第7話 紫の欲望 その9
動物の内臓が辺り一面に転がっているのを見て、あの時を思い出す。でもそれ以上にカイザという男が存在感を放っていた。ついさっき食べ終えたのか、かなりの量の亡き骸が彼の近くに落ちている。
「あ~そんなに怖がるな。数時間周期で俺の『欲望』は高まるんだ。食欲、性欲、睡眠欲のどれか一つを満たせば、俺は数時間大人しくなるんだよ」
僕を騙す為の嘘だと一瞬だけ疑ったが、今ここで僕を騙すメリットが無いと思い、とりあえず信じる事にした。
「で、お前は何色で何の『意思』なんだ? 見た所、俺をとっ捕まえようとしてるフィシュナとかいう奴とは違うみたいだしな。知り合いは多く居ても損は無い」
一瞬話すか迷ったが、ここで言わなかったら後で何をされるか分からない。それにもしかしたらこの人はメリーを倒せるかもしれないし、仲間にする為にも話しておこう。
「……色は黄色で、意思は……『復讐』だよ」
「『復讐』……? ハハッ……なかなかおもしれえ欲をしてやがる」
「面白いって……」
僕は呆れた声を出しカイザから目を逸らした。面白いとかなんとか言われるのは予想外で、僕の意思を軽いように見られている気もする。
「おーいアラン! そこで何してんだ~?」
後ろからのヘルの声。何もやましい事はないのに、何だか嫌な気分だ。
「あいつは……? ロストじゃない力を持ってるみたいだが……」
カイザはヘルを見ると不思議そうに呟いた。直後にシャイニーも近づいてくる。
「この男の血、健康状態悪過ぎよ……?」
気だるそうに床に座るカイザ。ロストを渡されたって事はロプトに信用されてるはずだし、一応信じてもいい、のかな?
「こんな変なやつに構ってられないよ! 早くいこ?」
シャイニーに無理やり連れていかれるヘル。僕はその場から動かなかった。
「ねぇ、僕ってカイザの事知ってる気がするんだ。なんだか、懐かしい感じがする……確か、『キョウ』って名前だった気が」
それを聞いたカイザはこちらに体を向け、僕の目を見ながら話し始めた。
「……奇遇だな、俺もお前とは知り合いだった気がする。名前は覚えてないが……。カプセルの中にはな、生物の魂が入ってるって考えてる。んで、ロストラウザーを通してカプセルの中にある魂が俺らに入り込んで来る。つまり俺らの中にある魂が知り合いだったんだろ。結構仲良かったんじゃないか?」
ロプトと初めて会った時の事を思い出す。コードネームが復讐、だったっけ?そいつとカイザの中にある魂の人物が知り合い……って事か。悪友、そんな感覚でカイザを意識してるし、復讐って奴は結構な悪ガキだったのだろう。
「アラン! 早く行くよ~!」
「あっ僕も行かないと……じゃあね」
太陽の光が差している場所へと向かい、二人と合流する。何をしていたのか聞かれたが、「何でもない」と誤魔化した。また一つ、嘘をついてしまった。
「……あいつなら、俺の欲を満たしてくれそうだな……」
欲にまみれたその男は、過去の過ちをまたしても繰り返そうとしていた。全てを自身の欲望に委ねて。
*
「あー! ボルガどこにいるんだよ~! 足が棒になっちまうよ!」
ヘルの嘆きを聞きながら油断していたその時、コロッセオから大きな物音が聞こえた。次の瞬間、コロッセオの壁が倒壊し、辺りは逃げ惑う人々でいっぱいになる。
「……愚痴ってる場合じゃないね。ほら、見に行くよ」
シャイニーの言葉に僕達二人は続いた。
壁が倒壊し、砂煙が舞う通路へと向かう。幸いにも巻き込まれた人はいないようで、僕達が現場に着いた時にはそこに人影は無かった。
「誰の仕業なんだろう……メリーやフィシュナは一般人を巻き込むような事はしないだろうし、やっぱりゴブリン達かな?」
辺りを見回していると、強い風で砂煙が散った。この風はメリーか!
「……あなた達じゃないって事は分かってる。ただ……隠れてる奴がいるよ」
メリーの言葉と同時に砂煙の奥から足音が聞こえた。
「数人の足音、ゴブリンか……」
だが僕へと突っ込むゴブリンはいなかった。フライとミーナがシャイニー、カマキリのゴブリンがヘルへ攻撃していた。二人は上手く攻撃を避けている。
……ん? って事はもしかしてカブトのゴブリンが僕の方に……!
すると背後から物音が聞こえ、振り返るとメリーとカブトのゴブリンが戦っていた。
「……今は仲間だと思っておいて。こいつらはアランより憎い存在だから……!」
僕を騙そうとしているのではないかと一瞬疑ったが、この状況でメリーがそんな事をする訳が無い。昔から優先順位を重んじる妹だったからな……。
「わかった。今だけは頼りにさせてもらうよ」
「……こいつら全員殺したら、次はアランの番だからね」
……ゴブリン達には粘ってほしい。
「どうせこれもあんた達ゴブリンの仕業なんでしょ? 無関係の人を巻き込んで……ゆっくり殺してやる!」
鬼の形相でゴブリン達に突っ込むメリー。僕を殺そうとした時は冷たい表情だったが、今のメリーは感情的だ。
「俺達はリーダーの命令に従ってるだけだ。仕方なくな。それと、この破壊は俺達の仕業じゃねぇぞ」
「そーだそーだ!」
ゴブリン達の話を聞いたメリーは一旦動きを止めた。すると辺りにまた風が吹き荒れる。
「そこっ!」
メリーの向いた方向へと風が吹き、二人の人影が現れた。フィシュナとファランだ。
「しゅっ。かなり強い風……想定外の威力ですね」
「それより、あの氷の娘はどこ? ゴブリンと一緒にいるんじゃなかったのかい?」
……駄目だな、僕達三人じゃ勝てそうも無い。逃げた方がいいな。
「……あの小娘なら、俺達が捕まえてた。だけどな、もうどっか行っちまったよ。自力で逃げたのか……それとも誰かの力を借りて脱出したか、だ」
カブトのゴブリンの話によるとレイが逃げた? あのゴブリン達をくぐり抜けて? 想像できない。
「その話、本当か!?」
突然、熱気と共に通路から現れるボルガ。最初に会った時よりは熱くないが、それでも異常な熱気だ。
「レイを……レイを返せ! あいつを守ってやる事が、アリスを守れなかった責めてもの俺の償いだ!」
「頭を冷やす必要があるみたいですね……? しゅっ」
「一、二、三……三つ巴か……こりゃ大変そうだな」
すると次の瞬間、またしてもコロッセオの壁が倒壊する。その場にいた全員がそこに目を向けた。
「いいや……四つ巴だな」
派手に舞う砂煙の奥から現れたのはカイザ。だが、そのカイザの隣にはレイが立っていた。
「すごいね~。カイザは優しいし強いし、頼りになるよ!」
レイは抱きつき、カイザに頭を撫でられていた。カイザは嘲笑っていた。その光景をボルガに見せつけながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます