最終話 僕達の意思 その6
ファラリスのメンタルが再び壊れた事で、操られていた仲間達も元に戻った。
「ハッ……! 体が自由に……」
真っ先に気づいたのはエルナで、すぐさま手を伸ばしファランを引き寄せた。
「お二人の力を使って、一緒に洗脳が解けたこの人たちを城の外へ!!」
フィシュナが叫ぶと、戸惑っている兵士達全員をエルナが伸びた手で掴み、ファランの構えた弓にも触れた。
「……わかった。僕がこの人達に真実を伝えよう。信じてもらえるかはわからないけど」
するとファランはフィシュナが開けた穴に向かって矢を放ち、数秒経つとエルナや彼らはその場から消えた。
「これで、終わればいいんですが」
*
悶絶するファラリスに迫るアラン。その目は復讐に満ちていた。ファラリスは彼の足音が近づくごとに、恐怖をひしひしと感じている。
「か、金ならやる! だから命だけは勘弁してくれ!」
命乞いを始めたファラリスだったが、アランは気にせず怪我した目の付近を蹴る。
「もしお前が俺達の立場だとして……」
「許すと思う?」
二人の容赦の無い声が響く。後ろで見ていたアベルは呆然としていた。ここまで冷徹で、余裕のあるアランは見たことが無かったからだ。
「さっきの両目は、ペリロスとペスの分だ。そしてこれが……!」
そう言うとアランはファラリスの腹に手を当て、強烈な電撃を流し込んだ。声を上げる事をも許さないそれは、下にあったカーペットをやき焦がすほどだった。
「ボブの分」
悲しそうな表情を浮かべ、今度はアベルの方を向いた。
「……アイアンメイデン。それを使おう」
一瞬アベルは驚いたものの、アランの指示に従ってファラリスの方へと歩く。背負ったアイアンメイデンがギシギシと音を立てていた。
「……ま、まて……何をするつもりだあ……!」
激痛になんとか気絶せず耐えたファラリスだったが、それがさらなる苦しみを生むこととなる。視力を失った彼はアベルに首元を掴まれ、床に下ろしたアイアンメイデンの中に投げ込まれた。
「最後に……」
右の扉にアベルが手をかけ、左の扉にはアランが。
「や、やめろぉぉおおおおお!!!!!!」
その場に悲鳴が響いたと同時に、アイアンメイデンの扉は、閉ざされた。その下の部分からは血がゆっくりと流れ出てきている。
「父さんの、分」
空虚な目になったアランが呟いた。それをアベルは哀しそうな目で見つめる。
「ついに復讐を、果たしたんだな?」
「……うん。あっ……」
全てをやりきって疲れ果てたのか、彼の体がふらついた。
「アラン!」
するとアベルが受け止めた。彼の体からは湧き出る体温はアランを暖めていく。こうして『復讐』は果たされた。
「これで、終わ……!?」
視界の端から炎が迫ってくるのが見えた。アベルは即座に床を蹴りアランと共にその炎を避けた。アイアンメイデンに炎が燃え移り、静かに火花を散らす。鉄の棺が燃やされ殺される、まるでペリロスと同じ死因だ。
「やっとファラリスが死んだか……!」
炎が飛んできた方に2人の頭が向けられる。そこいたのは──ヘルだった。フェニックスが頭の上に乗っている。
「なんのつもりだ、ヘル!」
まだ気力があるアベルが問うと、ヘルはゴブリンのカプセルを大量に見せた。両手が埋まるほど。
「まさかそれは……」
「ああ、マグーのだ」
先程アランとシュウが始末したマグー。復讐に気を取られカプセルを回収していなかった。
「やっぱり……ヘルとマグーは繋がっていたんだね。ボブが言っていた通り」
気力の無いアランが言うと、ヘルはニヤリと笑う。今までの彼の行動を見れば、彼らも予想はできていた。
「俺はマグーに話を持ちかけられた時から覚悟を決めていた。……友や仲間を失っても必ず、フィシュナと、その親玉を潰すってな。だが、後者はアラン達がやってくれた。正直俺じゃあできそうになかったから、礼は言っておくよ!」
フェニックスカプセルを指で回しながら話している。
「今残ってるのは疲れきった皆だけ……それくらいなら、俺はこうする事で勝てる!」
するとヘルは次の瞬間、フェニックスカプセルを口の中に放り込んだ。
「なっ!?」
アランは思わず驚きの声を上げ、変貌していくヘルの体を見ている事しかできなかった。
「これで……俺も仲間の復讐を果たす!!」
炎の翼が生え、腕からも鳥の爪らしきものが生える。そしてヘルの体全体が赤く染まる。
「おお……! これがフェニックスの力! お前達も来い!」
ヘルはカプセルを放り投げ、そこからゴブリンが溢れ出る。なんの変哲もないゴブリンだった。
「俺はフィシュナを殺す。邪魔はするなよ……!」
ゴブリン達はアランとアベルの前に立つ。2人が初めて会ったあの時と同じく、スパイダーゴブリンと羽が生えたバットゴブリンが行く手を阻んだ。
「こっちだよなぁ?」
フィシュナがいる部屋を指さし、熱い身体を運んでいる。だがヘルの背後から迫る風があった。
「そうはさせない!」
洗脳が解けたメリーがヘルの背中に全力のパンチを叩き込んだ。しかしヘルは少しよろけただけで、大したダメージは与えられていないようだった。
「……その程度の風じゃあ、すぐに炎がかき消しちまう!」
今度はヘルが反撃を仕掛けた。前に向けた手のひらから炎と共に衝撃波が放たれ、メリーはそれに直撃してしまった。
「があっ! これは……ボルガのよりも!?」
吹き飛ばされはしなかったが、メリーの髪の毛が少し塵になった。
「あんなあまちゃんの炎と一緒にするなよ!」
ヘルの腕から生えた爪がメリーの脇腹をかすめる。一歩退いたおかげで少し出血した程度で済んだが、直撃していればかなりの痛手だろう。
「お前は少し……眠っていろ!!」
今度は両手でヘルは衝撃波を放った。脇腹の傷を気にしていたメリーは反応が遅れ、吹き飛ばされてしまう。
「う……」
壁に激突し、血を吐いたメリーはそのまま動かなくなってしまった。それを見たアランは、複雑な感情を覚えた。
自分を殺そうとしている人がやられたのだから安心するはずなのに、と。気がつくとアランはヘルを見つめていた。
「おいメリー!」
アベルがメリーの元へ駆け寄ると、すぐに脈を確認した。幸い命は落としていない。
「大丈夫だ……まだ助かる。エルナを呼ぶか……?」
だがアベルはエルナが離れた事を知らない。フィシュナ、エボル、ロプト、カイザはまだ近くにいたが。
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