第8話 支配者への反逆 その8
「お~~い! 起きろ兄ちゃん達ぃー!」
ライガのやかましい声で目が覚める。重いまぶたを指で開くと、ヒョウガが大声を出した彼に向かって説教をしていた。
「おいライガ、いくらエルナさんの知り合いだからって馴れ馴れしすぎだ。……すみません、こいつがうるさくて……」
ヒョウガは常識をわかっているように振舞っているが、今ひとつ友との絆に欠けている。だが彼は彼なりに仲良くなりたいと思ってはいるようだ。
「別にいいだろ! 大声で言わなきゃ起きてくれないかもしれないだろ! それにエルナの作った飯が冷めちまう」
「うっ……確かにそれはそうだが……。わかったわかった。みなさん、エルナさんが朝ご飯を作ってくれています。冷めない内に、早く食べましょう」
他の人達を起こそうと隣を見るとショオが眠っていた。ショアはショオの腹に手を回し口を少しだけ開けながら眠っている。
「二人とも起きて……」
僕も眠い。朦朧としている意識をなんとか立て直し、二人の肩を揺する。
「ん……もう朝か……。ショア、起きるぞ」
「あ、うん……わかったぁ……」
ゆっくりと起き上がるショアを支えていると、ヒョウガから水の入ったコップを三人分渡された。彼が言うには氷を炎で溶かしたものらしい。僕の分を飲んだ後、ショアの小さい口にコップの水を慎重に入れた。
「ありがとアラン……。目が覚めたよ」
「悪かったな。じゃ、俺達は先に行ってるぞ」
二人はライガの後を追って部屋から出ていった。少しはいい事、できたのかな……?
「あと残ってる人は……」
部屋を見渡す。残っていたのはシャイニーにビーン、レイと幽霊の鎖で縛られているカイザの四人。
「ねぇレイ、ボルガも待ってるし……早く行こう?」
だが彼女は無言でカイザへと近づいた。やっぱり昨日からカイザにべったりだな。ボルガが可哀想だ。
「……なあ、せめて食事くらいは摂らせてくれないのか?」
そうカイザが自身を縛っている鎖に聞くと、足に巻いてある鎖だけが消滅した。
「お、意外と親切なんだな。レイ、お前も来るか?」
「……うん」
小声で了承し、手を繋ぎながら二人は部屋から出ていった。カイザの腕は鎖で縛られており繋ぎにくそうだったが……もしボルガがこの光景を見たら怒るだろうなあ。
「シャイニーとビーンも、一緒に食べようよ」
「……ああごめん! こいつ全っ然起きないからさ、先行っててくれる? 起こすのにも結構時間かかると思うから……」
僕はシャイニーの言葉に甘えて先に行く事にした。ビーンはやっぱり起きられない、か。
「お、来たかアラン!」
僕を待っていたのは予想外の人物だった。外見は全くの別人だが、声で分かった。
「あ……アベル?」
ピンク色のくしゃくしゃした短髪。同じくピンクの目。前までのアベルとは背も少し高いように感じる。濃い茶色の上着を着ていて、前まで全身真っ黒だったせいか新鮮だ。
「ごめんな……心配しただろ?」
アベルは頭を掻きながら申し訳なさそうな、覇気の無い顔で僕に謝った。すると直後に彼は右手を出した。
「これは……?」
「とりあえず握ってみろ」
言われた通りアベルの手を握ってみると、少し力を入れられた。
「……これからも、よろしく頼むぞ」
アベルは穏やかな顔をしていた。僕も、仲間が違う姿だけど帰ってきて嬉しい。
僕達の人数分のテーブルとイスは既に用意されていた。近くにあったイスに座り、部屋を見渡す。ライガが正面にあるドアから現れ、朝食を運んでいる。
「あの扉の奥でエルナが料理してくれてるのかな……」
僕達全員分の料理を作るのは大変そうだ。感謝して食べないと。
「隣座るぞ?」
アベルが隣のイスにゆっくり座ると、自分の腕や足をまじまじと見つめていた。
「……自分の体をこう、直感的に動かせるっていうのか? こういう感覚は久しぶりだ。ペスの体を借りてた時は、ワンテンポ遅れるというか……。動きが鈍かったんだよ。最近になってそれが強まってきて……あのピンクの大男との戦闘じゃ、特に目立ってたな、回避が間に合ってなかったし」
「エルナさんに感謝しないとな~!」
指を一つずつ動かしているアベルの隣にボブが座った。二人は昔からの親友みたいだけど、ボブはこの事をどう思ってるんだろう。
「そういえばお前、なんでエルナに対して敬語なんだ? 同じ年上のショオにはタメ口だってのに」
「あー、実はな……」
ボブが僕達二人にだけ聞こえるように囁いた。
「俺、ああいう女の人好みなんだよな……」
思わず鼻で笑ってしまった。何か重要な事を言いそうな雰囲気だったのに…アベルも口を抑えている。
「な……何笑ってんだよ! 人の好みなんて勝手だろ!?」
「いや、なにか大きな訳でもあるのかなって思ってたら……好きなタイプだからって……」
アベルがボブの肩を叩きながらクスクスと笑っている。好きじゃない笑い方だったが、アベルの笑っている姿を見るのは初めてだったから腹は立たなかった。
「あ……あのっ!」
急に背後から声をかけられ、少し体が跳ねた。振り返ると、両手に朝食を持っている長いピンク色の髪の女の子がいた。
「こ、これあげます……」
頭を下げられ、小さい両手に乗った朝食を受け取った。その子の背は低く、ショアやヘルよりも年下に見える。
「……ありがとう」
お礼を言うとその子は微笑み、再び頭を下げそそくさとその場から去っていった。
「ここに住んでる子かな……?」
「多分そうだろうな……って俺の分無えじゃん!」
あの女の子が持ってきたのは僕とアベルの二人分だけで、ボブは美味しそうに朝食を食べるアベルを羨ましそうに眺めていた。だがすぐにボブの分も持ってきてくれて、彼も笑顔になっていた。
「……そういえば、まだビーンとシャイニー来てないね。僕ちょっと見てくるよ」
朝食を半分食べた所でまだあの二人が来ていない事に気がついた。ビーンは場を盛り上げてくれるムードメーカー的な存在だ。できれば、もっと仲良くなりたい。
部屋の前に立ち、ドアを開けようとしたが、少しだけ光が漏れていた。さっき僕が閉め忘れたのかな……?
何もやましい気持ちは無いが気配を消し、隙間から部屋の中を覗く。……さっきビーンが寝転んでた所は……。
「えっ」
心の中で響く僕の声。目に飛び込んできた光景は、僕の心臓の鼓動を速くさせた。
二人がキスしてる。それだけなら何の疑問も抱かないが、一つだけ異様な点があった。
「やっぱりお前の血が一番美味ぇ……」
「んぐっ、強く噛みすぎ……」
お互いの唇を噛んで、そこから出た血を吸っている。少し離れていて詳しくはわからないが、それだけは確かだ。
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