第11話 後悔の友情 その2

 小鳥の鳴き声で目が覚める。申し訳程度のクッションが体を地味ながら痛めつけていたようだ。背中が痛い。


「お、お前らも起きたか」


 そう声をかけてきたのはペリロスだった。他の仲間達は誰一人として起きていない。しかしエイモナは歩いている姿が窓から見える。


「やっぱ、お前らって言い方は慣れないな」


 ペリロスは俺とペス二人に挨拶してくれたのだろうが、彼の善意を素直に受け取れるほど、俺は優しくなかった。


 しばらくペリロスとたわいもない雑談を交わしていると、1人また1人と仲間達は夢から目覚めた。最後に起きたのは意外にもハイエンだった。


「ふむ、やっと夢という名のディストピアから救われたか……」


 全員の眠気が収まったと同時にエイモナはドアを開けてそう言った。


「で、誰も来なかったのか?」

「ああ、何も危害は加えてこない天の使い……体は小さくとも器は大きい鳥と、それとは正反対のまさに悪魔の使い、人の命の素を吸い取る黒き瞬きが私に近づいてきただけだ……」

「安心した。頼りにしてるぞ」


 無駄に回りくどい表現を用いるエイモナに対してもあいつは冷静に対処している。


「では……昨日言った通り、今日は二つのグループに分かれて残りの色に適応できる人間を探しましょう」


 続けてロプトが提案したのは、この拠点に残る人間は誰にするか。ボブはロストを持っていないため自分から名乗り出た。すると次はハイエン、ランダルが残りたいと希望する。


「そうですね……ハイエンさんがいたらここは大丈夫そうです。他にも残りたい人はいませんか?」


 誰も手を挙げていない。皆、覚悟が決まっているようだった。


「では次にどういったグループ分けをするか発表しましょう。まずベージュ色、黄緑色に適応できる人物を探すグループは、ビーンさん、フルルさん、そしてあなた達二人です」


 エイモナとワインドは同時に頷いた。


「そしてもう一つの黄緑色と赤色に適応できる人物を探すグループは、アベルさん、ペリロスさん、シャイニーさん、最後に僕です。……それと、ロストのオレンジ色は何故か僕には創り出せませんでした。恐らく、僕の姉が持っているんでしょうね……」


 ペリロスと一緒に行動できるみたいで安心した。きっとペスもそう思っているだろう。やはり、幼馴染というのは安心感がある。


「これを渡します。これは色に適応できる人間を判別する事ができる特殊なカプセルです。人にかざすと、適応できる色にカプセルが光ります」


 そう言われて渡されたのは黒ずんだカプセルだった。胡散臭かったが、俺たちの体にかざすとピンク色に光り、信じる事は一応できた。


「では行きましょう。できるだけ知り合いの所に向かった方がいいですね」



 知り合いの所と言われても、俺はここブランク王国の出身ではないし、ペリロスだってそうだ。シャイニーは特に親しくなった人間はいないと話した。となると今頼るのはロプトだ。


「なあ、俺ら二人はこの国の出身じゃないし、シャイニーも元はただの旅人で、特に仲の良い奴はいないらしい。お前が案内してくれるんだろ?」


 もうすぐ森を抜けるところで彼に問う。


「いえ、僕は住んでいた街から出た事は無かったので。しらみつぶしに探すしかないですね」

「……こりゃ大変そうだ」


 呆れ気味のペリロスと足を揃え俺は歩くのだった。




 それからしばらく歩いた俺達は、何の変哲もない村に着いた。その村に名前は無く、ここを治めている人間の家すらも見つからなかった。


「戦争が起こったからなのかは分からないけど……活気が無いわねこの村」


 すれ違っていく人間も無表情で、近くにあった店の取引も無言で行われていた。


「なああんた、ここの村の長は知らないか?」


 店から帰ろうとした人間に話を聞こうとしたが、俺の言葉を聞いた瞬間、彼は体を震え上がらせた。


「こ、この村は……あいつに支配されたんだ……た、助けてくれえ!」


 彼はかなりの大柄だったが、情けなく俺達の手を掴んで助けを求めてきた。


「……ちょっとまずは落ち着いてから話してくれないか?」


 そうは言ったものの、彼は落ち着くどころかどんどん汗をかき始める。数秒足らずで尋常ではない量の汗に不信感を抱いた瞬間、ロプトに服を引っ張られた。


「危ない! 離れてください!」


 後ろに下がりながらも男の様子を観察すると次の瞬間、彼の体は炎に包まれた。


「なにっ!?」


 思わず驚きの声を上げる俺を嘲笑うかのように、炎に悶絶している男の方から声がした。


「ハッ! こんな調子じゃあお前らもすぐに燃やせちまうな!」


 炎は悪魔の笑顔のような形に姿を変え喋りだしたが、男が倒れると同時に炎は男から離れ、人間の姿へと変貌、いや戻った。俺よりも少し年下のような顔立ちで、薄い赤色のツナギを着用している。


「よう、お前らが我が『王』に歯向かう反逆者どもか。だが、まさかお前らの方から来るとはな!」

「ねえ、まさかロプト……」

「はい、僕は最初からこの人を倒すつもりでここまで来ました」


 シャイニーの発言に食い気味でロプトは答え、すぐに戦闘の準備をしている。


「ったく、この事も最初から言ったらどうなんだ!」

「僕達は昨日仲間を失いました。もう1度戦うと言ってもついてくる可能性は低いでしょう?」


 本当に好きになれない奴だ。こうなってしまっては戦う以外の選択肢はないが。


「気をつけるんだぞアベル。こいつ、自分自身を炎に変えられるらしい」

「ああ、悪いが俺達には無理そうだ……!」


 *


 色にはそれぞれの特殊能力がある。例えば風を固定化したり、自分の体を動物の姿に変えられたり。

 この時のアベルは自分の能力を、「他人の心の中へと侵入し、魂を操る事である程度の制御ができる」と思い込んでいた。だがそれは違う。それは1度死んで魂だけとなったアベルだからこそできる技であって、本当の特殊能力ではない。

 そして、自身の特殊能力は誰にも分からない。たまたま発見する以外にはないのである。


 *


「もう諦めるのか? だがこの俺様、ダンは油断しない! じわじわと燃やしつくしてくれる!」


 ダンの体はまたしても炎へと変化し、俺達の方へと突っ込んでくる。


「お前らの中に水を操る奴がいるという事も考えられる。高速移動だ!」


 奴が最初に襲ったのはロプトだった。ロプトは瞬時に盾を創り出し防ごうとするも、炎は左右に分かれた。

 ロプトの懐に入り込んだその瞬間、ダンは元の体へと戻り胸部に強烈な蹴りを叩き込んだ。


「ロプトぉ!」


 吹き飛ばされる彼の体が地面に着地するよりも先にダンは炎に姿を変え、今度は俺の隣にいたペリロスへと向かう。


「次はお前だあああ!!」

「ペリロス!」


 俺はフォローしようと斧を炎に叩きつけようとするが、ギリギリで避けられた瞬間をこの目で見てしまった。

 だが視界の端で、ペリロスは黄色い閃光へと姿を変えた瞬間も、確かに見えた。


「えっ……?」

「なっ、まさかお前も俺と同じような能力を!?」


 ダンは咄嗟に後ろへと退き、炎の姿のままで驚きの表情を浮かべる。


「こ、これが俺の能力か……!」


 ペリロスはダンの質問には答えず、なおかつダンよりも早く空中を動いて見せた。

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