第7話 紫の欲望 その10
「……ん? おわっ! めっちゃ集まってんじゃん何してるんだよ~!」
「ちょっと黙ってて」
「ボフェッ!」
唐突にやって来た二人。シャイニーの裏拳がビーンの顔に直撃し、気絶したようにビーンは倒れた。何もそこまでする必要は……。
「……これは、どういう状況だ?」
「あっボルガ……ってなんでレイが……?」
「カイザさんもいるんですか……」
アベル、ショア、ロプトと続々と仲間達が集まり、少しだけ安心感が湧いてくる。ロプトだけがカイザの事を知っているようだ。この人数なら、なんとか立て直せるかもしれない。
「集まったか……さあ、俺を楽しませてくれよ」
ついさっきまで一緒にいた彼なのに、殺意をこちらに向けている。いや、ここにいる全員にだ。
「全員でかかってこいよ。レイが欲しいんだろ?」
カイザはラウザーを取り出し、紫色のカプセルをセットした。
『グリード! エモーショナルブレイク!』
ロストラウザーは音声が鳴るのと同時に、カイザ自身の背丈と同じくらいの大きさのハンマーに変化し、カイザはそれを軽々と持ち上げる。
「ああ……お前を倒して、レイを取り戻してやる!」
「行くぞお前ら。あいつを他の奴らに取られたら厄介だ」
ボルガとゴブリンはやる気満々みたいだが、フィシュナとファランの二人は動かなかった。
「……ファランさん。今の彼女は、あなたにはどう見えますか?」
「汚れてる。あれじゃあ、『白』の力を存分に発揮する事ができないだろう」
「そうですか、残念です。……ちょうど今連絡が入りました。撤退命令です。しゅっ」
フィシュナはファランの弓を掴み、二人で一緒に空に矢を放つと、オレンジの光と共に一瞬で消えた。
「減ったか。まあいい。お前ら五人が相手してくれるのか?」
カイザの質問の答えには応じず、ボルガは真っ先に突っ込んでいった。戦いながら、彼はレイに呼びかけている。
「レイ、俺達の所に帰ってこい! 今度こそ守ってやる!」
「……うるさい……!」
レイが放った氷によってボルガの足が凍り、ハンマーの一撃が腹部に直撃した。
「があっ……! レイ、なんで……!」
勢いよく吹き飛ばされたボルガは腹に手を当てながら必死にレイに訴える。
「……私は、殺されそうになったんだよ! 人質だって分かってても、怖かった……! あの時、ボルガが守ってくれなかったのが悪いんだよ! それに……それに!」
「ボルガの声で罵倒され続けたから、だろ?」
レイの声をかき消すようにカブトのゴブリンが話し始めた。
「最初の方は助けを求めていたが、目隠しをさせて俺がボルガの声で痛めつけてやると大泣きしてなぁ……好きな奴に裏切られるってのは、嫌だろ? 怖いだろ?」
「お、俺はそんな事しない! そうだろ? レイ!」
レイへと手を伸ばして説得しようとしている。だが、彼女は更に追撃を加えた。
「もう、ボルガの声なんか聞きたくない! ……消えてよ!」
「ああ、弱い奴に守られる必要なんて無い。これからは俺が守ってやるよ。俺が『皇帝』となり、お前が『女王』……そんな世界を作ろうぜ」
カイザはレイの左肩に手を乗せ、笑顔を彼女に向ける。
「うん……カイザは優しくて強いもんね……」
「いやちょっと待てよ……!」
ビーンが起き上がり、傷だらけの顔で話し始めた。
「好きな奴に罵倒されるのが嫌……つまり、まだお前はボルガの事が好きってわけだろ?」
「な……そ、そんな事ないし! 痛めつけられたから嫌なだけだし!」
無防備なビーンの顔面に氷が放たれ、ビーンは悶絶した。
「うおおっ!? さっきの傷口に染みて痛い! 痛い!」
