第8話 支配者への反逆 その2
「すいません。ペスさんの体は元に戻ったんですが……」
唐突にドアを開けたロプトのせいで少し驚いた。もう夕方で、壁にもたれながらだけど寝られそうだったのに。
「アベルさんの体をピンク色に適応させ、一から作るにはもう少し時間がかかりそうなので、今日は作業を中断するそうです」
「それよりレイはどうなったんだ? 無事なのか?」
「はい、そろそろ来るとは思いますね」
その直後ドアを開け現れたレイは、黒い幽霊の鎖で縛られているカイザの隣に座った。もちろんボルガは不満そうな顔をしていたが、カイザは優しく微笑んでいた。
「みんな疲れたでしょ? 今日はここの部屋で寝てもらっていいよ」
ドア越しに聞こえる女性の声。レイは近くの棚にあった毛布を取り出し横になっていた。
「あ、そうだ……アラン、だったっけ、名前? ちょっと来てくれる?」
なぜ呼ばれたのかは分からなかったが、とりあえず行ってみる事にした。後ろ姿も、やはり母さんに似ている。
「……あっ」
着いていく途中でショアとすれ違ったが、いつもと違う目、人を疑う目で僕を見ていた。……なんでだろう?
「この部屋、入ってくれる?」
「あ……わかった」
エルナに言われるがままにドアノブに手をかけ、部屋に足を踏み入れる。するとそこには──
「アラン……!」
少しだけ見えたメリーを確認した後、即座に扉を勢いよく閉め後ずさる。すると直後、僕の足元に違和感を覚えた。
「なっ……!?」
エルナの手が伸び、僕の右足を強く握りしめている。すぐに逃げようとするが、左足にも手が伸びており動けない。
「メリーから話は聞いたよ? 二人で話し合って欲しいんだ。だから、入ってくれる?」
どんどん力が強くなってきている。このままじゃ、握りつぶされる……!
「……入ってくれる?」
「うん! わかった! 入る……入るから、この手を、離して……!?」
ふっと足元の力が抜け、その場に倒れ込む。まだ足が痛む。すると僕の頬に手が触れた。
「ごめんね。こんな事しちゃって……どうしても、話し合って欲しいんだ。死にたく、ないんでしょ?」
「う……うん、死にたくないよ……!」
正直に答えると、彼女は僕の頭を撫でた。
「……正直な子は好きだよ。さ、行こ?」
なんだか子供扱いされてる気がしたけど、不思議と悪い気がしなかった。
勇気を振り絞ってドアを開けると、さっきと同じ所にいたメリーが睨みつけていた。
「駄目だよ、そんな怖い顔しちゃ……私はメリーの可愛い顔の方が見たいな~?」
そう言われたメリーは真顔に戻った。今までメリーの事を可愛いなんて思った事は無かったけど、平凡な女性よりは顔は良いと思う。
「アランにも自己紹介しないとね。ここ、座って?」
言われた通りに木製の四つ足のテーブルの側に座る。向かいにはメリーが、僕から見て右側にはベージュ色の髪の女性が座っている。
「私はこのスラム街で、身寄りのない子供達を保護してるエルナ。私がベージュ色のロストを手にした経緯なんだけど……」
するとエルナは困ったような表情をしながら、続けて自分がロストの力を手に入れた道のりを話した。
「半年前に黄色の力を使う『ドミネーション』の一人が私の家を襲ってきたの。確か……自分の事を『処刑人』とかなんとか言ってた。私はクローゼットの中に隠れて、なんとか殺されずに済んだけど……外に出たら、私に親切に接してくれてたカズって人がめちゃくちゃに殺されてて……。その直後に泣き崩れてた私にロプトが、このベージュ色のロストを渡してくれたの」
エルナは腰のポケットからカプセルを取り出し、手に持ち丁寧に見せてくれた。
「そして……私たちを襲ったあいつを逆に襲って、殺そうとした。カズを殺したあいつは出来るだけ苦しめて殺そうとしたけど、ギリギリの所で川に逃げ込まれた。だけどその数時間後には、気づいたの。『復讐』なんてするもんじゃないって。私が殺そうとした人にも家族がいて、きっと、殺してしまったら私みたいに悲しむんだと思うと……耐えられなくなって……だから!」
唐突に僕の肩を掴み語りかけるエルナ。
「『復讐』なんて、しちゃ駄目だよ……?」
僕は何も反応しなかった。いや、顔色は変わっていたかもしれない。どんなに説得されようと、僕は復讐を止めるつもりはない。……思い返せば、父さんを殺した処刑人も黄色の髪をしていた。まさか、エルナが話した奴とは同一人物なのか?
『クリス、メリー。? 、フラン、? 、アラン』
父さんが遺したこのメモにも、何か関係のある人物なのか?
*
「遅かったですね。もう終わってしまいましたよ」
あの処刑人の、感情の無いような低い声が脳裏をよぎる。
罪状は僕達家族にも知らされなかった。あの処刑人を調べた途端に父さんは殺された。絶対、何か裏があるはずなんだ。僕は復讐を、してやる。
*
『そうだ、素直になれよ』
気づいたら、僕は真っ白な空間に立っていた。
「なんだ……ここ?」
真っ白で何もない、だが前に黄色い炎ようなものが現れた。
『よう~、アランくんよっ!』
炎のようなものから聞こえる声。やけに陽気だ。
『一言で言うと、ここはお前の頭の中みたいな所だ。んで今のお前はお前自身の意思。んで俺が……復讐の意思ってわけだ』
「僕の……頭の中?」
こいつは何を言っているんだと思った。きっと夢か何かだろう。
『普通の人間に言ってもわからないか……まあ、簡単な説明だけでもしておくか……お前ら人間が普段見てんのは、眼球を伝ってここに送られてくる風景だ。眼とここは繋がってて……人間の魂の核はここにある』
言っている事があまりよくわからないというのが率直なところだが、大人しく聞く事にした。
『俺もその魂の核だ。普通、人間には一つの魂がある。ただ、お前の中には二つの魂があるんだ』
「二つ? 僕とお前の魂か?」
『ああ。俺はカプセルから、お前の中に来た。覚えてるかぁ?』
記憶の中を漁る。ロプトに黒いカプセルを渡され、ラウザーに挿した事を思い出した。
「まさかあの時?」
『ご名答~。身体中に雷がほとばしっただろ?あの時に、俺が本格的ここに来たんだ。まあ、それが挿される以前にも、お前がアベルからラウザーを受け取った時点で、少なからず俺の意思はお前の中に潜り込んでたんだがな』
「……それで話は終わり? 適当にメリーとの話を終わらせたいんだけど」
そう言うと、さっきまでの部屋の光景が少しづつ見えてきた。崩れていく白い空間の中で、途切れ途切れだが声が聞こえる。
『俺のことは、シュウって呼んどけばいいさ』
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