最終話 僕達の意思 その5

「え……?」


 メリーも驚いていた。自分が何故行動できていたか、分からなかったからだ。


「やはりメリーさんは……」


 エボルロボットが何かを確信したように呟いた。


「な……なぜだ! なぜ意思の白の力が効かないんだ!?」


 鼻と口から血を流しながら動揺するファラリス。今まで白の力を信じ、頼りきっていただけにとても慌てている。


「メリーさんとカプセルの意思が一致し、激昴する事で白の力をも跳ね除けた。流石の白も、体一つに2人分の、それに強い同一の意思を同時に操るのは不可能……恐らくそういう事です」


 エボルは自信満々に言うが、メリーにその自覚は無かった。


「よくわからないけど……お父さんが処刑された理由、聞かせてもらおうか」


 メリーがファラリスの胸ぐらを掴むが、彼女の背後から無数の兵士が迫る。


「チッ……」


 流石に片手だけでは無理だと思ったのか、ファラリスから手を離し、応戦するメリー。殺さない程度に風で吹き飛ばすも、兵士達は顔色一つ変えず立ち上がる。


「手加減するつもりだったんだけどな……」


 向かってくる兵士達の腹部を殴りつけるメリーから背を向け逃げるファラリス。


「ま、まあいい……あの小娘一人くらいなら、あいつらの仲間を操ればすぐに……」


 部屋から出たファラリスだったが、その瞬間ある人物の足に激突した。


「いでっ! だ……誰だ!?」


 驚いたファラリスを見下ろしていたのは、アベルとその隣にいたアランだった。


「見つけたぞ……ファラリス!」


 アベルはファラリスの胸ぐらを掴むが、それでもファラリスは余裕の表情を見せていた。


「ば、馬鹿め! すぐに意思の白の力で……」


 震えながら必死に喋るファラリス。だがその思いも虚しく、アベルとアランには何の効果も出なかった。


「な、なんでぇ!?」

「……今のお前、心ズタボロだろ。そんなボコボコにされた意思じゃあ、他人の意思をコントロールなんてできねぇよ」


 アベルは吐き捨てるように言い、ファラリスの左頬を殴った。


「あぐぁ!」


 ファラリスは口から血を吐くが、アベルには彼に対する同情など無かった。


「悪いな、この体にまだ慣れてないんだ」


 わざとらしい言い訳と共にもう一発拳を入れようとしたアベルだったが、その腕はアランの言葉に止められた。


「待ってアベル。それ以上したら、父さんが何故死んだのかわからなくなる」


 アベルはアランの言う事に従い、手を離した。


「それじゃあ、早速話してもらうかな。さっきまでのメリーとの会話、全部聞いてたから」


 今度はアランが詰め寄ると、ファラリスは乾いた笑いを発した。何がおかしいのかと疑問に思い、苦い表情をするアラン。


「ハッハッ……! まさかここまで来ていたとはなアラン……」

「……なんで僕の名前を知ってるの?」


 今まで、この二人は会った事が無かった。アランがファラリスの事を知っているのは何もおかしくないが、初対面のはずなのにファラリスがアランの事を知っているのはおかしい。




「それはな……アラン! お前は、我の……実の息子だからだ……!」

「!?」



 唐突に告げられた真実に、二人は驚きの表情を見せた。


「何わけのわからない事言ってんの? 貴方が僕の父親なわけない……」

「本当にそう言いきれるのか?」


 その言葉にアランは何も言い返せなかった。彼の中に疑問が生まれ、どんどん膨らんでいく。


「生まれたばかりの時の記憶など、お前には無い。誰に育てられたのかも、わからないだろう?」

「ち、違う! 母さんは父さんと一緒に僕を育てたって……!」

「お前の母の名はフラン」


 今度は母の名を言い当てられ、さらに動揺するアラン。すると、兵士達が動けなくなったファランを連れてきた。


「こいつの名はお前達も知っているように、ファランだ。我のもう一人の息子」

「息子……初めて知ったけど、それがどうした?」


 ニヤリと笑みを浮かべるファラリス。それを見たアランとアベルは不快感に襲われた。


「まだわからないのか……? 名前だ、名前。我はファラリス。そしてもう一人がフラン。二人の名前がごちゃごちゃになった時、誰の名前が浮かび上がる!?」


 意気揚々と叫ぶファラリスに対し、アランは青ざめている。


「……ファランと、アラン……?」


 恐る恐る呟いたアラン。その声は震えていた。


「その通りだ! 16年前、命からがらこの次元にやって来た時、フランと出会ったのだ。ボロボロだった我に、彼女はとても優しくしてくれた……ある時、フランに恋心が芽生えてしまってな。意思の白の力を使って、つい……やってしまったのだよ」