……ビーンのおかげで分かった。レイはまだ、ボルガの事が好きなんだ。彼女を取り戻せる可能性はある。
「よそ見するんじゃねぇぞ!」
カブト、フライ、キリ、ミーナの四人がかりでカイザを囲み、一斉に攻撃をしかけるゴブリン達。だがカイザには当たらない。どれも寸前で避けている。
「なんで当たらないんだぁ! 大人しく止まってよ!」
攻撃のスピードは上がるが、それに合わせてカイザの動きも早くなっている。
「今だレイ! 動きを止めろ!」
突然の合図だったが、少し離れていたレイは即座に対応し、ゴブリン達の足元を凍らせ動きを封じた。
「一気に吹き飛ばしてやるよ……オラア!」
カイザはハンマーを自分の周りで一回転させ、四人を吹き飛ばした。するとフライが僕達の方へ吹き飛んで来る。
「……ナイスパス」
耳元で小さく聞こえたメリーの声が消えると同時に、目の前に黄緑色の液体が飛び散った。僕の顔にも多少かかる。
「お、お姉ちゃん!」
カマキリのゴブリンが叫ぶ。メリーの拳がフライの腹部を貫いていた。
「まずは一人っと……!」
まだ力尽きていないのか、フライの体は小さく痙攣している。そこにメリーは止めの一撃を顔面に打ち込んだ。
「……あんた結構やるじゃん」
メリーは睨みながらカイザを褒めている。だがメリーの殺気は収まっていない。
「んで、あんたは何人殺したの?」
「ハッ……数え切れないほど、だな」
その言葉を聞いたメリーは血だらけの腕をハンカチで拭き、カイザを指さした。
「じゃあ、あんたも殺してあげる。……嘘なら、今のうちに白状してよね」
「面白れえ女だ……お前みたいな強気な女を犯せるって思うと、興奮するんだよ……今までに何回もしてきたからなあ……」
「最っ低……!」
目にも留まらぬスピードで突っ込むメリー。この戦い、どっちが勝つんだ……?
「よ、よくもお姉ちゃんを……! 殺す! 殺してやる……!」
視界の右端でキリが走り出そうとしていたが、カブトのゴブリンが肩を掴み静止した。
「……このまま戦ったらお前まで死ぬぞ。勝てる気がしないし、撤退する。フライがやられた事を悲しむのは帰ってからだ」
「でも……!」
「キリ……お前にまで死んでほしくは無い」
彼の目は悲しみで溢れているように見えた。フライが死んで一番悲しんでいるのは彼なのかもしれない。
「次会った時、ぜったいにお前を殺してやる!」
そう言うと彼らは逃げて行った。少し可哀想な気持ちになる。いくら子供みたいに身勝手だからって、いや子供みたいだからこそ家族が殺されるのは嫌な気分だろう。
目線を戻し、メリーとカイザの戦闘を眺める。メリーですらカイザに攻撃を命中させる事ができていない。メリーの攻撃は完璧に見えるが、どれもスレスレで避けている。あれがカイザの力、なのか?
「なかなかの拳撃だ。だが、それだけじゃ俺を殺せないぜ?」
カイザは余裕の笑みでメリーを煽っている。メリーのスタミナが尽きるまで避け続けるつもりなのだろう。
「……だったら!」
そう言うとカイザめがけて大きな風が吹く。シャイニーに向けて放たれた時と同じく、カイザの体勢は崩れ、その隙をメリーは見逃さなかった。彼女の拳がカイザの腹部に直撃し、吹き飛ばされた後に壁に勢いよく激突する。
「……風を上手く利用してきたか。やっぱいいよなあ……命懸けの戦いってのは……」
「あなたぐらいの人なら私の隙を突けるでしょ。なんで攻撃してこなかったの?」
それを聞いたカイザはゆっくりと立ち上がり、笑い始めた。不気味で耳障りな笑い声だ。
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