第5話 『ショー』の一族 その2
時は遡り、昨日の夜。
「アラン!」
気づいた時にはもう遅かった。アランは暗く深い森の中へと消えていった。それからしばらく森の中を探したが、痕跡すらも残っていなかった。
「まさかこんな事になるなんてな……運が無いな」
ひとまず岩陰へと戻る。ヘルが帰っているかもしれない。すると森の中で静かに燃える炎を見つけた。急いで炎の元へ向かうと、そこにはボルガとレイ、それにボブ。三人が象であるボビーに乗っていた。
「こんな時間まで起きてるとはらしくねえな……ま、お前の事だ。何かあったんだろ?」
ゴーグルを擦りながら微笑む。やはりボブは勘のいい奴だ。三人に事情を話すと、ボブが唐突に話し始めた。
「なるほど。実はな、この森の住人の……住人と言っても二人しかいないが、そいつらと知り合いなんだ。この象もここで貰ったからな」
それからは、ボブの提案で森の住人に会いに行く事にした。この森の事を詳しく知っている者に聞くのが妥当だろう。
「かなり遅い時間だが、あいつはまだピンピンしてるぜ。夜行性の生き物を多く扱ってるからな~」
ボビーに乗り、森の住人の家へと向かう。意外と近くに木製の家はあり、俺はすぐにドアをノックした。するとドアは勢いよく開く。
「ショアか!? ……って、何だお前ら、この忙しい時に。……その象、思い出した! 確か、お前の名前はボビーだったな」
「いや、俺の名前はボブだ。こいつの名前がボビー」
「なんだよ紛らわしい名前つけるなよ……間違うじゃないか!」
「こいつは家族だ! 俺の弟なんだ……俺と似てる名前付けたっていいだろ!」
「……それは、まあ……そうだな。それは間違いない……」
唐突に始まった言い合いに俺は呆れ、ボルガはボビーを憂いの表情で見つめる。レイは寄ってきた小鳥と遊んでいた。
「ちょっといいか? 今はそれよりも、俺の仲間達を探してほしいんだ」
「……ショアがいれば簡単なんだが、ショア自体突然いなくなってな……なんだよ……お兄ちゃんの何がいけなかったんだよ……?」
今は話ができない状況だと思い、一晩泊めてもらい、明日の朝に話をする事にした。
*
「ほう……つまり、連れの二人を探してほしいって事だな?」
俺は朝早くに起き、森の住人、ショオと相談した。彼の髪はショートの黄緑色だが、鼻にかかるくらい前髪は長く、身長は俺と同じくらいでかなり綺麗な顔立ちだ。迷彩柄で全身を覆っているのは少しセンスを疑うが。しかし申し訳程度の花柄マフラーくらいはある。
ラウザーも見せてくれた。黄緑色に適応してる人間を見つけたなんて、ロプトからは聞かされていなかったが。
俺がこんなにも仲間の事を気にかけるなんて、これもカプセルの意思の影響なんだろうか。
「なら条件が必要だな。弟を見つけてくれよ。それなら二人に会えるぞ」
「ショア、だったよな? どんな見た目なんだ?」
そう聞くと、ショオは自信満々な表情で語りだした。
「ショアは俺の自慢の弟だ。男だがとても美しく、愛おしい。何より動物達と戯れている時のあの顔! 本当に、母親であるトゥエルナに似ている……。俺の自慢の弟だ! ……だから早く見つけ出してくれ!」
家の番はボブに任せ、俺とショオ、ボルガとレイで手分けして探す事にした。
「マウスは東の森の入口、ウルフは南西、クロコダイルは池を調べてくれ。頼んだぞ!」
動物達も協力してくれている。どうやらショオは動物を操る事ができるらしい。多分この能力は三年前に、以前に水色の力を使っていたフロウスと、ロプトがアイス・ゾーンで奪い取ったものだろう。
それにしても、代償があるようには見えない。ラウザーとカプセルは持っているから代償はあるはずだが……。
「おい、お前もロストを使っているよな? 見たところ、代償なんて見当たらない。代償がなんなのか教えてくれるか?」
俺の問いに対し少しためらっている表情を見せたが、すぐに話し始めた。
「……ショアもロストを使ってる。ロプトって奴から貰ったんだ。俺達兄弟には何故か代償が無い。俺たち一族は恐らく白の……いや、思い出したくないな」
