第3話 地獄の不死鳥 その2

 安堵していたその時、背後から殺気を感じ、急いで振り返る。そこにいたのは男女のゴブリンだったが、今までとは違う、格が違うオーラを感じる。


「その力……あんたもあの灰色の奴の仲間?」

「そんな訳ないでしょお姉ちゃん。こいつら僕達の店を襲ったんだよ!」


 灰色? 何の事だ? 疲れきった僕の頭では理解できない。


「灰色、つまりロプトの事か?」


 アベルが問うと、女のゴブリンは大きく羽を広げた。なんだあれは?昨日のゴブリンの羽とは違う、トンボの様な羽だ。


「どうやら奴が言ってた『もう一つの灰色』の仲間みたいだね……ほらキリ、さっさと片付けるよ!」

「めんどくさいけど、わかったよ。フライお姉ちゃん!」


 キリという名のゴブリンの腕からもう一つの腕が生えた。まるでカマキリの腕だ。ギザギザの刃が光る。


「お前らは隠れてろ。……こいつら、今までのゴブリンとは比べ物にならない程強い。子供みたいな身勝手さの奥にある意思が……見ただけでもわかる……!」

「アラン、その二人を全力で守ってくれ。いいな?」


 小さく頷き、建物の影に隠れる。……守れったって、僕なんかには務まらないよ……。



 *



「さあ、かかってきな」


 光る羽を広げたフライは俺に向かって羽からエネルギー弾を打ち出してきた。斧を構え、光球に向かって振り下ろす。意外な事に光球はいとも簡単に真っ二つになったが、隙が出来た俺にフライがすぐ側まで近づいていた。


「まずいっ……!」


 急いで体を左に倒し、横転しながら攻撃を避けたつもりだったが、右腕をかすったようだった。服が少し破れている。


「その羽、切る事もできるのか?」

「その通り。これであなたの頭と胴体を切り離す事だってできるのよ!」


 体を回しながらの羽による斬撃をなんとか躱しながら、反撃の隙を探す。


「なによ、思ったより弱いわねぇあなた」


 そんな挑発には乗らないつもりだ。羽は横に広がっているがとても薄い。案外壊れやすいかもしれない。


「賭けてみるか……!」


 左右二つの羽、交互に繰り出される攻撃には隙があった。右の羽による攻撃が一瞬だけ止まった瞬間、斧を思い切り振り上げる。


「今だ!」


 思っていた通りだった。斧は左の羽を突き破り、それと同時にフライは倒れ込む。


「ちっ……この羽はしばらく使い物にならないわね……」


 フライは右の羽だけを広げ、エネルギー弾を作り出す。その瞬間、俺は意識を集中させた。


「だったらこれであなたを……っ!?」


 あらぬ方向に弾を発射したフライ。その先にはボルガと戦っていたキリが。


「ええっ!?」


 キリは避けようとするが間に合わず、弾に直撃しその場に倒れ込んだ。


「あなた……一体何を!? 私の体が一瞬……」

「さあな、お前なんかに話すかよ」


 自分の能力を敵に教えるなんてもってのほかだ。

 色にはそれぞれ固有の特殊能力がある。赤色ならば、自分の体を炎に変えたり、青色ならば空中に水を作り出し、自由に操ったり。だがそれらの能力を敵に感知されてしまった場合、対処法を立てられてしまう危険性が大いにある。


「どうする? 能力を明かしていない俺達とこのまま戦うか? それともしっぽ巻いて逃げるか?」


 今度は俺から挑発する。すると、フライは後者を選んだようだった。


「逃げるわよキリ! リーダーには申し訳ないけど、ここは捨てる……!」

「……わかったよ! しょうがないなあ。覚えてろよお前たち!」


 飛べなくなったフライはキリの背中に乗り、そのまま高くジャンプして逃げていった。


「追うか?」

「いや、深追いは危険だ。まだ他のゴブリンが潜んでるかもしれないからな……」


 ボルガの問いに答え、隠れているアラン達の元へと向かう。俺たちがあのゴブリン達に構っている間に、他の奴らに襲われていないといいが。



 *



 ヘルとマグーの二人と手を繋ぎながら、僕は彼らの戦いを見守っていた。自分より小さい子供たちにはあまりいい思い出が無い。だからアベル達が無事に戦いを終えて戻ってきた時はホッとした。


