【正義】“彼女”との溝

第6話 黒き灰の野望 その1


 ようやく森から抜けた僕達は、ボビーに交代で乗りながらアベルの案内の元、カプセルを生産している所へ向かっていた。


「久しぶりに黄緑色と青色を見た気がする……」


 あの後、僕はショアとランダルからカプセルを借り黄緑と青の色覚を取り戻した。どちらの色も綺麗で、目が癒される。


「そういえばヘル、一晩ずっと一人だったよね? 大丈夫だったの?」


 気になっていた事を聞く。あんな暗い森で一人は怖いはず。


「……え? あぁ、うん。フェニックスと森の動物達のおかげで助かったんだよ……。食べられる木の実とか持ってきてくれたし。まあ、苦かったけど……感謝しなくちゃな」


 何気ない話をしていると、すぐに日が落ちてきた。


「今日は野宿用の道具やテントを持ってきてる。あの木の下だ。あそこで寝るぞ!」


 アベル達と一緒にテントを張り終わると、軽い食事を摂って眠る準備をした。布団も持ってきてくれたようだ。ボブには感謝しなければならない。


「ほら、お前ら子供は早く寝ろよ。俺達三人が交代で見張りをする。熊やらゴブリンやら出てくるかもしれないからな」


 熊というワードに、僕の体は勝手に反応しボブの方を向いた。リンゴ好きになった一件で、熊の事は半ばトラウマになっているから。

 アベル、ボルガ、ボブが見張りか……でも、ボルガは僕より少し年上にしか見えないけど。


 僕達四人はすぐに布団へ潜った。レイはボルガの声がする方向に頭を向けている。ヘルは既に熟睡していた。


「俺もまだ年で言ったら子供だと思うんだけどなぁ……」

「流石に二人じゃ厳しいからな? それに暖まるし、便利だな」

「俺を松明代わりにするなよ……まあ、減るもんじゃないからいいか」

「俺の今の状態で言ったら、俺もボブと同じとは言えないかもな……」

「……ああ、そうだな。早く、見つかるといいな。『憂鬱』のベージュ色に適応できる人物を」


 声が大きくてなかなか寝付けない。それに話の内容が気になる。アベルは服を何枚も着込んでいるようで、体のラインなどわからず、義手の腕くらいしか確認できない。


「やっぱりお兄ちゃんがいないと眠れないよ……ちょっとうるさいし」


 ショアも僕と同じ状況だ。見張りをするのはいいが寝ようとしている人の事も考えてほしい。


「ねぇアラン、お兄ちゃんの代わりになってくれない? ほら」

「えっ、ちょっ……!」


 ショアが僕の脇腹に手をかける。振りほどこうと思えばできるのに、体が動かない。自分の腕をよく見ると植物で固定されていた。


「こうすると寝られる。ありがと……」


 こんな大胆な事をしてくるのか……まだ子供なのに。いや、子供だからできるんだろう。 連られて僕も眠くなっていった。このまま眠れるんだったら、都合がいい。


「うぅ……お兄ちゃん……」


 完全に眠った後にその言葉が飛び込んできた。



 *



 お兄ちゃん!

 お兄ちゃん、子供人気あるもんね。

 お兄ちゃん、そっちは任せたから。

 お兄ちゃん、なんで見捨てたの?

 お兄ちゃん、なんで……なんでなの!?

 お兄ちゃん……話しかけないでよ。

 お兄ちゃん……こんなのってないよ……!

 お兄ちゃん……もう消えてよ。


 お兄ちゃんなんか、お父さんの代わりに死ねばよかったのに!



 *



 目が覚める。目の前には相変わらずゴーグルを頭に巻いたボブの顔があった。


「だいぶうなされてたが……悪い夢でも見たか?」

「あ……まあ、そんな感じ……」

「……こっち来いよ。話くらい聞いてやる」


 ボブに言われるがまま連れていかれた。テントから出るとアベルが見張りをしていた。ボルガは地面に寝転がっている。


「ちょっとアランと話をする。悪いが、二人で見張っててくれ」



 ボビーに乗り、少し離れた池に着いた。月の光が反射して、とても綺麗に輝いている。


「なあ、何があったか説明してくれないか? うなされてた時、あまりにも苦しそうだったからな。……無理にとは言わない。話せる所まででいい」


 今まで話せる相手がアベル以外にいなかったからか、すぐに父さんの事、その時の妹や母さんの反応の事、全て話した。話し終わるとなんだかスッキリした気分になっていた。


「そうか。……大変なんだな。俺がお前を心配してるのには訳があってだな……カプセルの『意思』とお前の『意思』、それが一致してるんだ。おかげで強い力を手に入れてるが、『意思』が一致しちまってるせいで、その目的のためなら非情になる危険があるんだ。前例もある……わかったか?」


