サイドストーリー ショオ編

「寂しいなぁ……ショアァ……!」


 三匹の動物達に囲まれながら、俺は苦悩している。

 格好つけてアベル達と一緒に行動させる事にしたが、俺は相当な後悔をしていた。ショアが生まれてからずっと面倒を見てきた上、俺もショアに甘えていたいと思っている。


「やっぱり心配になる」


 ショアの戦闘能力は俺よりは高くないが、そこら辺のゴブリンには負けないはずだ。だが今日、毒を打ち込まれて死にかけた事は事実。


「相談しようにもランダルはもう寝てるし、起こしたら迷惑だよな……」


 修行に来ているランダルのために隣の倉庫に寝床を作ってやった。即席で寝心地は悪そうだが。


「命の危険があるのは重々承知だった…もちろん俺も覚悟したはずだった……なのになんでこんな心配になるんだよぉ!」


 ランダルの眠りを邪魔しない程度の声で叫ぶ。すると柴犬が俺の足首に触るように寝転び、撫でて欲しそうにお腹を見せてきた。


「お前、こういう状況なのにそんな事……」


 しかし柴犬を声を聴くと、俺の想像と逆の考えを彼は持っていた。


『今はせめて、ボクのお腹を撫でて気を紛らわして』


 そう聞こえた。俺は優しく微笑み、彼のふわふわの腹をさする。それは俺の手を優しく包んでくれて、ずっと触っていたい、という気持ちにさせてくれる。


「ごめんな……お前、俺を想ってくれたのに」


 そう言うと、他の動物二匹も寄ってくる。幸いサイズは小さい者ばかりだ。

 モンキーは足を肩に乗せ、俺の頭を撫でてくれた。フェザント、つまりキジは自身の羽を俺の腕で撫でる。


『シヴァは本当に優しいですね……ワタクシはこうやって二番煎じくらいしかできません』


 フェザントの名はスザク。彼女は三匹のまとめ役で、恐らく一番頭が良い。


『オレはシヴァと考えは違うけどな!』


 モンキーの名はハヌマ。こいつはいつも身勝手に行動したりするが、仲間の事を一番に想っているはずだ。本人は認めていないが。


「ならお前の考えは何だ、ハヌマ?」


 俺の頭の上に顎を乗せているハヌマに問う。


『俺は……ショオも一緒に着いて行くべきだったと思う。今からでも遅くはないと思うぜ!』


 予想外の言葉だった。こいつの事だから、シヴァは背中を撫でさせるべきとか言いそうだったのに。


「いいのか……? この森から離れて。またゴブリンに襲われるかもしれない」


『この森の家族を、信用してないのか?』


「俺はそんな事思ってない! ただ、この森とショア……アベルやボブ達も一緒に居るし、どっちを優先するかと言われたら……」


『ショアを選んだらどうかしら?』


 スザクからも言われる。


「でも、俺は……」


『ショアの事は絶対、ショオが守るべきだと思うよ』


 シヴァが口を開いた。


『……ショアと血が繋がってなくても、ショアにはショオが必要なんだよ』


 俺は驚愕した。シヴァはこの中で最も幼い。ショアの出生の話なんか、話してやった事は無いのに。


「お前、なんでその事を……?」


『そりゃあ、他の家族からだよ』


 よく考えなくても当たり前だった。ショアが生まれる時付き添ってくれた彼らの殆どは寿命で亡くなったが、寿命の長い種族の者もいる。


『ワタクシ達は生まれながらにして“ショーの一族”に付き従う運命の者……なので、一族を絶やすわけにはいかないのです』

『そうなんだよ! 今はたった二人……お前らの事は大切にしなきゃなんない』


「お前ら……すまん、俺のせいで二人になっちまったっていうのに」


 約十五年前の嫌な記憶が蘇り、頭が痛む。ショアにはまだ一族特有のあの“力”は話していないが、生き残るためにもあれは必要だろう。


「わかった。俺……ショアを追いかける。どこにいるかはわからねぇけど」


『達者でなー!』


 ハヌマの声を背中に受けると同時に、ロプトから渡されたカプセルの存在を思い出す。腰の小さいバッグからそれを取り出した。中身は無いらしく、透明だ。


「お前らも着いてこい!」


 右手で三つのカプセルを三匹にかざすと、彼らの体は粉のようになりカプセルに吸い込まれた。透明だった部分が黄緑色に変色する。


『えっ、ちょっとぉ!』


 シヴァの声が聴こえる。どうやらカプセルの中に入っていても会話はできるらしい。


「気持ちが熱かったからだよ。お前らとなら安心してショアを追いかけられる!」


『全く、しょうがない主様だこと』

『まあ、そういうとこが好きなんだけどな!』


 二匹の声も受け止め、家を出る。


「ベア、話は聞いてたな?」


 家の前で番をしていた熊に話しかけ、ぐっと彼の肩を掴んだ。


「俺はショア達と一緒に反逆軍のゴブリンを倒す。それまでは……お前にこの森を任せる」


 そう言うとベアはニッコリと笑みを浮かべ、俺とハイタッチを交わした。


「さ、行くぞ! 確か北だったよな」


 森から出るのは人生で初めてだった。だが心配はいらない。頼りになる仲間が、俺にはいるのだから。


「俺がしてしまった事の責任は……俺がケリをつける。ショア、待ってろよ……!」

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