気に包まれた。だが、メリーが口を開く。


「……私は、『正義』が絶対だと思って戦った。なのに、ファラリスに勝ったのはアベルとアランの……『復讐』だった。結果としては良かったんだけど、その過程が気に入らない」


 メリーは鋭い眼光をアランに向けると、ほんの少しの風が吹いた。


「だから……『正義』か『復讐』か、どちらが優れているか今ここで……!」


 一瞬で風の勢いが増した。メリーの身体は既に戦闘態勢に入っている。


「今の僕には復讐なんて考えは無いから、満足する結果にはならないと思うけど……?」


 そう言いつつもラウザーを取り出す。刃が飛び出しピリピリと電撃がそれを覆う。


「それでも……やらなくちゃいけない。やらなきゃ、私の気が済まない!」


 メリーは自分の正義という概念が崩れる事に恐怖を感じているのか? 僕はメリーに対して哀れみの感情を抱いているけれど。


「……どちらかが死にそうになったら、僕が止める」


 ファランはその場から動かずラウザーを弓に変化させた。


「君たちを……僕の家族だと思っているから」


 既に矢は彼の左手に握られている。


「仕方ない、ね……」


 僕はシュウの意思を抑え込み、自分の意思だけで戦う事を選んだ。向かってくるメリーに対し、やや弱めの電撃を撃ち込んだ。




「……私の、勝ちだね」


 数分後、僕は地べたに這いつくばっていた。メリーはほぼ無傷の状態だった。


「気は、済んだ?」


 煽りともとれる僕の発言に対して、メリーは背中を向ける。


「……いいや、全然」

「じゃあ、どうするの」


 聞くと、メリーは顔だけをこちらに向けた。


「私なりの『正義』を、見つけてくる」


 そう言って彼女は処刑場を出ていった。その時の影は、少し揺れていたように感じた。


「和解は……時間がかかりそうだな」


 傍観していたファランはアランの背中に手を回し持ち上げる。


「また、殺しにくるかもしれない」


 そんな弱気な発言をすると、シュウが小さい声でぼやいた。


「やっぱお前は弱いな」


 それに反論なんて、できなかった。




 白の反逆 アイアンメイデン 終




 *



「……これで“扉への鍵”は揃ったな? フルル」


 カラスの幽霊のコードネームは、ゼロ。フルルは頷く。闇夜のスラム街にて、彼は象の命を1つ刈り取った。鎌には赤い血がべったりと張り付く。


「ボビー……お前は最期まで健気な奴だったな」


 ボブの家族だったボビーは、目を開けたまま死んでいる。


「これも馬鹿なビーンのおかげか……。全て俺たちの掌の上だ。さあ行こうぜフルル。『希望』の始まりだ」



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