第9話 復讐の意思 その8
「喰らえい! 私の一撃をぉぉぉ!!」
「くっ……! 避けられねえッ!」
カイザとザーシスの一騎打ちは5分程度続いた。ザーシスは上空へ一気に飛び、急降下する事でカイザの『欲望』で避ける事ができないほどのスピードで攻撃する。
「フッハハハ!! 何が『欲望』だ! いとも簡単に……なにっ!?」
余裕をかましていたザーシスの目に飛び込んできたのは、鉄のグローブによるパンチを当てたはずのカイザの腹部にあった、黒光りする甲虫の外皮だった。
「へっ……あと少しで本当にやられる所だったじゃねえか、ショア」
その外皮が伸びていた先には『野蟲化』し体が変化していたショアが立っていた。ザーシスが驚いていた隙を突き、ショアはカイザを引き寄せる。
「……周りを見てみなよ」
そう言われ素直に従ったザーシスは、またしても驚く事となった。いつのにか自身の周りに植物の結界が張られていたのだ。
「なんだと……!? この私が、気づいていなかっただと!?」
「当たり前だよ。この植物さん達には、このカメレオンさんのカプセルの力を使ったんだから」
ショアは見せつけるようにカプセルを振っている。間髪入れず、彼は次のカプセルを取り出した。
「これはハリネズミさんのカプセル。……これを植物さん達に挿すと、どうなると思う?」
「……まさかっ! この植物から一斉にハリがぁっ!?」
「その通り、だよ……!」
ショアが植物にカプセルを押し当てると同時に、アランとエルナがその場に駆けつけてきた。
「ボブ! 大丈夫……!?」
「はっ……もう終わりみたいだな」
倒れていたボブは安心しきっていた。このショアの攻撃で、ザーシスは死ぬと確信していた。
「いっけぇっ!」
ショアが叫んだ直後、ザーシスを取り囲む植物から一斉にハリが飛び散る。彼はその瞬間、目を瞑っていた。全てを悟っていたのか、はたまた現実から目を背けていたのか。
「やったか……!?」
ボブは小声で呟き、舞った砂煙を睨む。だが彼の目に飛び込んで来たのは、無傷のザーシスだった。
「姑息なマネをしおって……」
「な……!? あの攻撃を受けて無傷だと!?」
驚愕するボブを嘲笑うかのように、ザーシスは自身の周りに落ちたハリをプラプラと揺らしている。
「さて……ボブ、お前は知りすぎた。ここで死ね」
ザーシスがボブを睨みつけた瞬間、彼はハリをボブ目掛けて投げつけた。
「危ないっ!」
咄嗟にエルナが飛び出し、盾になろうとする。だがハリはエルナの胸を貫き、後ろにいたボブの心臓に突き刺さった。
「ガハッ……!」
彼自身、自分の身に何が起こったのか理解できていなかったようだった。直後に彼は倒れてしまう。
「ボブ! 今治すから……!」
「させるかあっ!」
動きが止まったエルナの顔をザーシスは思い切り殴り、吹き飛ばす事で彼女をボブから離れさせた。
「……届いて!」
飛ばされた直後だったがエルナは腕を伸ばし、なんとかボブの傷を直そうとするが、突如飛んできた無数の剣で彼女の腕は千切りキャベツのようになってしまった。
「しゅっ……足掻いても無駄ですよ?」
悔しそうな表情をするエルナに追い討ちをかけるように現れたのはフィシュナだった。そのまま彼女はショアに襲いかかる。
「キメラですか……。それに植物の能力もある……厄介ですね」
「褒められてるのか分からないけど……嬉しくないよ」
*
二人は戦い始めるが、アランはボブを心配し彼の下に駆け寄る。既にかなり出血していた。
「ボブ、大丈夫!?」
「大丈夫なわけ……ないだ、ろ……」
苦しそうな表情がさらに痛々しくなり、彼の口からは血が垂れる。アランはボブの肩に手を回し持ち上げ、ハリがどこにあるのか調べようとするも見つからない。
「ハハ……まさか、こんな所で死ぬのか……?」
「そんなネガティブな事、言わないでよ……!」
ハリはエルナを挟んだせいで勢いが弱まり、貫通せずボブの体の中に留まっている。思い切って傷口を覗いているが、小さすぎて中の様子などわからない。
「なあ……アラン。お前に伝えたい事がある……」
「え……?」
必死になっているアランに対し、ボブは死を悟ったように話す。
「お前には直接言いたくない事だ……詳しくは言わない。お前が、悲しむからな。いいか? 敵は想像以上に強大だ。その敵ってのは国だ。纏めているのは……この国の王、ファラリスだ! ……そして、アラン。お前とファラリスは、とても深い関係にある」
「ど、どういう事なの……!?」
「……言っただろ、お前が悲しむから、言いたくないって……ごめんな……! だけど、な。これだけは……お前に言っておきたい。この戦いは、ずっと前から起きてきた……だから、この悲しみの息の根を、止めてくれよ……! 頼む……!」
決死の思いで彼はアランに伝えた。だが、アランはそれどころでは無かった。ボブが死ぬかもしれないという心配だけがアランの心を曇らせていた。
「ねえ! ボブ……! ボブ……?」
アランはボブの体を揺さぶるが、彼は目を閉じ、応える事は無かった。
「あ、あああ、ああああ!!」
アランは泣き叫ぶ。たった数日、一緒にいただけだったが、数少ない理解者だった人間だ。悲しみに暮れるアラン、しかしこの瞬間を密かに待っていた者がいた。
「ああああああ!! っ……」
突然、アランが黙り込む。直後に彼は立ち上がったが、その時の彼はアランであってアランでは無かった。
「ふううう……! やっとこいつの心が変形したか……さあて、『復讐』の始まりだ」
アランの体を乗っ取ったのは誰か……それはこの俺、シュウだ。
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