第10話 創造の白 その7
「ぐぬぬ……貴様~……! ハッ!?」
悔しがっている男は何かに気づいたようで、俺を無視し公園の入口へと走っていった。そこには一人の女の子がフラフラと歩いていた。
「まずい! そこのお前、逃げろ!」
できる限りの大声で叫んだが、時すでに遅し。カメレオンの体は大蛇に変化し、女の子を丸呑みにしてしまった。
「く、くそッ……!」
……俺のせいだ。俺が人の集まりやすい公園で少し休んだせいで、あの女の子は食われた……!
「フロウスさん! ジャマダハルを僕に渡してください!」
直後に聞こえたロプトの声。俺は考えるよりも先に体が動いていた。ジャマダハルを投げると、ロプトの手中にすっぽりとはまった。
「斬ります」
そう一言だけ聞こえた瞬間、ロプトは蛇の腹を切り裂いた。
「ギエエエアアアアアア!!」
男の情けない悲鳴を気にもかけずロプトは腹を切っていく。丸呑みにされた女の子はまだ消化されておらず、粘液まみれだったが気を失うだけで済んでいた。
「人質にでもしようとしたんでしょうが……残念でしたね」
「グ、グエッ……」
ロプトはジャマダハルを突き刺し、それが最後の一撃となった。蛇の身体はそのまま動かなくなり、男が元の姿に戻る事は無かった。
「さあ、残るは父さん……あなた一人です」
一人になった灰色の男は余裕そうに体に付着した氷をはらっていた。
こいつ、仲間が殺されたっていうのに動揺すらしないのか?
「この男は金で雇われた、王にも従わないただの屑だ。本命は……もうじき来る」
「なんだと……?」
辺りを警戒する。ロプトもセンサーを手に取っていたが、何も反応は無いようだ。こいつのハッタリか?
「いや……来ます。あそこを見てください」
ロプトが指さした先は曇りの空。一見何もないように見えるが、目をこらすと何かが近づいてきている事がわかった。それが人間だと理解した直後、その人間は勢い良く地面に着地した。
「フン……!」
筋肉が異常な程に発達したその男は、可愛らしいピンク色の髪の毛とは裏腹に、傷だらけの顔と大柄な体型を俺たちに見せつけた。
「な……本当に人間なのか、こいつ!? あんな高さから落ちて……!」
男の足にはクッションのような肉の塊があった。あれで衝撃を押さえ込んでいたようだ。
「あらかじめベージュ色の力で肉クッションを用意しておき、緑色の風でここまで飛ばしたというわけだ。……そしてその二人は今、他の色の奴らと共にお前達の仲間の元へと向かっている」
そう告げられたと同時に、ピンク色の男は俺たちに突進をしかけた。予想外のスピードとパワーで吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
「こいつは……マジで厳しいかもな……!」
*
ロプトの力で強化された元小屋、現拠点にて
「なあ、お前達はどのくらいの付き合いなんだ? ペリロス」
話す話題が底をつき、黙っていた俺にワインドは親切に話しかけてくれた。
「え? ああ、俺とアベルとボブの事か? それなら、全員幼なじみってだけだぞ」
「そう、か……」
せっかく話を振ってくれたっていうのに、俺はなんて口下手なんだ。こんなに早く会話を終わらせてしまうなんて。
「あ、そういえばペリロスの職業は何なんだ? 俺、小さい頃からずっと兵士として育ってきたから、他の人の仕事とかに興味あるんだよ」
俺はその質問に答えようか、一瞬だけ迷った。だがその一瞬は、俺には数十分のようにも感じられた。
「処刑人、だよ……」
感情が無いような低い声で、俺は、話した。
「あっ……そうなのか」
ワインドはさっきまでと変わらない反応を示したが、やはり不安だ。内心嫌われているのではないか、そんな気がしてならない。
「ボブは象を使って人や物を運んでる。アベルは親の農業を手伝ってたよ」
話を逸らそうと二人の仕事の事を話した。俺の思惑通り、ワインドは俺の仕事については聞いてこなくなった。だが一度知ってしまった事はなかなか記憶から抜け落ちない。
「おい、このセンサー……ってやつに、なんか映ってるぞ~?」
ビーンの声で気づく。壁に貼り付けられたモニターには、緑、ベージュ、オレンジ、そして茶色のマークが点滅していた。どんどんこちらに近づいてきている。
「これ、敵がこっちに来てるって事でしょ? ……だったら早く準備した方がいいんじゃない? 戦う準備をさ」
そう言うとシャイニーはラウザーを取り出し、窓から様子を伺った。まだ目で見える範囲には来ていないようで、こちらに向かってオーケーサインを出した。
「ふむ……私に授けられた力はかなり使い勝手が良いようだ。どんな攻撃も避けたいという欲があれば体が勝手に動いてくれる。私の身体能力の限界を引き出せるだろう!」
エイモナは紫色の髪の毛をサッと手で払いながら外へ出ていった。
どんな攻撃も体が許す限り避けられるのは頼りになりそうだ……あの男の性格は好きじゃないが。
「なあペリロス、俺と組まないか?」
ワインドに背後から話しかけられる。少し驚いてしまったが、彼と協力できるのならば心強い。
「ああ、確かあんたの力は……緑、風だよな? 俺は雷を操って、あんたは風を操る。なかなか連携しにくそうだが、なんとかやってみるよ」
「……いい面構えだ」
年上に対して敬語を使わず話していた事に今気づいた。だが今はそんな事を気にしている場合では無い。ここにやってくる敵を返り討ちにしなくては。
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