【恐怖】“復讐”との契約

第9話 復讐の意思 その1

「いや~あの時のエルナさんほんと怖かったっすよ? 冗談だって言ってたけど、声は本気に聞こえましたから……」


 あれからエルナは僕達を三人一組のチームに分けた。


 ショア、ショオ、ロプトのチームα。

 ボルガ、レイ、カイザのチームb。

 ビーン、アベル、ペスのチームc。

 そして僕、エルナ、ボブのチームd。


 残りのシャイニーにメリー、それにヘルとフルルは今回は待機らしい。だけど、なんでエルナが着いてくるんだろう。自分も働かなきゃいけないとでも思ってるのかな……。


「え~そう? 私演技もできるのかなぁ……?」


 なんだか嬉しそうな表情をしているように見える。他人と話す時のエルナは常に楽しそうだ。


「そういえばボビーはどうしたの? 連れてった方がいい気がするんだけど」

「いや、あいつ随分疲れてるみたいだからな……しっかり休ませてやりたいんだ」

「ふふっ、ボブは優しいんだね!」


 エルナがボブに向かって微笑むと、彼は顔が赤くなっていた。


「い、いや……そんな事ないっすよ。ハハッ……」

「そんな事あるってえ~!」

「わっ背中触らないでくださいよっ!」


 二人のイチャつき、というかエルナのちょっとしたイタズラとそれに満更でもないようなボブを眺めながらゆっくりと砂利道を歩いた。



「目的地、着いたよ」


 目の前には木製の大きな建物がそびえ立っていた。城下町の人気宿屋くらいの大きさだ。


「ここに仕事をくれる人がいるんすか?」

「うん、私が産まれる前からお世話になっててね。この街を束ねる長みたいな人で、どぎつい顔してるけど優しいんだ」


 扉のすぐ側にいる見張りらしき人にエルナが近づくと、すぐに扉は開かれた。かなり信頼されているらしい。


「お邪魔しまーす……」


 小さい声で呟きながら建物の中に入ると、想像していたよりかなり荒れている景色が僕達を待っていた。


「ビリー! 今週の仕事、貰いに来たよ」


 エルナは真っ先に奥へと早歩きで向かった。さっき言っていたこの街の長らしき人物が見えるが、ここからは詳しくはわからない。


「……ああ、ゴブリンがこの近くにも出没し始めてな。ただでさえ戦える人間が少ないというのに、困っていた所だったんだ」


 ビリーと呼ばれる男の声がはっきりと聞こえる所まで近づくと、改めて彼の外見を観察した。男にしては少し長い真っ黒な髪とうっすら見える髭。右目には眼帯を着けている。スラム街の人間にしては高級そうな服装で、上も下も黒い服だが、白地のシャツを下に着ているのもわかった。


「それで、ゴブリン達はどこに?」

「ここから南西の林付近だ。奴らは地面に穴を掘って暮らす種族……。突然下から現れる事もある、気をつけろ」


 エルナの言う通りかなり険しい顔をしているが、声のトーンは優しく会話の内容も相手を気遣っている。この人なら安心できそうだ。


「ん? お前達二人がエルナのお供って感じか……?」

「えっ、あっはい……」


 突然話しかけられたから適当な返しをする。いったい何なんだ?


「どうだ、今から俺と手合わせするってのは?」


 彼は腰に着けていた木刀を引き抜き、僕達二人に先端を向ける。


「本気なのか……?」


 隣にいるボブが鞭を取り出し構えた。同調圧力というものか、僕もラウザーを取り出す。


「エルナが選んだ人間なら相応の実力を持っているのだろうが、俺はあいにく信じられない。俺の膝を床に着かせたらお前達の勝ち、仕事をやろう。だがお前達二人が倒れて負けても、仕事をやる。……ただの俺の気まぐれさ。もう二度と、エルナに親しい人を亡くす気持ちを味合わせたくないって気持ちもあるが」


 ビリーはゆっくりと近づいてくる。手に持っている木刀を構えもしていないが、油断は禁物だ。


「アラン危ねぇ!」


 突然ボブが叫び、驚いて体が止まってしまった。すると直後に鞭の耳に響く音が鳴り、僕の足元に木刀が転がった。


「え……何これ?」

「やっぱり見えなかったのか。俺ですら一瞬見えただけだったからな……!」


 ビリーを見ると持っていた木刀が無くなっていた。……つまり、あれを投げたって事か!? 僕には全く見えなかった。音もしなかった。


「そっちの鞭使いはやるようだが、少年。お前はまだまだみたいだな……?」


 余裕の表情を浮かべるビリーに少しの恐怖を覚え、頬に冷や汗をかく。僕は感覚を集中させ、次に相手が何を仕掛けてきても対応できるように構える。……まあ、自信は無いけど、やらないよりはマシだ。


 ……カチャ──


 ビリーの体から聞こえてきた物音。彼に集中し、彼以外を視界から消した。次の瞬間、ビリーの右袖から何かが飛び出るのが見えた。僕の方に向かってくるそれを電撃で打ち落とそうと構える。


「間に合えっ!」


 思わず目を瞑る。「カラン」という音が聞こえ恐る恐る目を開けると、木の棒が部屋の端で転がっていた。


「俺の最速を捉えるとは……」


 これなら、この調子なら、いける!



 *



「仕事って言ってもな……俺達は今まで森で暮らしてたんだぜ? 何もわかんねぇよ」

「そのために僕がいるんです。任せておいてください」


 あれからボクはお兄ちゃんとロプトの二人と一緒に行動する事になったけど……不安だ。いつもは頼りになるお兄ちゃんが、今は頼りない。


「ふあ~ぁ」


 またあくびしてる。お兄ちゃんは普段この時間に寝てるから。


「ああもう限界だ。俺はもう寝るぞ……ショア、膝枕してくれ……」


 廃墟の階段に座ったお兄ちゃん。仕方ないから言う通り隣に座り、膝枕してあげるとすぐに眠ってしまった。


「はあ、これじゃあほんとにロプトの実験体にされちゃうよ……」

「いえ、あなた達二人は実験に使うつもりはありません。……僕が、仕事を探してきます」


 そう言うとロプトはボク達を置いて行ってしまった。


「まあいいや。それにしてもお兄ちゃんの寝顔、可愛いなあ……」


 頭を撫でながら呟くと、急にお兄ちゃんの目が薄く開き、思わず顔が赤くなり恥ずかしくなった。


「……お前の方が、可愛いぞ?」

「えっ……!?」

「やっぱり、驚いた顔はもっと可愛いな」


 反応に困り、しばらく無言の間が続くと既にお兄ちゃんは眠っていた。


「もう……」


 確かに、今のお兄ちゃんは頼りない。でも、今度はボクを頼ってくれてる気がする。時に頼り時に頼られる。それが、家族ってものなのかな……。

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