悪い記憶を思い出させてしまったかと自分を責めた。誰にだって思い出したくない記憶はある。……俺もそうだ。
「まだ見つからないのかよ……お前ら真剣に探してるんだろうな?」
探し始めて数時間。体も疲れてきて悲鳴を訴えかけてきている。
「ガウッ! ガウガウ!」
「ウルフ、どうした? ……ああ、……はぁ!?ショアが死にかけてる!? 蜂のゴブリンの毒で!? おい戻るぞ。ボルガとレイが見つけたらしい。無事でいてくれよ……!?」
*
「ショア! 大丈夫か!?」
ドアが勢いよく開かれる。ショアと同じ、黄緑色の髪をしている男だ。その男はショアの元へ駆け寄り、傷口の毒を近くにいた蛇に舐めさせた。
「どうだ? ……そうか。ある程度の毒の抗体をショアは持ってるから今は耐えているが、早く毒を抜く必要があるな……もう全身に毒が回ってる」
ショアは大丈夫なんだろうか。もし助からなかったら、ゴブリンから目を離した僕の責任じゃないか……今のうちに何か言い訳を考えておこう。
「なあアラン、ヘルはいないのか?」
「アベル……ごめん、ヘルは見当たらなかったよ」
僕の答えにアベルは何も答えず、ただ頷いてランダルの方へ向かって行った。
「まさか見習いがここに来てたとはな。あいつの追っかけはしなくていいのか?」
「……もう見習いじゃありませんよ。それに、今はあまり……話しかけないでください」
「そうか。悪かったな」
あの状態のランダルに話しかけられるアベルが羨ましい。僕には到底できないだろう。カプセル貸してください、なんて言えない。
「おい、また知り合いが来たぞ?」
そう言ってボブが連れてきたのは、どす黒い赤色の髪をした男女二人組だった。男の方はマッシュ、女の方はツインテール。服はお揃いの赤い縦ラインが入った黒いパーカーを着ている。
「お、ボブだけかと思ったら……アベルにボルガ、それにランダルじゃん! 久しぶりだなぁおい!」
全員が二人組の方へと振り返ったが、ボルガはなぜか睨んでいた。
「ちょっとそんな怖い顔で睨まないでよ~! 今から、その子の毒を私達が取り出してあげるからさ!」
「勝手な事言うなよ! いきなり現れたお前らなんかに、弟の命を任せられるか!」
「じゃあ、その子が苦しみながら死ぬのを待ってる?」
「くっ……助けられなかったら、お前らただじゃおかないからな!」
二人がショアの側に座る。すると小さい針を取り出し、自分の腕に刺していた。女も同じように腕に針を刺していた。
「おい、あいつらの事信じるのかよ?」
「お前があいつらと何の関係があるかは知らないが……弟のために、今はあの二人にすがるしかない」
さっきの言葉からアベルとボルガ、それにランダルと知り合いらしいが、ボルガとはあまりいい関係ではないようだ。できれば厄介事には関わりたくない。
「よし、せーので刺すぞ。せーの!」
二人はラウザーから生えている針をショアの腕に刺した。
「ちょっと待っててくれよな。すぐに終わる」
言われた通りに少し待つと、ショアの苦しそうな顔が元に戻り、起き上がった。だがすぐにショオが抱きしめ押し倒す。
「よかった! ……どこか痛くないか? 苦しくないか?」
「うう……お兄ちゃんの力が強くて苦しいよ……」
「ああっ、ごめん! ……ありがとう二人共。あんたらがいなかったら弟は……」
「なーに、お互い様だ。毒と一緒に少し血をいただいた。これで俺らは明日も生きられるってわけだ。俺ら二人は血しか摂取できないからな。代償のせいで」
……悪い人では無さそうだが、ボルガとは何か因縁があるのだろうか。
「のわーっ!」
またも突然ドアが開いた。ヘルだ。
「こんな所にいたのか! ってそれより、ゴブリンだよ! ここまで来やがった」
「そうか、ならこの森の主であるこの俺が撃退してやろう! あいつら程度なら、あの力も使わずに済みそうだ」
さっきまでとは打って変わって勇ましい表情だ。弟が助かって嬉しいのだろう。
「さっきの毒は苦かったからな……もし毒の持ち主のゴブリンがいたら、このビーンとシャイニーが返してやるよ!」
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