「三人とも大丈夫だったか?」


 ボルガは辺りを警戒しながら優しく声をかけてきた。


「うん」


 そう一言だけ告げ、立ち上がりズボンについた土を払う。すると、アベルがヘルとマグーの目線に合わせるようにしゃがんだ。


「面倒な事に巻き込んですまなかった。これでチャラにしてくれとは言わないが……許してくれ」


 アベルはヘルの手に小銭をいくつか握らせた。だがヘルは首を振った。


「こんなんいらないよ。だって、俺とマグーを助けてくれたじゃん! お金を渡す立場なのはこっちの方だと思う。でも持ってないしなあ……」


 それを聞いたアベルは小銭をポケットに戻し、ヘルにある提案をした。


「それじゃあフェニックスを渡せ。あいつは戦力になる」


 ヘルは驚いた顔をし、フェニックスのカプセルを手に持った。


「いや……渡したくても渡せない。こいつは俺の言う事しか聞かないんだ。試してみろよ」


 アベルはヘルからカプセルを受け取り、フェニックスを呼び出そうとするも何も起きない。


「確かに無理だな……。そうだボルガ、こいつはもともとお前の鳥だったんだろ? お前も試してみろ」


 ボルガもカプセルを手に持つが、一向にフェニックスは現れる気配が無い。


「俺でも無理か……ロストと同じように、最初に使った人間以外には扱えないのかもな」


 残念そうにボルガはヘルにカプセルを返した。

 ロストはそれぞれ最初に使用した人間以外は一切の機能を使う事ができない。前に使っていた人間が死亡する事でやっと、他の人間がそのロストを使用できるようになる。

 と、ボルガが説明してくれた。


「ならフェニックスは諦めるか。……それじゃあなヘル、マグー。また会う時は平和な世界になっている事を祈る」

「またここにあいつらが来る事は無いとは思うが……俺はまたここに来るつもりだ。フェニックスと、お前たちに会うためにな」

「……じゃあね」


 僕はアベルやボルガとは対照的に、冷たい態度でさよならの言葉をかけてしまった。あれくらいの年齢の子供を見ると、あの時の事を思い出してしまうからだ。僕が、リンゴ好きになった一件を。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


 背中を向けた僕達を呼び止めたヘル。振り向くと、彼はとても勇敢な目をしていた。


「俺も行く。それならフェニックスがついてくるのと同じだよね?」


 それを聞いたアベルはヘルの前に立った。さっきとは違い、しゃがむ事はない。


「いいか? 俺達は命を賭けて、一人一人の目的のために戦ってるんだ。お前のような子供がついてきていい訳がない」


 しかしすぐさまヘルも反論する。


「でも、アランもまだ子供じゃん!」


 急に自分の事を話題にされ、一瞬体が跳ねた。


「あいつはロストに適応して、なおかつ俺と同じような目的を持ってるんだよ」

「なら、俺もフェニックスとてきおーしてるし! それに、アベル達に恩返ししたいって目的がある!」


 ヘルは更にアベルに近づき、彼の目を思い切り見つめる。そのまま五秒ほど経った後、アベルが再びしゃがんだ。


「……俺の負けだ。ヘル、お前もついてこい」

「やったぁありがとう~!」


 ヘルはアベルに飛びかかった。


「うおっ! そんなにベタベタ体触られると困るんだが……」


 騒ぎ立てているヘルの背後で、マグーは優しく微笑んでいる。


「ヘル、頑張ってね。から」


 ヘルは急に落ち着き、マグーの方を向くと大きく頷いた。


「それじゃ行って来るよマグー。しばらく会えないと思うけど……」

「うん、じゃあね! 俺の事、寂しがったりするなよ?」



 こうして、アラン達にまた一人仲間が加わった。『地獄の不死鳥』ヘル。彼の熱は、ボルガとは違う意味で熱いだろう。




「色を持ってる奴。“アイアンメイデンの男”と、ナヨナヨした黄色。二人いるって聞いて来たけど……結局失敗だったね」


 キリは歩きながら自身の姉に言った。


「まあ、赤色の奴もいるなんて情報にはいなかったし……それはしょうがないよ。あとは……リーダーと、リーダーの信じるあいつに任せておく」



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