 ボブはボビーの硬い体を撫でながら言っている。僕は頷いた。でもボブが話した事の意味が理解できなかった。この復讐の『意思』は僕の意思だ。カプセルの物なんかじゃない。それだけは……断言できる。よくわからないけど。

『クリス、メリー。? 、フラン、? 、アラン』

 父さんが残したこのメモの意味も、早く突き止めないといけない。


 *



「お前ら! 早く起きろ!」


 アベルに無理やり目覚めさせられる。昨日はあまり寝られていない。できればもう少し眠っていたかった。アベルの話によるとどうやら目的地はすぐそこのようで、体を伸ばして眠気を追い払う。


「ふぁ……俺もあんまり寝てないな……レイはどうだ?」

「私は大丈夫だけど、ボルガはもう少し休んでもいいんじゃない?」


 それに対しボルガは首を横に振り、すぐに準備へと取り掛かった。レイはボルガを心配しすぎているみたいだ。


「ヘル! まだ起きないよ……」


 ショアがヘルの体を動かし起こそうとしているがなかなか体を持ち上げようとしない。あんなに寝てたのにまだ足りないのだろうか。


「こうなったらフェニックスを使って……!」


 ショアがカプセルに手をかけた瞬間、ヘルは飛び上がってカプセルを取りすぐさまポケットへと突っ込んだ。


「びっくりしたぁ……そんなのできるんなら早く起きてよね」

「……こいつは俺の家族なんだよ。俺の許可無しに触らないでくれ」


 身勝手だと思った。こうなったのはヘルが起きなかったせいなのに。


「さ、子供は象に乗りな。距離は短いから俺達も疲れない」


 ボブの言葉に甘えボビーの背中へと乗る。だがレイはボルガと一緒にいたいらしく、歩いていく事にしていた。


「よし、俺が先頭だ!」


 ヘルはボビーの首に繋がれた紐を握り満足そうにしている。ショアはヘルの後ろ、僕が一番後ろだ。



 *



「あの奥の道だ。ボビーは通れないから、ボブはここでボビーと待っていてもらうぞ」


 かなり道の幅が狭い。この奥にカプセルを作った人が本当にいるのだろうか? もっと堂々と街の真ん中にあるものだと思っていた。


「あそこだ。墓地の隣にある、あの建物だ」


 あの墓地……父さんの骨が埋められた場所だと聞いた。『フルル墓地』だ。看板にもそう書いてある。……僕は初めて来る。


「俺はあいつと話をしてくる。お前らは……墓地でも見たらどうだ」


 アベルの提案に乗った。父さんの所に行こう。ボルガ達には適当に歩くと伝え、父さんを探した。



「あれ……あそこにいるのって、人?」


 人の後ろ姿が見えた。墓の管理人なのだろうか。他に人がいる気配はない。


「管理人だったら父さんがどこにいるのかもわかるかもしれないな……」


 早歩きで人影へと近づく。


「あのっ、すいませ──」


 僕の声を受け、その人物が振り向いた時、僕は後悔した。今までの人生で最も後悔しただろう。



「アラン……!」

「メリー……?」



 そこにいたのは僕の妹、メリーだった。ベージュ色のショートヘアが風に揺れている。黒色のジャケットに黄色いマフラー、左足にだけ履いている黒いニーソックスという服装からは、以前の真面目な雰囲気は感じ取れなかった。


「なんで……なんでここに来たの?」


 その問いに僕は答えられなかった。家族には旅をしてくると伝えただけで、復讐の事なんて話していなかった。妹を直視できないまま数秒が過ぎる。


「早くここから消えてよ。もう顔も見たくない……!」


 僕は早々に去ろうとし、振り向いた。するとヘルがこちらに向かって走って来ていた。


「やばいって! ゴブリンが街を襲ってる!」


 正直、赤の他人がどうなっても僕の知った事ではないけど、褒められるのなら人は助けた方がいい。街へ向かおうと歩きだすと、メリーが僕達を追い抜いて走り出していった。


「なんだ? あいつ……」

「さあ? 知らない人だよ」


 ヘルに嘘をついた。仲間から見捨てられたくないからだ。もし話してしまったら、ヘルの性格だとメリーを追って話を聞くだろう。そうはさせたくない。


「ボルガとレイは西の方に行ったから……俺達は東に行くぞ! でもアベルがまだ戻ってきてないんだよな……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る