 嬉しそうに語るファラリスを見て、二人は呆れ、恐怖さえ感じていた。


「そして生まれた子が、アランとファランというわけだ。ほら、顔も似通っているだろう?」


 アランとファランはお互いの顔を見つめた。まさしく鏡合わせのようで、違うのは髪型くらいだった。


「我は迷ったのだ……我の継承者が二人いると、どちらかがどちらかを蹴落としてしまうのではないかと思ってな。苦渋の決断だった……一人にファランという名を付け、我の元に置き、もう一人にアランと名付け、フランの元に置いたのだ。アラン、お前には穏やかに過ごしていてもらいたかったが……クリス! あいつのせいでそれは不可能となった」


 気分が高揚していくファラリス。その顔は怒りに満ちていた。


「あいつはフランと結婚した後、アランの出生の不透明さに違和感を覚え、探りを入れたのだ。そして三年前の戦争時にフランがペリロス達を襲っていた事を知られ……ついに我までたどり着いてしまった。始末しようにも、人脈の広いクリスが急に変死を遂げてしまっては怪しまれる……という事でだ」


 ついさっきとは打って変わって笑顔になるファラリス。


「意思を支配したペリロスを使って『処刑』させてもらった! ……だがまあ、あいつはエルナとかいう女の所にいた三つ目の『白』を手に入れる事に失敗したからな……鉄の牛の中に入れて焼き殺したんだよ!」


 アベルが驚きの表情を見せた。だが体は動かない。ファラリスが慢心し、意思が大きくなった事で白の力が戻っていた。


「これで一件落着かと思ったんだがなぁ……メリー! お前の存在が、一番邪魔くさい!」


 ファラリスの部下をなぎ倒し、アランとアベルの側まで辿り着いたメリーを罵倒する。


「アランは我とフランの子だが、お前はクリスとフランの子だ……。我に逆らおうとする愚か者の血を引く者は、この場で殺してやる!!」

「愚か者、だって……?」


 その場に風が吹き、メリーの髪を揺らした。ファラリスを睨むその目は正義と復讐が混じっている。


「お母さんの意思を操って、お父さんの命を弄んで……アンタの方がよっぽど愚か者だ!! お父さんの仇ぃぃ!!」


 ファラリスにもう一度パンチを叩き込もうと走り出したメリーだったが、寸前でその身体は止まってしまった。


「ククッ……やはりか! 『正義』と『復讐』がごちゃ混ぜになっている状態では、意思の白を突破できまい!」


 今度はファラリスがメリーの顔面を殴り、血を吐かせた。悔しそうな表情をする彼女の頭を踏みながら、悦楽の表情を浮かべている。


「これで我の邪魔をする者はいなくなった! 今度こそ創造の白とその手先を全て始末してやる!! ハッハッハーッッ」


 大声で笑いを上げているファラリス。だが、彼の視界の端で立ち上がった人物がいた。


「おい」


 ハッとしたファラリスに近づくその男は、ほとばしる電撃を体に纏っている。


「僕の」

「俺の」

「意思を忘れたのかな?」


 その男の体には二つの意思が宿っており、それは同調し白の意思の力をも跳ね除けた。



「『復讐』だ」



 親切に教えてあげたシュウとアラン。次の瞬間、ナイフの先から二つの電撃を放ち、ファラリスの両目を潰した。自身は代償で色覚を失ったというのに、ファラリスへの仕打ちはそれ以上。


「ギニャアア!! 目が! 目がァァァ!!」


 意思が一致した事で二人の戦闘能力は大幅に向上しており、その電撃は音速を超えていた。


「これで、白の意思の力は使えない……」

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